【現地レポート】「共同利用施設」が支える地域農業とこの国の食料 JA秋田おばこ六郷CE(2)2025年3月28日
JAのカントリーエレベーター(CE)をはじめとした「共同利用施設」は、農産物の生産、集荷、保管、流通を支える重要な施設であり、まさに地域農業の核としての役割を果たすだけではなく、国民への食料の安定供給を担う必要不可欠なインフラである。ここでは改めてJAのCEが果たしている役割を現地で取材するとともに、多くの施設で老朽化が進んでいる実態と、その整備、更新に向けて動き出した政策の課題などを整理する
壁には「秋作業は団体戦!」のスローガン
「食品」を扱う施設
同JA営農経済部の坂本隆雄次長は「利用してくれる組合員のみなさんに親切に接しよう、そして同僚にも親切にしよう、という思いを込めています」と語る。
さらにこれら6Sの項目の下には「この施設は食品を扱うにふさわしい施設ですか?」との一文が記されている。こうしてCEに携わる職員たちに日々自問を促す。
坂本次長によると10年以上前から掲げられ「CEは食べ物を扱っている施設ということは当たり前という意識になっています」と胸を張る。
集出荷のピーク時には前述のように臨時職員を多数雇う。
そうした臨時職員に朝礼で強調するのは「みなさんは今日からJA秋田おばこの職員です」だという。職員として出荷者である組合員に接すると同時に、JAとして取引先や消費者に安心安全な食料を提供する仕事の一旦を担っていることをしっかり意識してもらうという。その意識で「団体戦」で集荷に当たる。
一方、職員については4月初めからJA全体で秋の荷受け体制を検討していくという。荷受け期間中、24時間体制で乾燥調製にあたるオペレーターは4人を配置する。荷受け調製日の設定はなく、雨天の日だけ当日に荷受けを中止するかを判断する。
坂本次長はCEの荷受けに「調製日を設けないのも組合員サービス」だとして集荷の向上をめざし、稼働率は90%を目標とする。
荷受けが始まると職員は、たとえば金融窓口の職員でも何人かはCEなど集荷施設で業務を支援する。その間、窓口担当者は少なくなるため負担が増えるが、JAトップは「秋はお祭りだ」と指示し、集荷には全員体制で臨んでいる。
CE担当職員には技術向上や事故防止のための研修にも力を入れ、設備メーカーなどが開催する研修会には積極的に参加させるようにしているほか、2カ月に1回は担当職員会議を開き、管理日誌の記入の注意事項の指導、確認など、米という「食品」の扱いを徹底している。
JAでは米のばら流通に力を入れており、管内では8割がばら集荷となっている。集荷された米は穀温や水分などを徹底的に管理していく。
「年間を通じて高品質の米を安定して供給する。それを目標にしています」と坂本次長は力を込める。
営農経済部の坂本隆雄次長(左)とオペレーターの武藤富士さん
進む施設の老朽化
CEはまさに地域の水田農業の核であり、国民への食の安定供給の拠点である。そのために「職員全員体制」でJA秋田おばこは出来秋の集荷に取り組んできた。
しかし、六郷CEは1998年の設置。メーカーによる定期的なメンテナスのほか修繕も行いながら機能を発揮してきた。また、担当職員自らも「自分たちで直せるものは直す」が、最近では職員だけでは対応できないことも増えているという。管内のCEは「昭和」の時代に設置されたものもあり老朽化が進んでいる。
JA全中の調査「JAグループ共同利用施設に関する現況調査」(2024年10月)によると、現在稼働している共同利用施設の約70%が30年前以上に設置されている。また、2029年までに現在稼働している施設の約75%が耐用年数を迎える。
この調査によれば今後5年以内(2024年~2029年)に更新・再編等の整備を予定している共同利用施設数は5366施設のうち、1636施設にのぼる。
共同利用施設の耐用年数を迎える年度別割合
このように共同利用施設の大部分が老朽化し、再編・更新が不可欠となっていることからJAグループは、24年度補正予算と25年度当初予算で共同利用施設の整備・更新にかかる予算を抜本的に拡充することを最重点要求の一つとした。
施設再編で持続性担保
その結果、24年度補正予算で「新基本計画実装・農業構造転換支援事業」として400億円、25年度当初予算で80億円が盛り込まれた。同事業は地域計画により明らかになった地域農業の将来像の実現に向けて、老朽化した共同利用施設の再編集約・合理化を支援するとしている。
近く閣議決定される食料安全保障の確保などを柱にした次期食料・農業・農村基本計画でも「サスティナブルな農業構造への転換に向けた具体的取り組み」のなかで「共同施設の合理化」が盛り込まれた。そこでは施設の老朽化を指摘し、「共同利用施設の再編集約・合理化を促進する」としている。こうした政策支援が動き出すことが求められている。
食料安全保障を確立するうえでも共同利用施設は重要だ。組合員とともに運営するJAの役割がいっそう期待されている。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日