JAの活動:JA 人と事業
【JA 人と事業】第5回 菅野孝志・福島県JA新ふくしま代表理事組合長に聞く2013年6月11日
・地域と農業再生、命とくらし守る
・人の手が入ってこその自然や環境
・JAが果たしてきた「公益」性
・“緑のプロジェクト”で地域再構築
・生活者の視点を忘れずに
「地域がよくなってくらしがよくなる」と、絶えず地域とそこにくらす人々のくらしに目を向けたJA事業を展開してきた福島県のJA新ふくしま。その真価は、はからずも原発事故とその復興の過程で発揮されている。
それをリードする菅野孝志組合長にその考えと取り組みを聞いた。
原発事故でJAの価値示す
◆地域と農業再生、命とくらし守る
――原発事故からの復興の過程で、協同組合の存在意義を強く感じたと話しておられました。どういうところでそう感じましたか。
ロッチデールの原則にもあるように、協同組合は人をベースにした民主的な運営に基づいた組織です。私たちが対象とする農業や農村の環境、風景は人の手が入ることによってその豊かさが増すものです。JA綱領の第1項で、「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」とうたっている通りです。
◆人の手が入ってこその自然や環境
だが、原発事故でこうした農業や自然の環境が壊されました。これを再生するのは機械や重機ではありません。人の手によって守られてきた農業や自然は、やはり人の力によってしか復興できないものです。豊かな土によってわれわれを育んできた農業、精神的な豊かさを与えてくれた自然の力とそのすばらしさは、それが失われそうになって特に痛感しています。その思いを組合員や地域の人々と共有しながら、未来に向けてよりよいものを作り上げていきたい。そういう気持ちで地域の農業再生に取り組んでいます。
農業は「食」によって私たちの命を守っています。経済成長優先の社会のなかで農業と人々の命とくらしを守ること。これに挑戦できるのは人の組織である農業協同組合だと思っています。昭和50年代以降、農業への魅力が薄らいでいるように見えます。しかし、人々の気持ちのベースには、日本の農業や自然、水の豊かさなど地域の資源を大切にしようという思いが本来的にあるのではないでしょうか。
――そうした人々の農業、自然に対する思いをJAではどのように受け止め、運営や事業に生かしていますか。
管内にも多くの若い人が農業に入ってきており、JAでも真剣に農業のことを考えている職員が多くいます。それに応えるためにも、JAは生産者が農業で所得を確保し生活ができるよう支援しなければなりません。
また震災のなかで、人には強弱いろいろあることを感じました。復興の取り組みのなかで、その人や考えを排斥することがあってはなりません。JAは地域やくらしをよくするため貢献をしたいという人すべてを包み込むことのできる器(うつわ)が求められます。JAはメンバーシップ制ですが、組合員以外の人との間に壁をつくらず、地域の人々の幸せづくりに貢献しなければならないということを最近、特に感じています。
◆JAが果たしてきた「公益」性
その意味で、JAは「共益」から「公益」へのスタンスの切り替えが必要ではないでしょうか。JAが実際やっていることは、単に組合員の利益のためではなく、食の安全を提供することで国民の命を守っているのですから。協同組合が教育文化活動を重視するのは、このためでもあるのです。また、カーブミラーの設置など、これまでJAがやってきたことは、まさにこうした公益のための活動であり、JAは自分たちの組織、活動のすばらしさを知らずにきたのではないでしょうか。
これから共益と公益をJA運営のなかできちんと整理して取り組むことが大事です。このことは、原発事故の対策でもそうですが、われわれJAは自分の組織が生き残ることだけを考えていては地域の理解が得られないということでもあります。地域のあらゆる組織や団体と一緒になって農業・地域の再建に取り組むことがいま求められているのではないでしょうか。
――具体的なJAの事業としてどのようなことに取り組んでいますか。
いま進めているのが、「福島市・川俣町地域農業再生機構」の設置です。いわば総合的な地域再生構想で、農業の担い手確保、水田を中心とした土地利用と農業生産法人等の育成、耕作放棄地の解消、果樹園の維持・再生、さらに小水力発電など再生可能エネルギーの活用などがあります。JA、行政、農業委員会、土地改良区、農業共済組合、生協などの関係組織・団体が加わり、「人・農地プラン」や「耕作放棄地対策」など利用可能なあらゆる国や県の事業を活用します。この事務局をJAが持ち、総合プロデュース型の事業として展開しようというものです。
◆“緑のプロジェクト”で地域再構築
私は“緑のプロジェクト”だと考えていますが、“黄金の海原”の黄金はセイタカアワダチソウであってはなりません。本当の黄金は、豊かな食を提供する米であるべきで、それによって成り立つ農業を確立することがプロジェクトの狙いです。特に農地の管理が重要だと考えていますが、借り手のいない農地について、JAは直接または間接的に農地集積円滑化団体の売買等を通じて、農業法人にあっせんするとともに、一定期間JAが直接管理することも検討しています。このため、果樹も含め遊休農地や一筆ごとの放射能汚染調査、さらには生産者の営農継続意欲などさまざまな角度から検討しているところです。こうした現場のデータをもとに具体性のある計画をもって国に提案して行くことが重要だと考えています。
――協同組合の理念・原則が、いままさに試されているということですね。40数年間、JA運営・事業に従事され、協同組合への思いを聞かせてください。
農家の跡取りですが、20歳で当時の松川町農協に入りました。当時、「ゆりかごから墓場まで」の理念で地域の人々の幸せづくりに取り組んでいた兵庫県の北阿萬農協や静岡県の三ヶ日町農協などの取り組み、あるいは宮沢賢治の本などで多くのことを学びました。そうした中で「社会全体が幸福にならなければ個人の幸福もない」ということを教えられました。自分1人でできなければみんなの知恵を借り、常に「みんなのくらしがよくするには地域をよくすることだ」という気持ちで臨んでいます。
◆生活者の視点を忘れずに
食農教育の活動で、子どもたちの安全に対する小学校の先生の気遣いに感心させられたことがあります。私たちも組合員や地域の利用者に対して同じように対応しているだろかと考えさせられました。生産者は同時に地域でくらす生活者であり、地域の人も生活者です。生活者のくらしをよくするのだという視点が必要です。JAの事業を現場で担う職員に対しては、思っているだけではだめ、思ったら行動し、農業・地域のためにJAはどうあるべきか常に問いかけるようにと働きかけています。
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