JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第12回 わが国の農村の構造の特質を解明するーJAの活動の原点にー2017年4月29日
ー「公」「共」「私」の思想とその実践の方向づけについてー
前回(第11回)の末尾で、飯島町営農センター設立総会における私の講演で「共益の追求を通して私益と公益の極大化をはかる」と話した、と書いたが、この言葉の持つ意味について十分な説明を欠いたため、その背景が判らなかったと思うので、この言葉の出てきた背景について若干の解説を行うとともに、海外諸国との比較も通してその意義について若干の解説を行っておきたい。
そもそも、この公・共・私という発想と理論がどういう背景で生まれたのかということから説き起こしておきたい。
(財)農政調査委員会という研究・調査機関が昭和36(1961)年に創設された。その創設者は(故)東畑四郎さんで、かつて農林省の名農林事務次官と尊敬され、また戦後の農地改革という大事業の事務局を統轄された方であり、私どもの先生であられた(故)東畑精一先生の実弟であった。
この東畑四郎さんの研究所に後で述べるように私は東京大学大学院を修了し就職事情の厳しい中で入れてもらったのであるが、その農政調査委員会で東畑四郎理事長のもとで「日本の農村の特質は他の国々と比べてどこにそのきわだった特質があるか」というテーマの研究会が持たれた。研究会の参加者は、いまはもはや故人となられたが当時はバリバリの論客で後世に残る論文、著書も数多く残されている、守田志郎、玉城哲、磯辺俊彦、三輪昌夫、中安定子、遠藤太郎、石川英夫などの方々であった。私など若輩は部屋の片隅で丁々発止の議論を聞きながらメモを取り、求められれば意見を述べるにとどまった。
7回ほどの討論を重ねるなかで、結論として出されたのが、日本の農村の基本的特質を世界の他の国々の農村と比較してみれば「欧米諸国は『公』・『私』という2セクター社会という特質を持つが、わが国は、『公』『共』『私』という3セクター社会というきわだったすぐれた特長を持っている」という結論になった。
この結論を踏まえたうえで、私は私なりにその後の農村の実態調査も重ねながら「共益の追求を通して、私益と公益の極大化をはかる」という方向を追求していくべきだと心に刻んだのであった。この考え方は、その後の私の全国にわたる農民塾活動でも展開し、また、JAのいろいろなレベルの会合などでも展開してきたが、多くの方々から賛同の声をいただいてきた。
他方、海外諸国へも調査や研究で出かけた折りに、それぞれの国々において、この点についての検証を試みてきた。
例えば、隣の中国へは前後50回ほど訪ね、講演はもちろん農村実態調査なども行い、また、中国や台湾の研究者あるいは教え子たちと論文や著書をまとめる仕事もしてきたが、中国では「我田引水」という行為にたびたび出会い、その農民たちをたびたびたしなめた経験がある。地域農民の共同利用を前提としたとしか考えられない溜池やクリークにおいて、周りの水田は干からびた状態にあるにもかかわらず、ポンプなどの機械力を持った農民が「我田引水」しているのにたびたび出会い、きびしくたしなめたが、その農民は「自分の田は自分で面倒をみるのが当たり前だ、他人のことは関係ない」と言い張ってゆずらなかった経験が再三あった。
アメリカ農村でも「我田引水」は当然のこととして認められていた。
東南アジア諸国もいろいろ訪ねたが、「共益の追求を通して私益と公益の極大化をはかる」という活動を行っていると思えたのは、インドネシアのバリ島のスバックぐらいだったと思うが、東南アジアではまだ部分的な調査しか行えていないので、そうだ!と断言することには自信が持てない。
いずれにしても、わが国では「我田引水」は、農村ではもっとも非難され排除されるべき理念として、また、行動規範として、これまで根づいてきたことは間違いない。
こうした歴史的経験をさらに高めて「共益の追求を通して、私益と公益の極大化をはかる」という思想と行動原理を実践してほしいと考えている。農協(JA)の活動の原点はここにあるのではなかろうか。
いま一つの提言も提示しておきたい。
私が、農政調査委員会に就職するにあたって、理事長である東畑四郎氏の面接があった。色々と質問されたあと、「では、しっかり研究・調査に励みたまえ」と合格の一言を頂いたあと、突如、次の一言を言われた。
"Boys,be aggressive!"。突然のことなので一瞬、"Boys,be ambitious!"ではなく、それをもじったものだとは思ったが、その時、瞬間的には真意は判らなかった。
"Boys,be ambitious!"とはいうまでもなく、あのクラーク先生が明治10年に札幌農学校を去るにあたって見送りに島松駅頭まできた学生たちに贈った言葉であった。「青年よ! 大志を抱け」と訳されてきた。
一瞬、ぽかんとしていると、東畑理事長はにこにこしながら「農林省の新人の入省式の訓辞に毎年言ってきたことだ。要するに先輩諸氏などのもっともらしい言辞などいちいち気にせずに、自ら信念をもって断乎やるべきことに全力をあげて突き進めということだ。君も研究、調査に全力をあげてくれ」と話された。この東畑さんの一言は、私なりに「青年よ! 積極果敢に実践せよ!」と訳している。
そして、この東畑四郎さんの一言を、各地の農民塾の皆さんや農林水産省の農業者大学校(今は廃校になったが)の新入生の記念講演などで毎年話してきたが、非常なインパクトを与えてきたように思う。JAの皆さん、特に次代を背負う若い職員の皆さんに、この言葉を贈りたいと思う。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日