JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第17回 真の地方創生を実現するために全力をあげて頑張ろう2017年6月3日
いま、政府により地方創生が盛んに叫ばれているが、地方創生を真に稔りあるものにするためには、明確な仮説とそれを実現するための手法と方法、そしてその実現に向けた主体的努力と多彩なネットワークの形成が不可欠である。
私が構想し提案する地方創生の骨格を一言で表現するならば、「5ポリス構想」とそれを実現するための多彩なネットワークの形成である。
では「5ポリス構想」とは何か(図参照)。
「ポリス(Polis)」とは、ギリシャ語源の都市、あるいは拠点ということを意味する言葉だが、「5ポリス構想」はそれを援用した私の造語である。そして、5ポリスとは「アグロ・ポリス」、「フード・ポリス」、「エコ・ポリス」、「メディコ・ポリス」、「カルチュア・ポリス」のことである。
このように、あえてなじみの薄い造語を用いたのは、これまで、地域活性化や農業・農村を対象に論じられてきた政策論や運動論あるいは構造論などを取り上げてみても、いずれの分野でも既成の用語や概念には特有の意味合いや背景が組み込まれていて、つまり手あかにまみれていることにかんがみ、まったく新しい視点と方法によって地方創生を考え実践するためには、新しい用語と考え方、ならびに実践路線を用意する必要があると考えたからである。要するに「新しい酒には新しい盃を!」ということである。
そこで、以下順に5ポリスの内実と目指すべき方法の基本スタンスを述べておこう。
「アグロ・ポリス」とは、いうまでもなく農業の拠点である。農業就業人口の減少、高齢化の急速な進展のなかで、旧来からの慣習にとらわれずにそれぞれの地域にふさわしい新しい地域農業再生の路線を構築しようという意図を込めてアグロ・ポリスを提起した。
集落営農の組織化、農地の地域の合意にもとづく効率的な集積を基盤にした法人化の推進(いわゆる二階建て方式の推進)、高齢者の技能・技術を生かした「大・小相補」の路線の強化、土地利用型部門の徹底的合理化と新たな集約部門の導入とその組み合わせ、「老中青婦」の新しい結合と組織化など、私がこれまで調査してきた先進地域の姿を集約すれば、ここに示したような路線がすすめられており、こういう新しい方向性を示すのが「アグロ・ポリス」の姿である。
「フード・ポリス」とは、多彩な農畜産物あるいは林産物、水産物の加工や直売所をはじめとする販売戦略の開発・推進・展開など、私が25年前に初めて全国に向けて提起した「農業6次産業化」の推進である。「地産・地食」を原点とするレストラン、食堂はもちろん、直売所活動も「地産・地消」の原点から、近年さらなる多彩な展開を見せ、消費者ファン、とくに都市のファンの求めに応じて「地産・都消」、その延長としての「地産・都商」へと多彩な進化をしている直売所、「道の駅」も増えてきている。さらに加工品も非常に多彩になり、伝統的な加工品はもちろん、現代風の多彩な食品加工品、さらには消費者の高齢化に対応して持ち運びの容易な、かつ保存や調理に簡便な果物・野菜などのドライ・フルーツ、ドライ・ベジタブルが非常な勢いで伸びてきている。ここでは若者の先端技術と高齢者の伝統技術の結合がポイントとなってきている。
「エコ・ポリス」とは、里地・里山の保全、農村景観の維持・修復、さらには豊かな水利・風力・太陽光などの自然資源の利活用を通じた現代にふさわしい生活・居住環境の整備、新しい時代にふさわしいグリーン・ツーリズムなどの実現である。都市から人びとが訪ねてみたい、さらには住んでみたいと思える農村景観と環境を農村につくろうではないか。また、立派な農家住宅を僅かな改良や手を加えて、都市の人びとに、あるいは次代を担う青少年の研修・宿泊施設に育て上げていくような活動も進めてほしい。
「メディコ・ポリス」とは、高齢化がすすむ農村に必要不可欠な医療・介護などの施設と人材、そのネットワーク、その拠点となるべき医療機関(病院、保健所等々)、さらには次世代を引き継ぐ保育のための組織、施設、人材とそのネットワークの整備はますます重要となってきている。私の調査の中では長野県の佐久総合病院を核としたそのネットワークとシステムに学ぶべきことが多いと考えている。
最後の「カルチュア・ポリス」とは、どの市町村あるいは集落においても存在する歴史的な神社仏閣、さらにそこにまつわる多彩な伝統芸能などの文化遺産、さらには都会にはない伝統技術、伝統芸能、たとえば世界文化遺産とされた紙すきの技術、さらに多彩な陶磁器にかかわる技術、各地の特色を活かした木工技術等々、数えあげていけば無数ともいえる技術あるいは技能、さらには各地で育まれてきたすばらしい食文化等々、多彩な文化を日本のどの農村地域でも長年にわたり育んできたその総体を指す概念として「カルチャア・ポリス」としたのである。それらに改めて現代の光をあてつつ、その伝統を将来に向けて生かす人材を都市からも迎え入れるとともに、新しい時代にふさわしい農村・都市交流の拠点をつくり上げる必要があるのではなかろうか。
あと一つ、つけ加えたいことがある。いま全国各地の農村で少子化時代の波の中で、廃校がきびしく進んでいる。とりわけ、小学校は誰にとっても「心の拠り所」だったはずである。私も全国にわたって廃校の実態とその再生の活動を調べてきているが、この「カルチュア・ポリス」の推進の中に廃校の新しい時代に向けた再生方策も取り入れていただきたいと切にお願いしておく。
「地域創生」に向け、正五角形を描いて地域を点検しよう
以上、5ポリスについて簡潔にその特徴を述べてきたが、この5つの要素のすべてに磨きをかけつつきらりと光る地域をいかにつくるか、これが私のーー「地方創生」ではなくーー「地域創生論」である(政府の言う「地方創生」は中央から見た上から目線であり、地域の主体性、内発力を等閑視する危険性を内包していることに注意する必要がある)。
農村のどの地域でも、この5ポリスとして私が提起した要素は必ず持っていると思う。しかし、これまで必ずしも十分に光があたらず磨きがかけられず、あるいはまた地域の皆さんが、それぞれの地域のもっているすぐれたところに気づかずに、意識的、主体的にその新しい方向を推進してこなかったのではなかろうか。
まずは、別図のように正五角形を描き、その各頂点にこの5ポリスを置き、その頂点を10点満点として、自らの地域は現状では何点か採点してみて、どのようにすれば10点に近づけることができるか、地域の各階層ーーたとえば地域の住民、農民の皆さん、地域のリーダーの皆さん、さらには市町村行政担当者や農協などの農業団体の皆さんに採点してもらうことから始めてみてはどうであろうか。それらを集計しつつ、地域創生のためには5ポリスのどの部分の充実に力を入れなければならないか、そのためにはいかなる改革や活動をしなければならないか、さらに国や地方行政組織はどの分野で何をなすべきか、を問いかけるなど、地域住民の皆さんの自主的、主体的な活動から、新たな地域創生は始まるのである。もちろん、地域の主体的活動のみではできにくいことは多い。そのために地方自治体ーー市町村や都道府県、さらには国は何をすべきか、あるいは何をしないほうがよいか、ということが明らかになるであろう。
こういう地域からの主体的活動のなかから真の地方創生=地域創生は可能となるのである。
参考文献:以上のことについて詳しく勉強したい方は、今村奈良臣『私の地方創生論』農山漁村文化協会刊 2015年3月を読んでいただきたい。
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