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JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと

第38回 牛の放牧により中山間地域の農業、林業、そして生活環境と景観のすべてを蘇らせよう―Making からGrowingへ2017年12月9日

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今村奈良臣・東京大学名誉教授

はじめに
 私は東京大学を定年退官後、1994年4月から2002年3月まで日本女子大学で研究・教育に携わることになった。その最後の頃、BSE(牛海綿状脳症)が激発し日本中が騒然となっていた。私はその頃、国の食料・農業・農村政策審議会の会長もつとめていたため多忙を極めていたが、その前後のことを想い出すとともに、放牧の路線こそがBSEを乗り超えるための基本だと盛り込んだ日本女子大学生への最終講義を想い出し、ここに紹介したい。

(1)Makingの時代―あふれ出る廃棄物と温暖化―

 女性の皆さんなら、どなたでもメーキャップ(make-up)ということはご存じだと思います。いうまでもなく、お化粧するということです。素顔の上に、人工的につくられたいろいろな化粧品で、きれいな魅力あふれる顔、形につくり(make)上げる(up)ということです。
 さて、話は一転しますが、人間はその生存のために数千年、数万年にわたって、営々と食べものはもちろん、着るもの、住む家、つまり衣・食・住の生産(Production)を行ってきました。そして、産業革命を転機に工業生産のめざましい発展が見られたことは、もはや説明するまでもないことです。
 さらに、20世紀に入ると工業文明は急速に発展し、重化学工業全盛の時代となりました。鉄鋼、機械、合成化学、さらに自動車、電機、IT産業というように、次々と時代を画する産業が展開してきました。そのなかで、私たちの生活はたいへん便利になり生活水準も向上してきたことは疑う余地もありません。
 しかし、一歩下がって考えてみると、鉄鉱石や石炭、石油といういろいろな資源を地球の地底から取り出し、高度に開発された科学技術を活用、駆使しながら、人工的に生産している姿であることがわかります。つまり、20世紀のProduction(生産)はMaking、要するに人工的にものをつくる時代であった、ということができると思います。しかし、工業生産がめざましい発展をみせ、また、私たちの生活が非常に向上し便利になった裏面では、多様な廃棄物がとめどもなくあふれ出し、Co2をはじめとするいろいろの目に見えない排出ガスなど廃棄物のあふれる時代になってきました。膨大な産業廃棄物はもちろん、家庭から出るゴミに至るまで、廃棄物が山をなし、地球をむしばむ排出ガズがじわじわと私たちの生活をおびやかしてきております。
 つまり、Makingという一本槍の方向だけでは21世紀の将来は展望の描けない暗い時代になっていくと私は考えています。
 人類社会が21世紀はもちろん、さらなる将来にわたって安定的に存続していくためには、現状を改め、自然生態系と調和したシステムに改革していかなくてはなりません。大量生産・大量廃棄(Making)のシステムを改め、省エネルギー、省資源の方向を明示し、廃棄物や排ガスの再資源化や適正処理に努め、環境負荷を低減する循環型社会の構築が必要であることは、これまでもつとに指摘されてきたことです。現在、問われていることは、自然生態系の環境許容量のなかに収めるために、これからの科学技術、産業構造、経済体制、社会組織、社会倫理などはいかなる方向と内容のものでなければならないのか、ということです。
 そのマスタープランとその実現のための具体策の策定と実行が緊急の課題とされています。

(2)Growing への思想の転換を―内から輝く美しい顔へ―

 こうした課題を包括的に捉えるためには、21世紀のこれからの時代はGrowingの考え方、思想に変えていかなければならないのでは、と私は考えています。
 Growingという言葉を辞書で引くと、「成長する」「育つ」「栽培する」などと出ていますが、私は「新しい生命を育て創造する」ということだと考えています。
 ところで、初めに述べたお化粧の話にもどると、外からべたべたお化粧品を塗って美しくなろうということを私は決して否定はしませんが、大事なことは、身体の中から磨き上げ、その結果として健康な内から光る美しい顔、形になってほしいということです。そのためには栄養のバランスのとれた食事をきちんととること、適切な運動をして健康的な身体を維持すること、知的好奇心をつねにかきたてつつ勉強を怠らないこと、生きるための仕事はもちろん、つねに意欲的に社会的活動を行うこと、といった日常生活のなかから人間としての、そして女性としての美しさがかもしだされるのではないかと考えています。
 たしかにMakingも大事ですが、しかし、それだけでは極めて不十分で、これからの時代は循環、共生、参加型の社会の創造を目指すGrowingの思想を、とくに諸君たちのような女性が先頭に立って伸ばしていかなければならない、と私はかたく信じています。

(3)BSE=牛海綿状脳症の激発への対策をいかに考え実践すべきか

 いま、皆さんを恐怖の底にたたき込んでいるBSEが激発しています。私も食料・農業・農村政策審議会会長という農政の責任者として講義の休講などもせざるをえない多忙の中で皆さんにも迷惑をかけざるをえませんでした。
 そこで、さきほどからの講義の続きとして、"MakingからGrowingへの転換"の課題をBSEとのかかわり合いで話を展開したいと思います。
 まず、乳牛のもつすぐれた機能の特質を取り上げて考えてみたいと思います。
乳牛は次のような7つのすぐれた特質を持っていると私は考えています。

(1)口は一生研ぐ必要のない自動草刈機
(2)あの長い首は食物を運ぶ自動式ベルトコンベアー
(3)4つある巨大な胃は人の食べられない草を貯め栄養素に変える食物倉庫
(4)内臓は栄養に富む牛乳を製造する精密生化学工場
(5)尻は貴重な有機質肥料製造工場
(6)脚は30~35度もある急傾斜地でも登り降りできる超高性能ブルドーザー
(7)ほぼ1年1産で子孫を増やす

 現代の日本の酪農はこれら7つのすぐれた乳牛のもつ機能を活かしているでしょうか。否です。これまで40年間に日本の酪農は急速に発展してきて、今やEU(欧州連合)をもしのぐ1戸当りの飼養規模になりましたが、その圧倒的多数は集約型の舎飼い方式です。膨大な飼料穀物を海外から輸入し、それをベースにした配合飼料に全面的に依存した酪農です。
 7つのすぐれた機能のうち活用しているのは、極言すればわずかに2つ、第4の牛乳製造工場と第7の子孫を増やす機能の2つのみです。本来の酪農のあり方は7つの機能すべてを活かした草地酪農、山地酪農だと私は考え、また説いて推進してきました。
 つまり、急速に発展した日本の酪農は、Makingの発想に立脚したものでありGrowingの思想に基盤を置いたものではありません。これがBSE発生の根源でもあり基本問題だと私は考えております。

(4)地域資源と環境を生かそう―牛の「舌刈り」を―
 日本は世界に冠たる草資源大国です。地域により若干の差はありますが、冬を除けば草は困るほど伸びてくれます。これを真に活かす酪農でなければならないと考えています。そのうえ、ここ10年来、耕作放棄地が増え、雑草が茂るにまかされているところが各地に出てきています。さらに里地、里山は荒れるにまかされています。
 乳牛の放牧という方式が無理なら、こうした荒廃地を和牛の繁殖、育成に活用するよう私は、とくに西日本地域を中心にすすめてまいりました。人の手による「下刈り」ではなく、牛の「舌刈り」で草資源を活用し、地域資源を活かしていくべきだと考えています。今では、牛が逃げないようにする電気牧柵には簡便なリード線が開発され、その電源にはポータブル式の太陽光発電機が使用されています。
 こうして牛を放牧していれば、猪や鹿などの作物を荒らす野生動物は出てこなくなり、景観を彩る景観動物にもなります。夏休み明けのキャンパスで、皆さんの「イギリスの湖水地方はよかった」「いやスイスの山々を眺めながらの牧場はよかった」という会話を私はたびたび耳にしてきましたが、それらの地方の景観もよかったのでしょうが、それ以上に、のんびり草を食べている牛や羊の群れという「景観動物」に多分、心を奪われたのではないかと、私は皆さんのにぎやかな会話を聞いていました。
 さて、横道にそれましたが、結論を急ぎましょう。
 世界に向かって農業、農村の多面的機能をわが国は主張していますが、それを主張する以上、環境と資源の保全のための具体的行動を継続的に起すよう努めなければなりません。そのためには、Makingの発想からGrowingの思想への転換が基本課題であると、私は話してきました。これは農業・農村にかかわることだけでなく、日本、いや世界のこれから進むべき基本方向であると考えています。どうか皆さん、この女子大学を終え、社会に出ていろいろの場面で活躍されることと思いますが、Growingの思想を胸に抱きつつ頑張っていただきたいと思います。私のつたない最終講義を聞いていただき、ありがとうございました。

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