JAの活動:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画
国民的キャンペーン展開し変化をチャンスに JAぎふ・岩佐哲司代表理事専務【シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画】2020年5月11日
新基本計画は産業政策・地域政策のバランスに優れているとの評価は多い。ただ、農産物価格は低迷し再生産が確保できる適正価格への消費者理解が、農業の持続には不可欠だ。JAぎふの岩佐哲司代表理事専務は、コロナ禍で食料の重要性に理解が進む今こそ、農産物の国民的キャンペーンを展開し変化をチャンスに転換する必要があると指摘する。

◆国民消費前提の自給率向上を
今回の食料・農業・農村基本計画は、基本法が掲げている4つの基本理念が盛り込まれ産業政策と地域政策がバランスよく書き込まれていると思う。認定農業者を重点的に支援するとともに、中小・家族農業など多様な経営体との連携にも付言されていることは、現場感覚に近づいた。
食料自給率では、食料国産率と言った新しい概念を打ち出し、分かりにくいという議論はあるものの、国内生産の状況を把握しやすくなり、農業者も張り合いが出る。
一方、腑に落ちない点を言えば、特徴の一つである輸出目標5兆円と飼料用米の目標引き下げだ。
「海外への販路拡大が国内生産の増大にもつながり、自給率の向上にも寄与する」とあるが、現状の輸出品の内訳をみても、輸出が増えても農家所得の増大、食料自給率に直結するとは考えにくい。輸出で自給率を向上させるより、自国民に食べてもらう政策を打って欲しい。
自給率が37%なら輸入は63%である。輸入なくして日本の食卓を守ることは不可能であることも事実である。輸入に対する考え方も打ち出すべきではないだろうか。
農業の持つ多面的機能の促進を行うのであれば、水田の維持は必須である。水田を維持するためには、米を作ることである。
主食用米の消費量が減少する中、需給バランス、価格の安定と自給率の向上を図るためには、飼料用米の生産拡大は必須である。今回の基本計画での飼料用米の生産努力目標の引き下げは、非常に残念である。
◆消費者の理解得て適正価格へ
地域農業も多くの問題を抱えている。米麦作では集積は進みつつあるが、集約はなかなか進んでいない。用水の制限により作業分散が難しい。園芸では、地域ぐるみでの畑作転換が進んでいない。(農水省が発表した水稲から園芸品目に転換する産地育成の支援策はなかなかよい)。
新規就農者は少しづつ増加しているが、中小家族経営の次世代、次次世代の就農は稀である。集落営農から法人へ移行が進み、域外からの法人への就労者も増加し地域農業との関わりが希薄化している。いろいろな課題があるが、最大の問題は農産物の価格の安さではないだろうか。
岐阜には長良川によって運ばれた砂壌土を利用した大根の産地がある。20年前の価格は130円/kgも珍しくなかったが、平成25年以降100円/kgを上回ったことがない。昨年は、ついに76円となってしまった。
この間、コストは増大し農家所得は減少している。消費量の減少(直近5年で2割減少)と輸入増が原因と思われるが、再生産価格の維持も難しい年が続いており、作付けをやめる農家も増加している。
こうした状況を多くの国民は知らないと思う。
厄介なのは、誰も儲けていないことである。農家は安値で出荷を強いられ、多くの農協の経済事業は赤字であり、スーパーも大儲けしているわけでもなく、飲食店も決して高いわけではない。欧米に旅行された人の多くは、ハンバーガーの値段の高さに驚くという。飲食費の価格の安さが農産物の安さにつながっているのではないだろうか。
農産物の現状を消費者に知ってもらい、理解いただくことが重要だ。農産物のコストは産地によっても違う。それぞれの産地ごとに、再生産価格を消費者に知ってもらうことが重要ではないかと思う。
「岐阜の大根は1本○○円が原価です」と発信すれば、日本の賢明な消費者は適正値段で買ってくれるのではないか。消費者の理解なくして農家所得も自給率向上もない。生産者と消費者との絆を強化すべきと思う。
農業や農協を取り巻く状況は、ますます厳しさを増していくことが想定されている。今こそ、どんな農村、農業を目指すのか明確にする必要がある。
◆ネット直販などの変化逃すな
JAぎふでは今年、地域を農業形態などで4つに分け、それぞれの地域ごとに農業ビジョンを作成した。農協は何ができるか真剣に考え、農業と地域づくりに携わる個人や団体と連携して、農業・地域の活性化を目指したい。目先の経済性に繋がらなくても、農業と地域を守り続ける農協になりたいと思う。
コロナ禍で学校給食が止まり、牛乳をはじめ農産物の行き場がなくなり、インバウンドの減少により牛肉や果物の需要が減少した。また、国民はいくつかの国で農産物の輸出制限がなされ、食料問題の重要性に気付いた。今こそJAグループは、国産農産物の国民的キャンペーンを展開すべきである。
ピンチはチャンスである。社会は変化しつつある。JAでもテレビ会議、在宅勤務が導入され、テレワーク化はますます進む。JAは、強みであるアナログに加えて顔の見えるICTを融合させ、組合員サービスを行わなければ未来はない。
生活様式の変化により、JAぎふの産直店売り上げは110%(大型店3店舗4月前年比)伸び、中でもインターネットからの野菜の直販は540%(4月前年比)の増加である。ネットからの注文を即日配達、生協等とのコラボ、地域の食をいかに守るか夢は拡がる。
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