JAの活動:農業協同組合研究会
【農業協同組合研究会】宮城県JAみやぎ登米 環境保全米 20年の挑戦2021年6月28日
JAみやぎ登米は約20年前から地域全体で環境保全米づくりに取り組み地域農業の持続を図ってきた。最近ではその取り組みをもとに米の輸出にも挑戦している。6月26日には農業協同組合研究会(谷口信和会長)の研究大会で同JAの佐々木衛常務理事が組合員とJAの挑戦を報告した。同JAが掲げてきた「環境保全米」とは何か。報告をレポートする。
地域の一体感取り戻せ
同JAは1998(平成10)年に合併。多くのJAと同様、組合員の結集力が課題となった。有数の米地帯だが、生産調整の拡大と米価の低迷が農家組合員を悩ませ、さらにしばしば冷害にも襲われた。
8000haを超える同JAが当時、元気な地域農業再生に向けた掲げたのが「米」での結集である。2002年JAは約8000人の出荷者を結集させる旗印として「環境保全米」を提唱する。「売れる米」づくりが叫ばれるなか、これからの米づくりの方向を地域から問い直したといえる。
その問い直しの1つが「農業=自然とは限らない」だった。農業は地域の自然を利用した自然産業であるというイメージを消費者は持っているかも知れない。しかし、実態は農薬や化学肥料の偏重で生態系への影響や湖沼の富栄養化なども問題になっていた。
そう考えると「売れる米づくり」とは、何も消費者や実需者が好む味や品質だけではなく、そもそもどんな米づくりがなされているかをマーケットは問うているともいえる。つまり、マーケットインの発想とは、そうした問いかけに応える米づくりということになる。 さらに産地としての取り組みであるなら、「点」ではなく「面」としてでなければならない。地域総参加型でなければ「元気な登米農業の再発進とはならない」と地域あげての運動を提唱したのも大きな特徴だった。
こうして地域全体の米づくりを減農薬や減化学肥料へと転換させる運動がスタートすることになったが、佐々木常務が改めて強調したのはJAみやぎ登米の米づくり運動は「環境保全農業」であって「環境保全型農業」ではないことだ。
「単なる農法としての、○○型農業をめざすという運動ではないことから『型』をつけていません」。
めざすのは生産者がこの地域の資源を生かし持続的に米づくりに取り組めるような「環境」を保全することであり、それは生活者にとっても生活環境を保全することになるという姿だった。
何を「保全」するのか
実際には「ひとめぼれ」を中心に、無農薬、無化学肥料での栽培する生産者もいるが、減農薬、減化学肥料栽培もあり、3タイプのメニューを示して生産、集荷、販売をしている。
これも特定の生産者だけではなく地域全体で取り組む運動を起こすことを重視したからだ。その運動とはいわば原点回帰である。農薬や化学肥料を否定はしないが、丈夫な子どもを育てるように次世代に農業を繋いでいくしっかりとした土づくりを重視しようということだった。それは何もハードルが高いことではなく、当時でも8割の生産者は有機質肥料を投入しており、それを増やそうとの呼びかけとなった。畜産も盛んな地域であり、結果として今後、耕畜連携という、日本の水田農業が追求していくべく姿を先取りして実現していくことにもなった。
農薬散布も「病害虫予防」の観点から防除プログラムが組まれていたが、それに対する減農薬の提唱は「これでまともに米ができるのか」と「JAの営農担当職員が抵抗勢力」となった。県中央会や全農県本部から「登米がそこまでしなくてもいいのでは」との声も届いたという。
昨今のJA改革で「意識改革」が強調されているが、JA登米の環境保全米運動は本来の営農指導とは何か再考を迫ることにもなった。
意識改革は生産者にとっても同様だった。手間のかかる米づくりをするのであれば、その対価はどうなるのか? という声が当然出る。しかし、運動を始めた当時、この問題への答えは「加算金はあとからついてくる」だった。
それはこの運動が「生産者と消費者との共生」を掲げていたからでもある。生産者が持続的な米づくりができる環境を保全しようと取り組む姿は必ず消費者にも届く。そこで評価が得られれば対価は得られる。すなわち、生活者とタッグを組むことが運動の継続性を生むということだった。
広がるネットワーク
全面的に運動を展開したのが2003年。この年、冷害に襲われ管内の作況は「69」となった。ところが以前から土づくりにこだわる環境保全農業に取り組んできた農家は被害を受けず、米が獲れた。これが運動に拍車をかけることになって、「たんぼ半分ぐらいはやってみるか」という生産者を増やしていった。
また先駆的に取り組んできたグループはみんなが参加できる栽培マネジメントシステムを作成したり、当初は運動に懐疑的ですらあった農業改良普及センターが土壌マップの作成を支援してくれようになった。
農業共済組合からは種子消毒を温湯消毒への切り換えるための機器の支援を受け、温湯消毒機をJAの支所などに導入し多くの生産者が利用することができるようになった。種子の消毒で農薬使用をやめることができたことが生産者の意識が大きく変わったきっかけとなり、環境保全米づくりに弾みをつけたという。
地域の住民とともに田んぼの生き物調査も始め、2007年には日本農業大賞(集団組織の部)を受賞したほか、15年にはいきものにぎわい活動コンテストで農林水産大臣賞を受賞する。取り組みの成果が評価さ「生産者もJA職員も。自分たちがやってきたことが認められたと喜びました」。
管内の水田面積約8000haで環境保全米が販売量に占める割合は2011年には90%を占めたが、令和2019年には77%となった。取り組みが低下した理由のひとつが離農とそれにともなう農地集積。現在は20年前の8000戸が4200戸となった。水田面積は同じだから1戸あたりの作業面積はほぼ倍となっている。作業の負担からどうしても除草剤に頼らざるを得ないほ場も出てきているのが実態で、農地の大規模化、担い手の集約という現実のなかで今後、環境保全米づくりをどう展開していくか、これも課題となってきた。
JAみやぎ登米 佐々木衛常務理事
輸出米 JAで2000t
消費者との共生を掲げた環境保全米の販売面では当初から宮城生協が関わって店舗などで組合員、利用者が購入していた。もう1つ大手米卸の(株)神明も取扱い、量販店での全国展開も図っていた。
その神明が2017年の年末、海外に進出させた回転寿司チェーンなどへの輸出米づくりをJAに要請した。JAはただちに協議し2018年産から輸出米づくりに取り組む。集落座談会では「産地は求められているものを作るべきではないか」と声が上がった。環境保全米への取り組みが伸び悩むだけでなく、日本全体とした米の消費が減退し、米の生産縮小が懸念されていた。
そうしたなかで海外の需要を取り込んで生産を維持するという新たな挑戦である。需要減による生産調整面積の増加で沈滞ムードも漂いかねないなか、産地交付金など政策支援も活用し環境保全米を輸出しようと初年度は235人、合計938tを輸出向けに出荷した。
輸出先は香港、米国、シンガポール。2020年には2000tを超え2021年産では3000tの輸出米の生産を計画している。単位JAとしては最大級の輸出量だ。生産者も474人へと増えた。
ただし課題は価格差で生産者の手取り確保には政策支援が欠かせない。ただ、同時に産地として輸出用品種として単収の多い「つきあかり」の作付けも増やしてきた。一方で輸出に関わっての佐々木常務の実感は「国外で産地間競争をしてていいのか」だ。産地の持続にはオールジャパンの輸出体制が必要だと強調する。
生産者が一丸となった環境保全米の取り組みは今、輸出への挑戦という新たな段階を迎えた。それは水田農業を維持していくためであり、飼料用米などへの作付け転換にも積極的に取り組んでいる。
佐々木常務は「自然環境と子どもたちの未来のために環境保全米づくりの輪を広げたい。守られた農地は都市にとっても大切な公共資産となる」と、「農法論」ではない環境保全米づくり運動の今後に力を込める。
【JAみやぎ登米】
○組合員数:1万5416人
○販売品取扱高:169億円(米穀80億円、畜産71億円、園芸18億円)
○購買品供給高:85億円○貯金:1429億円
○貸出金:330億円
○長期共済保有高:5281億円
○主食用水稲生産面積(出荷契約数量ベース):8287ha(ひとめぼれ、ササニシキ、つや姫、だて正夢、つきあかり
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