JAの活動:農協時論
【農協時論】食料安保は国内自給基本に 日本農業を本来の姿に 秋山豊・JA常陸組合長2022年11月15日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は茨城県のJA常陸組合長の秋山豊氏に寄稿してもらった。
JA常陸組合長 秋山豊氏
食料確保は米を中心に据えるべき
食料安全保障の論議が本格化している。コロナ不況による価格の低迷と肥料・資材の価格高騰に耐え、何とか生きている生産現場の一員として2、3提言をしたい。
一つ目に、戦争・災害・大凶作に備え食料をいかに確保するかと言えば、日本で最も生産力の高い米を中心に据えるべきである。
米の備蓄は29年前、1993年に起きた作況74と言う大凶作時に作られた備蓄制度により運営されている。米の年間消費量700万トンに対し備蓄米100万トンと各年の民間繰り越し米200万トン計300万トン、消費の半分であてがうというものである。しかし、戦争の長期化、異常気象の常態化を考えると国家備蓄で1000万トンの米は必要である。
米の潜在生産力は1200万トン、毎年のかん水により連作障害が無く明治以来の改良により食味、収量ともに世界一の生産力を持っている。その水田の4割500万トンが外圧によるパン食化、肉食化により麦、大豆、飼料用米等に転作されている。
今後は、毎年200万トンを劣化が少ないもみ米で農家備蓄等の現場で備蓄し5年後に供出。米粉、飼料用米、海外援助米とすべきである。自給率低下の最大の原因である畜産への飼料としての供給はもちろんの事、粉砕技術の向上で微粒子化が確立した米粉の食パン、麺類等への利用拡大に踏み切るべきである。製粉会社が抵抗していると言うが国策として協力すべきである。
タンパク質は牛乳、乳製品で賄うべき
二つ目は、炭水化物の備蓄を米を中心に行う一方、もう一つの柱であるタンパク質については、これも生産力が高く生産過剰となっている牛乳、乳製品で賄うべきである。加工原料乳の保証価格を引上げ経営体を維持拡大し、ヨーグルトへの保証範囲の拡大等により牛乳、チーズ、バター等の乳製品の消費を拡大すべきである。更に、不足する飼料については、約2割を捨てていると言われる食品ロスを飼料化するエコフィードを国、自治体が先導して作るべきである。また粗飼料として稲わらの結束流通を図るべきである。
更にタンパク源として、日本食、郷土食の中心でありながら自給率が7%、温暖化で生産量が世界的に不足する大豆について、国の交付金を引き上げ、耕作放棄地、ゴルフ場跡等において増産すべきである。
有機栽培の拡大 各自治体で再構築を
最後に、畑が60年に及ぶ除草剤と化学肥料の多投により微生物、菌類が減少し、化学肥料でさえ栄養素に分解できないほど痩せてきている。特に除草剤を入れ過ぎた耕作放棄地は2、3割の収量しか上がらない。農業は土を膿(う)ませる業であり、持続的生産力を維持するために、有機栽培の拡大を学校給食を基軸に各自治体で再構築すべきである。
東大の鈴木宣弘教授の資料では、戦後最初に農業基本法が策定された1961年では日本の農業生産のうち76%が国内産でほとんどが有機農業であった。初代基本法は米国の過剰農産物であった小麦、脱脂粉乳、大豆を受け入れ、消費の洋食化、肉食化を進めた。結果として米は過剰となり、麦、大豆、飼料は9割以上外国産、自給率は38%、有機農業は0・4%となった。
食料の確保は国際分業ではなく国内自給を基本に据え、子どもの体から国産の食文化を再構築し、日本農業を本来の姿、循環型農業に戻すべきである。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日