JAの活動:インタビューで綴る全農50年
【インタビューで綴る全農50年】飼料ひとすじ40年 全農グレイン創立起案 萩原荘平 元飼料部長2023年1月26日
畜産の拡大とともに飼料の需要も増えたが、そのほとんどは米国を中心とする輸入飼料だった。その役割を担ったのは全農で、元飼料部(現在畜産生産部)部長の萩原さんは、全購連に入会して以来一貫して飼料事業に関わってきた。特に輸入安定のため設立した穀物輸出基地の全農グレイン(株)は、飼料需給がひっ迫する今日、その存在価値を高めている。萩原さんは設立時から深く関わった。(聞き手は農協協会理事の坂田正通氏)。
萩原荘平 元飼料部長
疎開地で子ども心に農業を心配
――東京都内で生まれ、育った萩原さんが全農(全購連)に入ったのは、どのようなきっかけからですか。
東京は品川に生まれ品川で育ちました。小学生低学年のころ戦争で埼玉県の現在の鴻巣市に疎開していました。そこで始めて農村の生活を体験しましたが、疎開地が低地だったこともあり、大雨が降った時は田畑が冠水して大きな池のようになり、農業は大変なものだと、子ども心に心配したことを覚えています。また近くに軍需工場があったことから、大人の人が盛んに防空壕を掘っていた記憶があります。
終戦のときは少学3年生で玉音放送も聞きました。雑音でよく聞き取れませんでしたが、戦争に負けたことは分かりました。敗戦の不安でさまざまなデマが飛び交っていたことを覚えています。戦争が終わって家族とともに東京に戻り、当時でも難関といわれた私立麻布中学を受験し合格しました。同級生には後に総理大臣となる橋本龍太郎や作家の阿部譲二がいました。橋本さんは、とにかく剣道に熱心な気合いのよい生徒だったことが印象に残っています。
その後、北海道大学に進み農芸化学科で食品化学を専攻しました。それまで農協のことも全購連のこともほとんど知りませんでしたが、全購連が飼料会社を作るため技術系の職員を募集していたので、担当教授の勧めもあって応募しました。
国内外で奔走 米国では飼料用穀物の産地探し
――経歴をみると、エサの仕事が長かったようですね。
最初の勤務先は大学の専攻とは関係のない名古屋支所飼料部受渡課でした。なたね粕や大豆粕、ふすま(小麦の外皮)などを扱っていましたが、肥料部から独立して間もない部署だったこともあり、新人も超多忙でした。
飼料の需要が急増したころで、東洋一の規模を持つ川崎飼料工場が稼働し、北陸・東海の県担として各地を回りました。当時、輸送は鉄道でしたが貨車が不足し取り合いの状態でした。富山の県担のときには有名な「三八豪雪」に遭い、移動するのに苦労したことが思い出されます。当時、経済成長で物価がどんどん上がり、県担の主な仕事は値上げの説明でしたが、会場では人を集めるため演芸会のような催しも行っており、県担は歌謡ショーの審査員のようなこともやらされました。
その後、本所飼料部の時、ホクレンとのビートパルプ(砂糖大根の繊維質)の年間契約化、ペレット化など推進しました。タイトだった需給を緩和するための海外産の手当てにも取り組みました。昭和46(1971)年からアメリカ駐在となり、ニューヨーク、ロスアンゼルスで飼料用穀物の産地探しなどで奔走しました。
アルファルファ(牧草)の供給地を探すためにカナダの小麦産地で知られるウイ二ペグ近くに行ったときのことですが、車が脱輪し、真冬の大平原の国道で立往生したことがあります。めったに通らない車のライトがはるか遠方に見えたときは救われた思いをしました。
全農グレイン設立起案
本所に戻り、昭和50(1975)年から63年まで飼料部で主に原料輸入を扱ってきました。そのころ、毎年同じ事業計画案が出ることに疑問を感じていたので、なにか新機軸を打ち出せないものかと思っていました。当時、飼料の価格は米国の穀物メジャーや国内の商社との複雑な価格協定交渉があり、毎年、大変な思いをしていました。安定した価格で輸入を確保するには、他社に依頼するのではなく、全農みずから輸出港にエレベーターを持って、直接輸入する必要があると感じていました。そのことを当時の飼料部長(倉西)と課長(大沼)に提案しました。
昭和54年、プロジェクト推進の専門部署「全農グレイン㈱(ZGC)対策室」ができ、実現に向けてスタートを切りました。全農グレインは、設立以来、米国における全農グループの穀物輸出基地として世界最大級の船積み能力を持つ施設として強固な集荷・輸送・輸出の一環サプライチェーンを構築しています。2021年にはZGCの取扱量は2000万㌧の大台を超えました今日のような穀物需給のひっ迫は予想しませんでしたが、全農グレインは重要な役割を果たしており、設立時に関わった一人として感慨深いものがあります。
昭和56年からの畜産生産部穀物外為課長として穀物の購買と為替業務に専念しました。そのころ全農グレインは穀物の集荷に苦労していましたが、米国中西部で大きな穀物集荷力を持つ米国の穀物輸出会社のCGB社を買収したことから経営基盤が確立しました。同社の2021年の取扱量は2500万トンとなっています。
組合貿易社長だったニューヨーク時代はガット・ウルグアイラウンド交渉の山場で、米国の情報を求めて政府要人の来訪が相次ぎ、そのアテンドに追われました。当時の鹿野道彦農相など3回もアテンドしましたが、少しは米や牛肉の貿易交渉に役立てたかなと思っています。また米国で鉄板焼のレストランチェーンを創業したプロレスラーのロッキー青木と組んで和牛にPRをしたこともあります。当時、米国では神戸牛や松坂牛は知られていましたが、これを「wagyu」(わぎゅう)のブランドに統一したのもそのころです。
休地を活用してでも食料・飼料基盤確立を
――全農退職後はどうしていますか。
1994(平成6)年から退職までの4年は(株)飼料研究所の社長を勤め、生産設備の近代化を推進し、マイクロプラズマ肺炎用ワクチン(バイコバスター)の販売などに力を入れました。98年に退職してから25年になります。
振り返ってみると、緊張する場面も多くありましたが世界を駆けまわって面白い人生だったと思っています。今は俳句や囲碁を楽しんでいます。「惜しまれて我も消えたし遠花火」。NHK全国俳句大会の入選作ですが、いまはそんな心境ですね。
――1960(昭和35)年から、全購連、全農の飼料部、ニューヨーク駐在、ロスアンゼルス駐在,畜生部、そして88(昭和63)年米国全農組合貿易、そして94(平成6)年㈱科学飼料研究所と、一貫して飼料事業にかかわってきた一人として、今の世界的な食料・穀物需給のひっ迫をどのようにみますか。
遊休地を活用してでも食料・飼料基盤を確立する必要があります。今、飼料や肥料・燃油の価格が高騰して、生産者の経営が悪化していますが、生産コストを価格に反映できるようにしていただきたい。物価の優等生と言われた卵の価格がいま高騰していますが、生産者からみると、まだ十分な値上がりではないと思います。
【インタビューを終えて】
萩原さんがニューヨーク((株)zennoh-unico全農組合貿易)の社長だった時代に、私もスタッフとして一緒に働いた。30年経っても萩原さんの穏かな態度は変わらない。当時の社長秘書だったリンダさんから、今年の夏、観光で来日したいというメールが届いた。昔の全農ニューヨーク勤務者を集め、会食する計画もある。関係者みんなが萩原さんに協力するだろう。
萩原さんは東京生まれ。戦中戦後一時、埼玉県へ疎開したこともある。そして私立麻布高校から北大へ。元首相の橋本龍太郎や作家の阿部譲二(いずれも故人)とは高校の同級生。
都会っ子だった萩原さんは、一貫して全農エサ事業のみのキャリア。趣味は囲碁と俳句。NHK入選作「念仏を唱えるごとし冬の川」(萩原荘平)。全農に職を得て、苦しいこともあったが面白かったと述懐する。(坂田)
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