JAの活動:農協時論
【農協時論】2025国際協同組合年 「農協法」憂える 協同の原則再考 今尾和實・協同組合懇話会代表委員2024年4月12日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は協同組合懇話会代表委員の今尾和實氏に寄稿してもらった。
協同組合懇話会代表委員
今尾和實氏
国連の2025年を国際協同組合年とする決定は、2012年に引き続き世界の協同組合が環境問題、貧困・格差問題や食糧問題を含むSDGsという現代世界の共通課題解決に向けてその役割を果たしていく主力になると位置づけたからにほかならないと思う。
日本でも近年「労働者協同組合法」や「特定地域づくり事業協同組合制度」が整備されて協同組合の役割発揮が期待されてきました。その一方で2016年施行の改正農協法はどうだったでしょうか? 1995年のICAアイデンティティー声明と協同組合原則を無視した内容となっています。皆様ご存じの通り改正農協法のあらましは次の通りです。
①非営利原則の否定(事業目的の「営利を目的としてはならない」を削除し、「高い収益の実現と投資」という表現が入りました)
②協同組合自治運営原則の無視(農協役員構成に対する干渉、経営能力のあるものという要件を入れました。あたかも企業経営者を入れろと言っているようです)
③株式会社転換の組織変更を可能とした(単位組合、経済連、全農の株式会社転換)
④併せて全中の農協法からの除外
一言でいえば、「協同組合自治原則」を否定するとともに、組織形態として「株式会社が協同組合よりも優れているという」規制改革会議の価値観にリードされた法改正になっています。農協法を読んでも協同組合の理念は分かりません。が、このことは、1995年ICA原則見直しのバックグラウンドペーパーで警鐘が鳴らされていたわけです。
バックグラウンドペーパーは次の通り言っています。(日本協同組合学会編『21世紀の協同組合原則』より引用)
①市場経済は1970年から1995年の間、世界中で劇的にその影響力を拡大した。自由貿易地域が創設され、政府の農業支援の減少、金融業の規制緩和、超国家企業の法制度上の特典をもたらす一方、協同組合は投資家が支配する企業の方が優れているという国際メディアや教育機関と対峙させられた。これらに対し挑戦するビジョンを示す必要に迫られた。
②1990年代に入って、世界の人々の生存に関わる人口の急増、経済力の偏在、貧困サイクルの深化、民族紛争の激化などの課題が浮上してきた。来たるべく数十年においてこれらの課題は深刻化する。協同組合がそのような諸課題の解決に向けて大いに貢献することが出来る。(以下略)
日本では周回遅れの20年後に「協同組合より株式会社優位」の価値観に支配された農協法改正となりました。時代錯誤とも言えます。
全中の一般社団法人化については「准組合員利用規制強化」との二者択一を当時の政府から迫られ、准組合員利用を守るために全中は農協法の外に出ざるを得なかったという有力な見方があります。いずれにしてもこれらの経過を踏まえると2025国際協同組合年は日本の協同組合法制を国際潮流に適合するエポックとなるよう願います。
政府の規制改革見直しは岸田総理の「新しい資本主義」が自己破綻状態で期待できません。農協陣営でも農協法の見直し機運は残念ながら見られません。一方2012年の成果としてのJCA創設の今日的役割を考えると、わが国の協同組合陣営はJCAに結集し、協同組合の法制をICAアイデンティティー声明の協同組合原則に近づくための環境づくりに取り組むことが必要であると考えます。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日