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特集:創ろう食と農 地域とくらしを

2014.10.23 
農協がコミュニティの再構築を 田代洋一・大妻女子大学教授一覧へ

・日本そして農村安売り戦略
・地域格差を拡大する経済成長
・新たな「この国のかたち」に向けて
・コミュニティの再構築
・共益性と公共性

 「この国のかたち」の原像は、日本国憲法の国民主権、戦争放棄、基本的人権、地方分権に求められる。しかしもう一つ戦後日本を際立たせるものがある。それは協同組合の地域普遍的な存在である。戦前にも産業組合はあった。しかし加盟脱退の自由という国際標準をみたす協同組合の地域的遍在は「この国のかたち」の一部をなしている。

共益性と公益性の両方を追求

 

 いま、安倍政権は、日本国憲法に盛られた「この国のかたち」と農協の両方をもろともに潰そうとしている。つまり「この国のかたち」をめぐる攻防で、国民と農協は同じ立場にある。農協はマスコミにより国民から分断されがちであるが、この問題構造の自覚が大切である。

◆日本そして農村安売り戦略

田代洋一・大妻女子大学教授 安倍政権が否定するのは「戦後レジーム」だけではない。根底には戦前・戦中の日本の負の歴史を「なかったことにする」歴史修正主義があり、世界のひんしゅくを買っている。首相が、それらを、人の感情、情念に訴える「情念訴求型」政治として追求しているところに、日本の最大の危機がある。
 この情念訴求型政治の経済基盤づくりとして、アベノミクスが追求されている。しかしその「日本復興戦略」は「日本安売り戦略」「農村安売り戦略」に他ならない。
 異次元金融緩和で円安誘導しているが、輸出は一向に伸びず、円安による輸入食品、原材料の高騰で消費者や農業者を苦しめている。TPPの効果も政府試算では輸出より輸入が増える。円安は外資にとって日本資産を買いやすくする。
 安倍首相にとって「この国のかたち」とは「世界で企業がいちばん活動しやすい国」だが、それは規制を撤廃して国民の健康・安全・環境を多国籍企業に安く売り渡す戦略に他ならない。
 円安でも輸出が伸びない背景には、内需が冷え込むなかで企業の海外流出が続いていることがあげられる。その結果、産業空洞化、雇用とGDP(国内総生産)の喪失がもたらされる。
 そしてTPPは、日本を、多国籍企業の天国、何でも裁判に訴えるアメリカ型訴訟文化の国、「緑と水の豊かな和の国」から「骨肉相食む砂漠の国」に転換させてしまう。
 農村もまた安売りされる。中央会が一般社団法人化され、全農が株式会社化し、単協理事の過半も地域代表でなくなれば、農協は系統からも地域からも切り離されて、単独で大競争に立ち向かわなければならない。そこに多国籍企業がやってきて「自分の傘下に入ればもうかるよ」とささやく。これが「農業・農村所得倍増戦略」だが、その実態は「農村安売り戦略」である。
 農村安売りは2014年産米価の概算金水準が60kg9000円台〜7000円台へ下落している点にも現れている。2012年産の全入生産費は1.6万円弱、物財費だけで9600円、関税ゼロになった場合に輸入される米国産米は政府試算でも7000円(卸価格)だから、概算金は輸入価格並みで、全入生産費の半分、物財費を償うのみである。「補填してほしかったらナラシ政策に入れ」と農水大臣は言うが、それには担い手要件があるから、低米価の脅しによる選別政策の押しつけに他ならない。
 下落の背景には、生産調整政策の廃止予告、低米価によるTPPの軟着陸作戦がある。つまり国の政策が叩き売りを強いている。
 財界は、農業「改革」を通じて5年以内に企業が農地の所有権を取得できることをめざしている。農地価格は今や10a当たり20〜30万円台がめずらしくない。タダでいいから農地を引き取ってくれと言う農家も出はじめた。企業にとっては農地は金融資産として安い買い物になりつつある。

(写真)
田代洋一・大妻女子大学教授

 

◆地域格差を拡大する経済成長

 安倍政権は経済成長至上主義だが、経済成長は今日の地域構造の下では地域格差を拡大するだけである。1950〜60年代の高度成長は太平洋ベルト地帯をつくった。1980年代半ば以降のグローバル化・金融経済化は首都圏一極集中をもたらした。こうして「首都圏―太平洋ベルト地帯―その他の過疎地域」の3層構造ができあがってしまった後では、経済成長が起こっても、それは前二者の域内にとどまり、その他の地域には及ばず、地域格差を拡大するのみである。
 そこで安倍政権はにわかに「地方創生」を強調しだした。その本音は統一地方選等を控えて地方の集票基盤にテコ入れすることだろう。しかし農外企業を農業・農村に呼び込み、農協を、経済事業に特化した営利追求的な組織に変え、地域住民向けの事業を農協から切り離す農協「改革」の押しつけでは、「地域創生」の担い手がいなくなってしまう。「地域も企業にお任せ」という腹だが、企業は地域をつまみ食いし、食い捨てするだけである。

 

◆新たな「この国のかたち」に向けて

 「この国のかたち」が創られた時と比べると、日本は大きく変わった。なかでも少子高齢化、情報化、グローバル化が大きい。「この国のかたち」のバージョンアップが必要である。
 まず経済成長至上主義ではなく持続可能性を追求する。経済成長、利益追求には株式会社が最もふさわしい企業形態であり、農協も株式会社になった方がいいとされる。しかし環境に配慮した持続可能性の追求には、利益よりも相互扶助を目的とする協同組合等の多様な企業形態が必要である。
 持続可能な社会とは、「誰もがその望むところに生きられる社会」である。情報化社会は、一極集中による集積利益の追求ではなく、それぞれの地域に分散定住しつつ、それをコンピュータでつなぐネットワークによる持続可能な社会を可能にした。青年の農村回帰はその先ぶれである。
 最近ではおばあさんが道端にチョコンと腰かけている姿をよくみかける。「いたるところにベンチがある街」、これがこれからの町づくりである。農山村に定住しても買い物難民化しないためには、生活インフラを確保してくれる協同組合の活動が不可欠である。

 

◆コミュニティの再構築

 日本は、高度成長の成果を日の当たらない部分にも所得再配分してきた。かつての食管制度に基づく全国一律の政府米価や公共投資も、このような所得再配分の一つのあり方だった。それは「国」を一つの大きなコミュニティに見立てた相互扶助のシステムである。
 今日、これ以上の地域格差の拡大を防いでいるのも、社会保障費や社会保障給付を通じる所得再配分機能である。しかるに安倍政権は、この所得再配分機能を極端に嫌う。
 少子化を防いでも、その効果が現れるのは30年先ともいわれる。ならば30年先の持続可能な経済成長をめざして、今、投資をする必要がある。それは子育て、教育への投資である。地域格差、階層格差が極まってしまった今日、そのためには、所得再配分による相互扶助のシステム形成が不可欠である。
 相互扶助システムは、それを共通目標とする何らかのコミュニティを前提とする。コミュニティにはコンピュータを通じたバーチャル・コミュニティもあるが、流動的で無責任になりやすい。コミュニティは新規参入者も含め何らかの地域定住性を必要とする。

 

◆共益性と公共性

 農協はそういう農村定住者のコミュニティのひとつとして、農業者の共益を追求しつつ、同時に地域社会のみんな(准組合員、員外者を含む)に開かれた、みんなのための農村インフラ、ライフラインとしての存在感を高める必要がある。「みんなのため」を「公共性」とするなら、農協は、農業者のための共益性とみんなのための公共性の両方をバランスよく追求していく必要がある。それが、「この国のかたち」のなかにしかるべき位置を占める道である。

 

(特集目次は下記リンクより)

【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する

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