JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
【提言】農業は面白く魅力あるもの 妥協せず 農業・農村を守る 哲学者・内山節氏2015年10月5日
資本主義が発生してから以降の経済史を振り返ると、資本主義の内部にはたえずふたつの考え方の対立があったことがわかる。そのひとつはすべてを市場にゆだねていこうという自由放任主義、今日的にいえば市場原理主義的な考え方であり、もうひとつは国家や市民、協同組合、労働組合などが一定の力をもつことによって市場経済が生みだす問題点を是正していかないと、経済も社会も荒廃していくという考え方であった。
この考え方の対立の奥には、経済は何のためにあるのかをめぐる思想の違いがあった。経済が発展すれはすべてのことはうまくいく、ゆえに経済活動の自由を保障することが何よりも大事だと前者の人びとは思っていたのに対して、後者の人びとは経済はよりよい社会をつくるための道具だと考えていた。私たちの目的は、持続的な社会、みんなが暮らせる社会、自分の仕事に誇りをもちながらに生きることのできる社会をつくることにあるのであり、そのためには経済はどうあったらよいのかを考える。それが後者の人びとの思想だった。
◆矛盾に満ちた市場原理主義
今日とは、市場原理主義が世界を席巻している時代である。なぜそのような意見が強いのかといえば、金融が大きな力をもっているからである。その金融も古典的な銀行業務から投資的な金融に移ってきた。この金融が自由に活動できるようにしようとすると、それを阻害するさまざまな規制や仕組みが邪魔になってきた。投機的な活動はお金の移動にすぎないから、地域や人間の問題はどうでもいいのである。
だがそれは矛盾に満ちたものでもある。たとえば現在のTPP交渉をみても、すべての貿易を自由化しようといいながら、アメリカ自身が自国産業を守るための関税の維持を譲ろうとしない。すべてを市場にゆだねるだけでは自国の社会が維持できないのである。
そのことにも現されているように、市場原理主義は必ず限界に突き当たる。それだけを推し進めれば社会は荒廃してしまうし、社会にとっては必要でも市場の論理だけではうまくいかない産業が崩壊してしまうからである。いずれ世界は自由放任を放棄するときがくるだろう。
◆組合員・地域とともに生きる
そういう展望をもちながら、農業協同組合は自分たちの原点を守りつづけることが大事なのだと私は思っている。組合員がともに生きる世界を守りつづけること、地域を守る農協でありつづけること、作物の生産をとおして広く連帯していける農協であること。すなわち今日の市場原理主義の動きと妥協することなく、農業や農村を守ることがこの社会を守ることだという活動を維持しつづけることが、何よりも大事なのである。
◆自然と共生し農村を支える
もちろんいまの農協には自己改革すべき課題もあるだろう。だが、そもそも農協の存在を快く思っていない人たちと妥協するかたちで改革などする必要はない。それよりも地域で農業、農村を守ろうとしている人たちの意見をよく聞くことの方が大事だ。農業、農村の現場の意見を聞きながら、それを取り入れていくことが農協改革である。
農業は他の産業にはないいくつかの特徴をもっている。第一にそれは、自然との共同作業として成り立っている。第二に農村に支えられ、農村を支える産業であること、つまり生産物はどこにでも販売できるが、それを生みだす過程は農村のなかにしかありえない。農業には地域や自然との協同が必要なのであり、その意味では根源的に協同組合的産業だといってもよい。
さらに第三に上げられるのは、農業はすべての人びととの「つながり」とともにあるということである。生産物はあらゆる人たちの食卓を支えていく。そればかりでなく、農村が存在すること自体が、すべての人たちにとって大事な価値だといってもよい。とりわけ日本では一歩都市をでれば農村地帯が広がり、そのことが日本的精神を育んできた。とともに第四に、日本の伝統文化といわれるものの大半が農村で生まれたものだということも、忘れてはならないだろう。寺社の行事や今日なお消えてはいない日本的な自然信仰といったものも、農村とともに生きた人びとが定着させてきたものである。農業は経済的価値だけでは計れないさまざまなものを生みだしながら、日本の社会の基盤を支えてきた。
そして現在の人びとが農業や農村に求めているものは、これらのことを含めているのだと私は思っている。もちろん食料の生産は大事だけれど、それがすべてではない。自然とともに生きる社会、人びとが結び合って生きる社会、さまざまな伝統文化を保存させている社会。今日の人びとは、いわば日本的な社会の原点を農業や農村のなかに感じとりはじめているのである。
とすれば農民や農村社会は、ときには日本文化に関心をもつ外国の人びとを含めて、もっと多くの人びとと連帯できるはずだ。そして、そういう新しい連帯社会をつくることも、農協が大胆に動いてこそ可能なのだと私は思っている。
◆千、二千年も変わらぬ農業
現在、このままでは日本農業はダメになるとか、農村も農協も改革しなければいけないと主張している人たちの顔ぶれを見ると、農業の長い歴史からみれば、昨日、今日生まれた産業を基盤にしてものを考えている人が多い。その多くは数十年後にはこの世に存在しているのかどうかもわからないものだ。にもかかわらず、そういう人たちの意見がまるで正義であるかのように流通しているのが今日でもあるが、そんなものに振り回される必要はない。縄文後期からの歴史をもっているのが日本の農業であり、農村なのである。そして、千年後も二千年後も維持されていかなければいけないのが、農業、農村なのである。
とすれば、「今日の情勢」などに惑わされることなく農業、農村の価値を守っていく必要があり、それを守ることに意義を感じている人たちとの連帯を広げていくことこそが現在の農業協同組合の役割だといってもいい。
◆古老に学んだ継続する価値
私は群馬県の山村、上野村と東京とを往復する生活を四十年間つづけてきた。この村に行きはじめた頃、一人の村のおじいさんと立ち話になったことがあった。その人が私に「おい、農業は何でつづいてきたかわかるか」と聞いた。突然そんな質問をされた私は困って「誰かが食料をつくらなければいけないし」というようなことを言った。と、そのおじいさんは「哲学を勉強しているわりには頭が悪いな」といいながら楽しそうに笑ってこんなふうに答えた。「農業は面白いからつづいてきたんだよ」
「農業をやめる機会は、いつの時代でもあったんだよ」と彼は言った。もちろん昔はいまほど簡単にやめることはできなかったけれど、決意すれば不可能なことではなかった。しかし、やめずにつづけてきた。それは農業が面白く、つづけるだけの魅力のあるものだったからだ、ということである。
農協が守らなければいけないのは、この世界である。
(写真)JA横浜では組合員の健康増進や親睦を図るため、絆を強める支店体育祭が行われている。(写真提供:JA横浜)
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(2)病理検査で家畜を守る 研究開発室 中村素直さん2025年9月17日
-
9月最需要期の生乳需給 北海道増産で混乱回避2025年9月17日
-
営農指導員 経営分析でスキルアップ JA上伊那【JA営農・経済フォーラム】(2)2025年9月17日
-
能登に一度は行きまっし 【小松泰信・地方の眼力】2025年9月17日
-
【石破首相退陣に思う】しがらみ断ち切るには野党と協力を 日本維新の会 池畑浩太朗衆議院議員2025年9月17日
-
米価 5kg4000円台に 13週ぶり2025年9月17日
-
飼料用米、WCS用稲、飼料作物の生産・利用に関するアンケート実施 農水省2025年9月17日
-
「第11回全国小学生一輪車大会」に協賛「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年9月17日
-
みやぎの新米販売開始セレモニー プレゼントキャンペーンも実施 JA全農みやぎ2025年9月17日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」ダイニング札幌ステラプレイスで北海道産食材の料理を堪能 JAタウン2025年9月17日
-
JAグループ「実りの秋!国消国産 JA直売所キャンペーン2025」10月スタート2025年9月17日
-
【消費者の目・花ちゃん】スマホ置く余裕を2025年9月17日
-
日越農業協力対話官民フォーラムに参加 農業環境研究所と覚書を締結 Green Carbon2025年9月17日
-
安全性検査クリアの農業機械 1機種8型式を公表 農研機構2025年9月17日
-
生乳によるまろやかな味わい「農協 生乳たっぷり」コーヒーミルクといちごミルク新発売 協同乳業2025年9月17日
-
【役員人事】マルトモ(10月1日付)2025年9月17日
-
無人自動運転コンバイン、農業食料工学会「開発特別賞」を受賞 クボタ2025年9月17日
-
厄介な雑草に対処 栽培アシストAIに「雑草画像診断」追加 AgriweB2025年9月17日
-
「果房 メロンとロマン」秋の新作パフェ&デリパフェが登場 青森県つがる市2025年9月17日
-
木南晴夏セレクト冷凍パンも販売「パンフェス in ららぽーと横浜2025」に初出店 パンフォーユー2025年9月17日