JAの活動:第27回JA全国大会特集 今、農業協同組合がめざすこと
【JAトップインタビュー】総合農協だからこそ実現できた梅栗運動2015年10月20日
大分大山町農協・矢羽田正豪組合長
「梅栗植えてハワイへ行こう」のキャッチフレーズの村おこしで知られる大分大山町農協は山間地で農地は狭い。「条件に恵まれていないからこそ、地域に密着して大山流の農協運営を考えてきた」と矢羽田正豪組合長。改めて同農協がめざしてきたことを聞いた。
◆地域見つめて発想を大転換
大山町農協は正組合員戸数575戸(27年3月末)。地域は標高100mから500mにあり耕作地は320haしかない。1戸あたり40a程度だ。
「条件に恵まれていないからこそ、地域に密着しどういう農業をすべきかを考えなければならないと気づき、先人が情熱を傾けてきた。それを継続していくということだと思っています」。
先人とは第3代組合長の矢幡治美氏である。昭和36年、「梅栗植えてハワイへ行こう」のキャッチフレーズで村の農業構造改革を進める。これは第1次NPC運動と位置づけられている。New Plum and Chestnutsの頭文字をとったものだが、まさに「梅栗植えて」農家経済の立て直しを図ろうとした運動で「働く願い」が込められているという。「それまでは米や雑穀など、種を播いて収穫する農業でした。しかし農地は狭いから、土地収益性の追求へ転換しようということです」。
当時はまだ全国で米の増収が目標とされていたころ。田に梅や栗を植えることには抵抗があった。
「明治生まれと牛は追放しよう、と矢幡組合長は提唱した。自分も明治最後の年の生まれでしたから、若い人のために一歩下がろうという意味だったということです」。
牛の追放とは山間地での牛の飼養が重労働だから。労働条件の改善にも積極的に取り組み、快適労働への転換もめざした。
梅と栗に始まって、すもも、ブドウ、ゆずへと品目は広がり果樹産地としての地位も確立していく。さらに天候に左右されない農業生産にも取り組む。
「牛を追放したことで農家の納屋が空きました。そこで考えたのがきのこ栽培。当時、これは納屋産業だと言っていました」。
きのこ栽培を始めたのは昭和48年。矢羽田氏が新たにしめじ茸の周年ビン栽培工場を立ち上げた。特徴は農協の施設を本工場、農家の納屋を分工場とした仕組みだ。本工場で菌を培養し、分工場の農家で栽培する。
農家は30日間栽培できて毎日出荷して収入が得られる。年間で10回転できるし、また、狭い納屋でも棚を5段にすれば5倍の生産量になる。
「農地の広さではなく高さとスピード、さらに回転率の追求です」。
さらに矢幡組合長は当時、ムカデ農業の必要性を農家に説いて回っていたという。
「ムカデは百本の足を動かして前に進んでいる。1本や2本、足が欠けても前に進めるだろう、と。少量多品目生産と高付加価値化の必要性をこんな言葉で説明していました」。
今では販売高1億円を超える品目が9品目を超えたという。さらにサトイモのパック詰め、梅干し製造、ゆずこしょうなど食品加工にもいち早く取り組み、6次産業化の先駆けの農村となった。
◆異文化知る「ハワイへ行こう」
農協は昭和40年からは第2次NPC運動に取り組んでいた。このときのNPCはNeo Personality Combination。新しい人格の結合体をめざそうという運動で、豊かな人づくり運動であり、そのための「学ぶ願い」が込められている。それを象徴しているのが「ハワイへ行こう」である。すなわち体験学習の旅である。
「行ったことのない国を訪ねて食を含め異文化に驚いたりする出会いの旅です。新しい農業をするには知恵がいる。その知恵を出すためには新しい知識の積み重ねがいる。そう考えて現在まで続けてきました」
第1回は昭和43年。「費用は金融部が貸せばいい」とまず農協がすべて支払い、5年間で返済する。いわば無利子の旅行ローンで、農家は年に2回、春と秋の農産物代金のなかから返済することを約束する。この仕組みによって多くの人が気軽に旅に参加できた。パスポートを持っている町民が70%。海外旅行する人が世界でいちばん多いムラだといわれている。
こうした体験旅行がきっかけとなって新しい作物へのチャレンジも生まれた。クレソンやハーブの栽培は青年農業者たちの体験旅行がもとになってスタートしたという。
周年きのこ栽培で農協の施設を本工場、農家を分工場とする仕組みもイスラエルのキブツへの研修で思いついた。「農家が自己完結的にきのこ栽培を確立しているような地域であったなら、思いつかなかったでしょう。私たちは弱い農家が集まって、どうすれば収益を上げられるかを課題としていました。本当の協同の精神を学んだと思います」。 体験学習の旅とは、この地域で農業を続けていくため、その時代にあった知恵を得ることだった。それを支援している農協の金融事業は地域を担う人々の潜在力を引き出す役割を発揮しているといえる。そこに農協の総合事業の意義が明確に示されている。
◆管外主力に直売所展開
同農協は昭和36年の「梅栗運動」以来、10数年ごとに新機軸を打ち出してきた。前述のように天候に左右されない菌茸類の施設栽培と食品加工を始めたのが昭和48年のことである。
そして、その10数年後にあたる平成2年には農産物直売所「木の花ガルテン」を開店した。市場流通ではどうしても量販店など小売りの力が強い。収益率の高い農業をどう作るかを考えて直売に乗り出した。その後、大分市、福岡市など現在は9店舗を運営している。直売所をJA管内以外に出店する取り組みも先駆けとなっている。町内の木の花ガルテンの集出荷所に農家が運搬した農産物は毎朝、他地域の店舗にも配送されている。
さらに10年後の平成13年にはビュッフェスタイルの農家もてなし料理レストランも直売所に併設した。このレストランも大分市と福岡市に出店している。
◆強い信頼で集荷99%に
それからさらに10数年後の今年3月、農業者のテーマパーク「五馬媛(いつまひめ)の里」がオープンした。隣町の里山25haを買い取り、6年前から農協役職員の手によって整備を進めてきた。杉を伐採し梅、椿、桃、桜などを植えた。5年もすれば季節ごとの花が咲く桃源郷のような里山になると期待されている。農協は水田も管理し古代米を作付け、収穫祭も行う。
「大山町に来てくれる消費者は増えた。心を癒す居心地のいい場所を提供することで農村をさらに理解してもらう。若い人たちが農業を引き継いでいく夢や希望にもなればと考えています」
NPC運動は昭和44年からの第3次運動もあった。これは住みよい環境づくり運動である(NPC=New Paradise Commnnity)。大山に住む人々がより豊かに楽しく暮らすためのコミュニティ活動などにも力を入れる。
「かつて矢幡組合長から1次から3次までの運動に終わりはないと言われました。1次から3次までラセン階段を上るように繰り返し繰り返し運動を続けていくということです」
その基本は「農家のためにどう活動するか」だという。「われわれは今も年1回36集落で座談会を開き車座になって話し合います。定例の理事会後は組合員との絆を深めるため、午後から役職員が作業着に着替えて、農協の工場でつくっているたい肥を農家と一緒になって散布します。町内で生産された農産物の99%は農協が集出荷していますが、組合員との間に強い信頼関係があるからだと思います。
それに応えるにはトップが明確に進む方向を指差さなければなりません。それも高ければ高いほどいいと思います」。
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