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2019.02.28 
【インタビュー 太田昇・真庭市長(岡山県)】SDGs未来都市真庭市の取り組みと農業協同組合への期待一覧へ

・聞き手:小松泰信 岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授

 岡山県真庭市は、2005(平成17)年3月31日、真庭郡勝山町、落合町、湯原町、久世町、美甘村、川上村、八束村、中和村、上房郡北房町の9町村が合併して誕生した。まもなく合併してから14年となる。旧町村の特長を生かした広域行政を推進し、「ひとつの真庭」として合併効果を生み出しつつある。もちろん、中山間地域として、人口減少と高齢化や公共施設の統廃合等の課題もある。しかし、2018(平成30)年6月15日には、永続的な繁栄を目指す取り組みが全国29の「SDGs未来都市」に選定された。さらに先導性が評価され全国10の「自治体SDGsモデル事業」に選定された。中山間地域の市として「SDGs未来都市」に選定されたのは本市だけである。太田昇市長には、中山間地域のモデル自治体と目される当市の意欲的な取り組みをご紹介いただくとともに、JAグループへの忌憚のない思いを語っていただいた。

◆バイオマス産業杜市づくり-里山資本主義のメッカを目指す-

太田昇・真庭市長(岡山県)
 小松 「SDGs未来都市」に選定されたこと、本当におめでとうございます。
 太田 ありがとうございます。うれしい反面、課題山積である中山間地自治体の未来像を提示するという、重い宿題をいただいたようで、身の引き締まる思いです。
 小松 まずは、SDGs未来都市としての取り組みからご紹介ください。
 太田 藻谷浩介氏が提唱された、「里山資本主義」という考え方に基づいた地域づくりを実践しています。目指すは里山資本主義のメッカです。豊富な地域資源をフル活用し、モノとお金を地域内で循環させる経済システムです。地域の自立性つまり自給率を高めることで、地域の持続性を高めようとしています。そのためには、地域資源を活かす能力と、市民が主体となった「まちづくり」が不可欠です。

(写真)太田昇・真庭市長

 

 小松 本市は、「美作桧(みまさかひのき)」というブランド木材の生産と販売が盛んな、西日本有数の木材集散地ですよね。
 太田 林業・木材産業を基盤として、発生する副産物をエネルギー資源に活用したり、異業種を含めた産業連携を築き、地域産業の活性化から持続的な発展、それによる循環型社会の形成を図ることで、真庭バイオマス産業杜市づくりを目指しています。あえて「都」を「杜」にしているところに注目してください(笑い)。
 小松 典型例がバイオマス発電ですか。
 太田 そうです。2015(平成27)年4月からバイオマス発電所が稼働しています。1万Kwの発電能力で、2.2万世帯分の需要に対応できます。燃料は、間伐材や林地残材といった未利用木材に、製材端材、そして樹皮などです。かつては未利用資源であったり産業廃棄物であった物が資源として有価で取引されています。
 小松 農業に関連した取り組みとして、生ゴミ資源化による液肥化事業にも取り組んでおられますね。
 太田 家庭や事業所から出る生ゴミ等からバイオ液肥を作り、農業生産への活用を試みています。本格プラントの建設に向けて候補地を公募したら、4カ所からも手が上がりました。施設の性格から手が上がりにくいのではと思っていましたが、うれしい誤算でした。これもバイオマス産業杜市づくりの考え方が浸透しているからでしょう。ありがたいことです。

 

◆多彩な農業生産地帯-JAを良きパートナーとしてー

太田昇・真庭市長(岡山県) SDGs未来都市真庭市の取り組みと農業協同組合への期待 第28回JA全国大会特集 【農業新時代・JAに望むこと】
 小松 農業も、林業に負けず劣らず盛んですよね。
 太田 もちろんです。北部、中部、南部のエリアで、それぞれの地域特性にあった多彩な農業が展開されています。
 まず北部は、鳥取県境にある高原地帯で、黒ボク土と冷涼な気候を生かした高原野菜(ひるぜん大根、キャベツなど)を栽培。ジャージー牛を中心に酪農も盛んで、観光資源にもなっています。大規模農家が多いですね。
 中部では、施設野菜(トマト、ミニトマト)をはじめ、もち米、そば、青大豆、山芋など多様な作物を栽培しています。小規模の兼業農家が多いです。
 そして南部は、平坦な農地が広がる地域で、水稲、大豆を広い範囲で栽培したり、果樹生産も盛んです。小規模農家が多いのですが、地域でまとまり集落営農法人を設立するなど大規模化、効率化を進めています。
 小松 柑橘以外のものは生産されている、といっても過言ではないですね。
 太田 まさしくそうです。多くの農畜産物の地産地消が可能です。基本的な農畜産物の振興については、JAまにわとJAびほくに頑張っていただいています。まさに良きパートナーです。ただし、新商品の開発まではなかなか手が回らないようなので、起業支援にも力を入れています。

 

◆起業や起農の積極的支援

小松泰信 岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授 【第28回JA全国大会特集 農業新時代・JAグループに望むこと】
 小松 支援内容とその成果の一端を教えてください。
 太田 農業に限ったことではありませんが、創業塾や起業支援補助などです。とくに女性の起業支援として「起業女子応援café」も開催しました。成果としては、元地域おこし協力隊の女性が、市内で初の石けん工房を創業しました。保存料、合成香料、着色料、パームオイルは使わずに、山ぶどう、薬草など地域の素材を練り込んだ、肌にも環境にも優しい石けんです。
 また、岡山県と真庭市で共同設置している真庭バイオマスラボで研究している企業と市内のチョコレートメーカーが糖質制限中の方でも食べられるチョコレートを開発しました。羅漢果を原料としたカロリー・糖質ゼロの天然甘味料を使用したものです。この他にもたくさんの商品が作られています。これからが楽しみです。
 小松 起農スクールにも取り組まれていますよね。
 太田 真庭起農スクールは、東京と大阪を会場にして、本市での新規就農や移住を希望する方々に農業の基礎知識の習得機会を提供するとともに、各々のライフスタイルに応じた移住や就農を実現するために、講師陣や先輩農家と一緒に就農計画づくりを行っています。その効果もあり、2013(平成25)年から2017年の5年間における新規就農者は45人となっています。

(写真)小松泰信(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)

 

◆広域合併自治体のメリット発揮

太田昇・真庭市長(岡山県) SDGs未来都市真庭市の取り組みと農業協同組合への期待 【第28回JA全国大会特集 農業新時代・JAグループに望むこと】
 小松 広域合併自治体ですから、市内には農産物直売所がたくさんありますよね。それを束ねる「真庭あぐりネットワーク推進協議会」について教えてください。
 太田 新たな需要を創出することで農業生産力の増強を図るため、JAをはじめとする市内の農業関係団体が結集し、2011(平成23)年5月にこの協議会を設立しました。
 主な事業は、市内直売所間での農産物の相互輸送、大阪府高槻市に出店している「真庭市場」を核とした農畜産物の販路拡大、直売所共通POSや出荷予約等の農業情報提供システムの運用、そして人材育成めざした各種セミナーの開催などです。
 小松 効果はどのようなところに出てきましたか。
 太田 合併前は当然ながらバラバラに運営されていました。でも直売所がネットワーク化したことで、品揃えが充実したり欠品リスクが低減しました。生産者にとっては、出荷先が多元化したため、売れ残りリスクが減り生産意欲が向上しました。とくに小規模農家に喜ばれています。広域合併自治体のメリットが発揮されたわけです。

 

◆ロマンに満ちた真庭里海米振興プロジェクト

 小松 JAや漁協と連携した意欲的な取り組みも展開されていますね。
 太田 真庭里海米振興プロジェクトのことですね。SDGs未来都市づくりの一環として、「瀬戸内かきがらアグリ」とタッグを組んだ取り組みです。
 小松 「瀬戸内かきがらアグリ」事業は、JAグループ岡山が始めた事業ですね。
 太田 そうです。瀬戸内で育ったカキの殻を地元で有効活用して循環型のアグリ事業に取り組み、同時にカキ殻を使用した環境保全活動を行い、瀬戸内海という里海や河川、田んぼ、畑、森林といった岡山の自然とその恵みを守るための挑戦です。
 この事業では、農業や漁業の関係者、流通業者などがあつまってアマモの種をまく里海再生活動も行っています。
 小松 カキ殻を土壌改良材として田んぼにまき、できあがった良質なお米が「里海米」ですよね。
 太田 カキ殻にはカルシウムや良質なタンパク質や天然のミネラルが豊富です。
 市では2019(平成31)年産の生産目標を4000俵とし、「真庭里海米」(まにわさとうみまい)としてブランド化します。
 真庭里海米をつくり、食べることが、里山や里海の保全につながっていきます。海と山はいのちでつながっている。ロマンがあるでしょう(笑い)。

 

◆広域合併するJAへの危惧

小松泰信 岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授
 小松 先ほどJAを良きパートナーと言われたのですが、そのパートナーが、2020年4月にJA岡山を除く県内8JAによる合併に参加します。それについて、どのように受け止めておられますか。
 太田 今でも営農指導や販売については、もうひと頑張りしてもらいたいと思っているくらいですから、今よりも弱体化することのないようにしてほしい。JAグループに関しては、全中をはじめとする全国段階に対して一言もの申したいですね。要するに、東京のど真ん中に事務所を構えていて、地方の切実な状況がどこまでおわかりですか、ということです。東京のど真ん中にいる限り、自分の立ち位置を見失ったり、誤解してしまうわけです。
 小松 まったく同感です。今のままだと、市長の危惧は杞憂では終わりません。広域合併しても、地域に根ざしたJAづくりを忘れない。JAグループの全国段階は率先して地方に移転する。それぐらいにならないと、地方創生などは夢物語です。

 

◆真庭ライフスタイルの提案

 小松 最後に、真庭市のこれからの「まち」づくりについてお教えください。
 太田 私たちは、地域資源を生かした生活を「真庭ライフスタイル」と名付けて、広く提案しています。この愛すべき真庭に存在する、豊富な地域資源の中に、市民が自分のライフスタイルと人生の価値を見出し、それを実現していく「まち」づくりです。
 小松 最後までロマンにあふれていますね。1人でも多くの真庭市民が、「真庭ライフスタイル」を実現されることを心から願っています。

 

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