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特集:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代

2019.07.25 
【鼎談 中野剛志氏・冨士重夫氏・谷口信和氏】グローバリズムの終焉 始まる農業の新時代(2)一覧へ

・JAグループに望むこと

◆地に足のついた支援必要 地域に合った農業確立へ

 谷口 きちんとしたロジックがないまま日欧EPAを締結しました。乳製品は消費が増えているところで自由化です。出鼻をくじかれた感じで、何の戦略も窺えません。

 

農協が地域の中核になるべきと冨士氏農協が地域の中核になるべきと冨士

 

 冨士 フレッシュ系、ソフト系の乳製品は国産が有利といわれていましたが、冷蔵技術の発展で、ハード系も含め、フレッシュ系チーズも有利とはいえなくなっています。一方、日本の酪農は雌雄の産み分け技術の確立や搾乳ロボットが普及し、世界でも最先端にあります。雌子牛しか生まないようにすることや、受精卵移植で乳牛に黒毛和牛を産ませることが進んでいます。また搾乳ロボットなど、機械・施設整備も進んでいます。一方で、それに伴う人材の育成などの投資が課題となっています。後継者がいない中で大きな投資をする酪農家はいません。どうやってTMRセンターや育成センター、堆肥センターはどうするのか。法人化やそれをコーディネートする人、まとめる人がいないのが実情です。そこにJAの役割があります。

 

 谷口 総務省の地域おこし協力隊が頑張っており、やる気のある人はいます。北海道の標茶の例ですが、新規就農の若い夫婦が放牧をやりたいといっても、法人化による規模拡大路線と合わないということもありました。輸出本位の国の方針と現場の実態にはギャップがあります。もっと地に足のついた支援が必要です。
 いま、海外青年協力隊を希望する人が減っています。それは派遣先の発展途上国が望んでいることと違うからです。一方でこれを日本の青年が内向きになったとする見方もありますが、農業をもっと実感し地域社会で生きたいと希望する若者が増えているとみることもできます。まともな方向にむかっているのではないでしょうか。

 

 中野 このへんは令和の時代になって少し変わってきたように思います。競争だけでない新しい価値観に近々変わるのではないでしょうか。平成でずたずたにされたものを令和で取り返したいものですね。

 

休める農業をどうやってつくるかが大事と谷口氏休める農業をどうやってつくるかが大事と谷口

 

 谷口 その例ですが、農業経済学者は、より多く稼ぐために周年栽培することを考えます。しかしそうではなく、いまは休める農業をどうやってつくるかが大事です。その辺の考えが日本の農業は少し遅れているように思います。最先端の法人のなかには、仕事を終えて帰るときは、職場で作業服から背広に着替えて飲みに行くところもありますよ。

 

 冨士 乳牛1頭当たりの搾乳量は、かつて5000~6000kg、いまは9000kgに増えていますが、牛の繁殖能力は逆に弱くなってきています。搾乳の機械化で人がまた牛にさわらなくなるため牛の状態が分からず生理障害などに対応しきれなくなっています。搾乳量は少なくても、それで経営するとか、粗飼料を自給するとかの経営が出ています。地域の条件に合わせた多様な経営の確立が求められています。

 

 谷口 先端技術で解決できないこともあります。いまは雌牛の放牧地の近くに雄牛を置いて発情を促すこともやっています。本来の自然の姿に戻す必要があるということです。資源・食料問題研究所の柴田明夫代表が「三つの限界」として、気候大変動に伴う環境の限界、グローバリズムの限界、低コスト原油の限界を挙げていますが、まさにその通りだと思います。

 

 中野 いま若い人は、世界がどう変わっているか、分からなくなっているのではないでしょうか。もともとグローバリズムと協同組合は関係があります。19世紀、グローバル化が進んで、生活、自然が破壊されました。市場に任すと、家族などもともとあったものを引きはがして利用しようとします。それではいけないということで、労働者を守るのは労働組合、自然を守るのは農業協同組合ということで、協同組合は市場競争を協同の力でブロックしてきたのです。
 遠からず協同組合の精神がどこかで主流になると思います。それを予想させるのがサンダースで、彼はアメリカで嫌われている「社会主義」という言葉を使い、民主社会主義と唱えており、それを支持する若い人がいます。それがSNSで広がっています。民主社会主義に人気がでてきたのです。日本も2020年代が勝負かも知れないですね。政治家も世代交代の時期だから。

 

 冨士 これから地方は急速に人口が減ります。そうなると、地域では食品や燃料、介護事業などの事業を、それぞれ単独で黒字化するのはとうてい困難です。地域のくらしを総合的に支える組織が必要で、協同組合組織が総合事業を展開することで、地域の人々の暮らしを支えることが可能になると思います。

 

 中野 そのような意識を持つ若い人と、協同組合で政治家を育てられないのでしょうか。いまの政治家には冷戦終了直後の90年代前半に、若手の改革の旗手として当選した人たちが多い。20年たって、いまその価値観の化けの皮が剥がれているのです。

 

◆農業・農協の理解者を SNS使い分かり易く

 谷口 農協や生協などの中間組織の持つ意味は大きいものがあります。協同組合も2つの異なる性格があります。日本の農協は土地・場所が設定されていますが、生協は人々の結合です。そこに生協と農協の質的違いがあります。地域と結びついている農協は発展の要素があります。なぜなら次の時代には、地域社会の見直しが必要になるからです。

 

 冨士 地域の中核になるべきですが、農協は自分たちでつくった組織ではなくなっているのが現実です。正組合員が代替わりし、准組合員は組合運営に参加する共益権が無いため、組合員としての主体的な意識が希薄です。もともとあった組織に加入することになるので、株式会社と協同組合の違いも分らない人が多くなっています。もう一度組合をつくり直し、組織活動をやり直すくらいの気持が必要だと思います。農家は誰かがやってくれるだろうという意識があります。だから農協が何でもやるのでなく、自分たちで組織をつくって活動するという姿勢がないと、協同組合として機能を発揮できないと思います。

消費している人を巻き込む取り組みが必要ではと中野氏消費している人を巻き込む取り組みが必要ではと中野

 

 中野 雨降って地固まるでしょうか。見直すよい機会です。農協は役職員がサラリーマン化したからたたかれた。たたかれたときに論理的に説明できる人が少なかった。農協たたきは組織を挙げて反対していたら、跳ね返せたのではないでしょうか。西武鉄道の買収の話があったとき、沿線住民の反対で撤回させました。農協も地方の住民を巻き込み、組織を挙げて反対していたら、状況はもっと違っていたのではないでしょうか。

 

 谷口 民主主義もそうですが、戦いとったものでないと続きません。

 

 中野 危機感がないと立ち上がりません。しかしそこまで追い込むとトランプのような者が出てきます。その前に、「このままではまずい」と思わせる手本が世界には多く出ています。時間はかかりますが、いろいろなことが世代交代で変わるのではないかと思っています。20年かけて立て直すくらいの気持が必要です。もう一つ重要なことは農業、郵便と個別に撃破された。他の組合や団体、地方の信用金庫、郵便局、中小の土木会社、青年会議所など、農業以外の組織体との横の連携です。

 

 谷口 弱いときほど視野が狭くなるものです。外へ出て知識を得て、やってみてうまくいくことを見せることが重要です。

 

 中野 若い人が支持するサンダースをみると、エリートと新聞への信頼が下がっています。その代わりネットをフルに使っています。農協はSNSをもっと利用するべきです。

 

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 谷口 最後に農協陣営に辛口の注文を。

 

 中野 農協がたたかれたのは、たたかれる側にもスキがあったと思わざるをえません。免疫が弱っていたのではないでしょうか。つまり農業、農協への理解者を育てていなかったのです。そして他の組織が攻撃されたとき無関心でした。そうさせない若い政治家を育てていなかったという問題があります。
 リーマンショックのとき、すぐに次の時代は協同組合だという発想が生まれませんでした。国連はそう思ったからさまざまな発信をしたのです。これからは協同の時代ということを、グローバリズムの経済と構造的に関連づけて発想する視点が必要です。

 

 冨士 国連の提案はグローバリズムの反省を踏まえて、「競争から協同」、「成長から持続」の価値観の転換を促したものなので、その構造を示しながら、分かり易く説明する必要があると思います。

 

 谷口 今の農協は、協同組合をつくったときの人の集まりではないことを直視し、いまいるわれわれが再構築するのだという気持で臨まなければなりません。

 

 中野 准組合員のみならず、農業者がつくった農産物を消費している人を巻き込む取り組みが必要ではないでしょうか。蔵王の酪農のチーズを食べている人は、気持は蔵王の人です。口に入れているものだから、生産者のことが気になります。リピーターの会のような小さな関係づくりから始めたらどうでしょうか。

 

 谷口 消費者と軽い関係性のようなものということですね。本日はありがとうございました。

 

【鼎談を終えて】

 グローバリズム賛成・反対の座標軸に保守・リベラルの座標軸が加わって、世界は4つに分極化している。中野剛志氏の指摘だ▼この認識の下で多数派形成を考えていかねばならない時代が到来した▼蔵王酪農センターという地域での仕事に軸足を移した冨士重夫氏の農協論にフレッシュチーズのような新鮮さがあった▼同センターでナチュラルチーズ生産を1980年から始めた山口巌氏の先見性に学び、農協は20~30年後を展望し、自信をもって多数派形成に踏み出す時がきた▼協同組合が輝く時代をたぐり寄せるにはネット(SNS)の活用、若手の政治家・指導者の育成、他の多様な組織体との横の連携が欠かせない。(谷口信和)

 

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