JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】510万県民の食支える 乗富幸雄 JA全農ふくれん運営委員会会長インタビュー 元気な地域農業をめざして 福岡県の取り組み(2)2021年1月4日

JA全農ふくれん運営委員会会長
緊急対応が注目集める
―新型コロナウイルス対策で始められた「福岡県産ウェブ物産展」が人気ですね。
コロナウイルス禍は福岡県内の生産農家にも大きな痛手になっています。そこで、緊急対策として昨年5月に、福岡県と連携しインターネットを通じて県産品の販売を支援する「福岡県産ウェブ物産展」を開始しました。
とくに和牛などの高級食材とともに、冠婚葬祭の延期などで低迷していた花き類の注文が予想以上に多く、ポストコロナ時代の新しい生活スタイルに応じた販売方法開拓の足がかりになったと思います。「福岡県民でよかったわ!」という声を聞くことができてうれしいかぎりです。
「金のめし丸」福岡米お薦め
―福岡県の人口はおよそ510万人(230万世帯)。カロリーベースの食料自給率は23%で、生産額ベースでは37%です。510万人という人口を考えると福岡県農業はがんばっていると思います。主食用米の販売についてお聞きします。「ふくれん」の県内向け販売量はどの程度でしょうか。また、集荷率はどの程度でしょうか。
その年の作柄によって異なりますが、米生産量はかつて20万トンありましたが、現在では16万トン程度です。九州ではトップの生産量です。「JA全農ふくれん」はそのうち4割・6万5000トンを集荷し、県内販売量は家庭消費用を中心に約5万トンです。食管法による価格支持が廃止された食糧法のもとでは減少はやむをえないという面がありますが、53基を数えるカントリー・エレベーターは全国2位ですから、この程度の減少にとどまっていると思っています。
お米は毎日食べるもの。ひとのカラダをつくり、元気をつくる食べものです。だから、安心でおいしいお米をお届けしたい。よりわかりやすく、より安心して購入いただくために、JAグループ福岡では統一ブランド「金のめし丸」を創設し、基準を設けました。
基準をクリアしたお米だけに、「金のめし丸」県産米マークをつけました。基準は「自然豊かな福岡で愛情こめて栽培したお米」「農産物検査上位等級限定のお米」「指定した工場限定で精米されているので安心」の三つです。さらに集荷率を高め、福岡県民に対して安心できるお米を提供し、また生産者に対する所得向上をめざして、よりいっそうがんばりたいものです。
麦の生産量が前年比1.3倍に
―福岡県は麦類の生産でもがんばっていますね。北海道を除く都府県では作付面積は第1位を維持しています。
麦の作付面積は2万1500ヘクタール。生産量は2018年に比べ3割増の9万6900トンで、過去30年で最高です。そのうち小麦の生産量が前年に比べて1万4000トン増の6万8900トン。二条大麦が7100トン増の2万6100トン。はだか麦が340トン増の1920トン。ラーメン用小麦「ラー麦」の作付面積は前年並みの1800ヘクタールでしたが、生産量は2000トン増の8300トンでした。
「ラー麦」について説明しておきましょう。2009年に福岡県総合農業試験場、JA、実需者および生産者一体で開発した麺用小麦で、「ラー麦」と命名しました。「コシがある」「味が良い」といった評価を受けており、博多ラーメンのストレート細麺にピッタリです。実需者との連携のもとさらなる需要拡大に取り組み、需要に応じて現在の1800ヘクタールの作付けを3000ヘクタールまでは拡大する計画です。この「ラー麦」については60キロ当たり2300円の国の交付金が加算されるので、生産者にとっては魅力でしょう。2019年に開発10周年を迎えて、「10周年ロゴマーク」を作成しました。
福岡県内のラーメン店は約1400店を数え、これは東京都・北海道・神奈川県に次ぐ数だそうです。そのうち「ラー麦」使用店舗は、昨年3月末で245店舗にまで増えたと聞いています。さらに、「ラー麦」で皿うどんやギョーザといった新たな商品を開発した県内企業もあります。
福岡県産大豆「フクユタカ」
―福岡県は大豆の生産でもすごいですね。
大豆は8000ヘクタール前後の作付けを維持し、都道府県で5位以内に常時入っています。幅広い用途に適応性のある品種で、とくに豆腐への加工適性に優れた多収性の「フクユタカ」が多く栽培されています。
協同会社の株式会社ふくれんでは、「フクユタカ」原料の豆腐とならんで、固形分9%という濃厚な「成分無調整豆乳」を製造販売しており、これはヒット商品になっています。
福岡県民510万 食と生命守る
―福岡県のJAグル-プは「福岡県民510万の食と生命をどう支えるか」を共通のテーマにされていますね。
1984(昭和59)年、農業があらゆる面で袋小路に陥ろうとする時期でしたが、福岡農協中央会に総合企画局が設置されました。そこで開始されたのが、食文化の原点を問い直し、農協本来のあり方を模索しようという福岡県独自の「食と農」研究への取り組みでした。九州大学、山口大学などの研究者に依頼してまとめられた「福岡の食と農を見直す」(1987年)をきっかけに、「地産地消」(県産県消)への取り組みが始まりました。1986年にガット・ウルグアイ・ラウンドが開始された翌年です。
「食」は生活者・消費者を、「農」は生産者・農協を意味します。「食」と「農」を「見直す」から「結ぶ」運動へと広がっていきました。これは福岡県が全国に先駆けて取り組んだ運動だと記憶しています。これをきっかけに「直売所」への取組みが拡がりました。
2005年制定の「食育基本法」は当時の福岡農協中央会会長の悲願が実った法律でした。福岡県内の「JA直売所」は2018年度では45店舗を数え、その総売上高は150億円、利用客数は960万人~1000万人になっています。「福岡県510万人の食と生命をどう支えるか」に向かって、さらにがんばりたいものです。
農林水産予算3兆円回復を
―2018年に米の生産調整が廃止されました。2016年にJA全中は一般社団法人となり、そのJA全中が中心となって主食用米の生産調整を実施しています。需要に応じた主食用米の生産調整を農業者・農業団体が主体的に行えますか。
結論を先取りすれば、JA全中を中心に農業者・農業団体が主役となって生産調整を達成することはむずかしいでしょう。自主流通米を認める前の食管法であれば、「農協食管」と言われたようにある程度までは可能だったかも知れません。しかし、1995(平成7)年の食糧法は、生産者が出荷するルートの多様化を容認したので、農業団体が主役となっての主食用米管理は不可能です。
また、JA全中は一般社団法人となり、解釈によっては独占禁止法違反となる可能性も否定できません。「国が主体的に需給と価格の安定」を図るのが食糧法ですから、国が責任をもって、地方公共団体、生産者および集荷業者・団体の協力を得るというのが自然な考え方です。
―最後にお聞きします。安倍政権を継承するとした菅首相のいう「自助、共助、公助、そして絆」は、協同組合が使用する言葉に類似していますが、どう見ておられますか。
安倍政権では、「岩盤規制の撤廃」を叫ぶ「規制改革推進会議」の意見がまかり通りました。安倍首相は「60年ぶりの農協改革」(2018年通常国会)という言葉に憑(と)りつかれて、TPPに精力的に反対していた農協をやり玉にあげたとしか思えません。例を挙げれば、農協法改正・農地法改正(2016年)農業競争力強化支援法の制定、酪農(生乳)指定団体制度廃止(2017年)、米の生産調整廃止・種子法の廃止(2018年)に加えて、メガFTAと呼ばれるTPP11、日欧EPA、日米FTAの合意などに突き進みました。これを継承するとした菅内閣が「第一に自助、第二に共助、第三にセーフティネットとしての公助、そして絆」と言いましたが、私たち協同組合人には、自助・共助・公助それぞれには優先順位はないと考えています。新自由主義を基本に、さらなる規制改革を進める菅政権の根本的な考え方とは全く異なります。
私が一番言いたいことは、わが国の食料自給率が38%という近代国家にとっては致命的な状況にあるということを国民に伝えたい、知ってほしいということです。そのためには農林水産予算が2兆3000億円ではまったく足りない。まずは3兆円への回復を菅内閣の安全保障政策のトップに掲げてほしいというのが私の願いです。
【略歴】
のりとみ ゆきお 1951(昭和26)年生まれ。69歳。JA全農ふくれん運営委員会会長、JA全農経営管理委員会副会長、JA福岡中央会会長
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