JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【提言:JAの出番だ】農業支援を通じて地域社会を支える そこにJAの役割がある 谷口信和 東京大学名誉教授(農業協同組合研究会会長)2021年1月5日
谷口名誉教授は、コロナ禍の象徴的な出来事である「マスク騒動」から、国の安全保障の礎である食・農と医療の崩壊が見えてくると分析。国民を命を支える食・農の危機を救うのがJAの役割でsるとし、その具体的なあり方を指摘する。

2020年マスク騒動から何を学ぶか
新型コロナウイルス禍が曝け出した深部における日本の脆弱性の一つがマスク自給率の低さであった。現在ではガーゼ・ウレタン・不織布など多様なマスクが出回っているが、3月15日からはマスクの転売規制が導入されるなど深刻な供給不足が国民に大きな不安を与えた。その解消のために、国産の通称「アベノマスク」が全国民に2枚ずつ配布されたが、小さすぎるだけでなく、ウイルス飛沫拡散・吸収防止効果も小さいガーゼマスクであり、我が家では使用することなく、今でも記念品として大切に「貯蔵」されている。
2010年度にはまだ37%あったマスク全体の自給率が7年8カ月に及んだ安倍政権下で2019年度には23%にまで低下し、不織布マスクについては2019年の輸入金額の77.0%が中国、7.3%がベトナムに集中していたことが突然の供給不足の原因となった。多くの国民にとっては寝耳に水だったが、多くの生活必需品が中国からの輸入品となって溢れていることからすれば、「当然」ともいえた。だが、果たしてそれでよいのだろうか。
第1に、家庭用マスクは国内市場規模(金額ベース)が2003年から19年にかけて5倍程度に増加する有望な需要拡大分野であった。そこには冬から春にかけてのインフルエンザや花粉症の流行という従来からの傾向に加え、2002~03年のSARS発生、2009年の新型インフルエンザパンデミック、2012年のPM2.5の中国からの飛散・花粉大量飛散・中東MERS発生といった新たな要因が次々と付け加わってくる中で、マスクは重要な医療用品の地位を占めるようになっていた。
第2に、にもかかわらず、家庭用だけでなく医療用のN95なども含むマスク全体の国内供給がグローバルサプライチェーン論に依拠した低価格競争の嵐の中で、日本からの技術移転に基づく中国からの「開発輸入」商品に依存する構造に移行してしまった。
しかし、第3に、世界の不織布マスクの貿易シェア(2018年、金額)をみると、マスク自給に対する日本の戦略的な位置づけの低さの問題性が浮かび上がる。輸出シェア:輸入シェアでは、アメリカ5.7%:33.7%、ドイツ7.2%:8.3%、日本1.0%:9.9%となっており、ドイツが輸出入均衡的であって、自給率が高いのに対して、日本は輸出金額の9.9倍に達する輸入金額であり、アメリカの5.9倍をも大きく凌ぐ輸入依存構造となっていることが明らかである(以上の数字については田中鮎夢、RIETI「国際貿易と貿易政策研究メモ」Webなどによる)。
このように農産物や食料の低い自給率と同根の構造が医療・衛生分野でも成立しているのが日本の現実であり、新自由主義に基づくグローバル資本主義が食と医療という国家安全保障の土台を掘り崩していることをコロナ禍は白日の下に晒したのである。
基本計画で謳われた「農は国の基」
このような中で、昨年決定された基本計画では「農は国の基」の表現が盛り込まれ、食料自給率の向上と食料安全保障の確立に向けた国民運動が提起された。上述のような問題状況を踏まえれば、農産物の輸出ではなく、輸入農産物の代替をめざす国内農業生産の拡大こそが食料自給率向上の大道である。人は生きていくために何よりもまず食べなければならない。食は人の生存の基である。そして、食を支えているのは農であり、何よりもまず国内農業である。さらに、この国内農業を支えているものこそJAであろう。
こうして、JAは一方で国内農業の支援を通じて食を支えているだけでなく、他方でJA厚生連病院を通じて地域医療をも支えている。つまり、JAは国家安全保障の基である農と医療を支える地位を有しているのである。ところで、総合JAが行う諸活動のうち、JAにしかできないものは何か。それこそ国内農業支援に他ならない。医師であり、アフガニスタンで人道支援活動に奔走した故中村哲さんがたどり着いた重要な結論の一つは医療の前に食と農があるということだった。
日本農業の危機を救うJAによる農業経営
2020年農林業センサス結果概要(2020年11月公表)は農業経営体が2010~15年の18.0%減少を上回って、2015~20年に30.2万経営体、21.9%減少する衝撃的な数字を示した。10年前には164.4万あった個人経営体は103.7万経営体にまで縮小して、100万割れ寸前となっており、国内農業は危機に瀕している。他方で、団体経営体の中心を占める法人経営体は2010年の2.2万から2020年の3.1万に1.41倍化して、日本農業における比重を高めている。
個人経営体の激減による担い手問題の危機を打破すべくJAが果敢に挑戦してきた分野こそ、JA出資型法人を中心とするJAによる農業経営の創設を通じた地域農業再生運動である。筆者らは全中の委託で2019年12月末現在での全国アンケート調査を実施したが、その結果の一端から次のような一筋の光明が見えてくる。
(1)JA出資型法人(農地所有適格法人でもある)は2010年の351経営から2019年末には735経営にまで飛躍的に増加した。このうち会社型法人は209から343へと1.64倍化し、集落営農型法人(ほとんどが農事組合法人)は142経営から392経営へと2.76倍になった。
(2)2019年1月現在の農地所有適格法人に占めるJA出資型法人の割合を法人数:経営面積:水田経営面積についてみると、会社型法人では2.50%:4.28%:6.91%、集落営農型法人だと7.14%:7.76%:9.35%、法人全体では3.83%:5.38%:8.19%、となっている。
(3)土地利用型農業法人においてJA出資型法人が法人数<経営面積<水田経営面積の序列で高いシェアを有し、無視できない地位を獲得していることが明らかであろう。ちなみに、JA出資型法人全体の経営面積をみると、耕地2.93万ha:田2.13万ha:畑0.72万haに及んでおり、京都府全体の耕地2.99万ha:田2.33万ha:畑0.67万haと遜色ない水準に達していることも指摘されてよいだろう。
(4)こうしたJA出資型法人は「地域農業の最後の担い手」の役割から始まって、「地域農業の最後の守り手」、「地域農業の最後の攻め手」を経て、今日では、a.耕種部門から畜産・酪農部門への進出、b.本来の農業経営から耕作放棄地復旧・再生、新規就農研修等の地域農業資源(土地と人)の再生・創出という新たな課題への挑戦、c.2つの出資型法人による耕種・畜産の耕畜連携の実現、直売所支援と新規就農研修事業の結合といった地域農業発展の総合的拠点の役割を果たすところにまで到達している。
(5)しかし、こうした役割を担う出資型法人設立に取り組んでいる総合JAは全体の4割程度に止まり、過半のJAが出資型法人の豊かな可能性を十分に引き出すところには至っていない。そのことは出資型法人の発展にはまだまだ大きな伸び代があることを意味している。先発JAの経験に学んで多くのJAが新たな一歩を踏み出すことを願ってやまない。そこに、日本農業再生の有力な道が拓けると思われるからである。
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