JAの活動:第42回農協人文化賞
【第42回農協人文化賞】経済事業部門 全農埼玉県本部前運営委員会会長 若林 龍司氏 組合員の声が成長の糧2022年2月16日
全国農業協同組合連合会埼玉県本部前運営委員会会長 若林 龍司氏
私の農協人人生は、母の一言から始まりました。私は、埼玉県立熊谷農業高等学校を昭和41(1966)年に卒業しましたが、卒業後は農業高校を出ましたので、家業である農業を行おうと、当時、地域内で栽培が始まったキュウリ栽培のため、農協にお願いして、家の裏に栽培用のビニールハウスを建てていただき2月に完成しました。その様子を見た母が、「農業だけでは生活が安定しないよ。近所にも、役場に勤めながら農業をやっている人もいる。農業は、大方、私とお父さんでやるから、これからのことを考えると勤め先を探し兼業としなさい」と助言をもらったのです。その言葉で、同年4月に菖蒲町農業協同組合に入組し、農協人としての第一歩を踏み出しました。
農協に入組して初めに就いた部署は指導課で、県の普及員の方々と営農指導を行いましたが、当時は、指導課で家の光の普及も担当しており、後に、家の光協会の会長も務めることとなりますが、今思えば深い縁を感じています。その後は、主に経済事業を担当し、施設園芸のハウス作り、ハウスで使う暖房機の修理などを行いました。
暖房機の修理は一年中の仕事で、あらかたの故障の修理ができるため、農協職員であるにもかかわらず、私にメーカーからの修理依頼があるほどで、地区外まで修理に出かけ、暮れも正月もない忙しさでした。今でも、当時、修理をした組合員からは、若林さんのお陰で、生産を止めることなく出荷できたことはありがたく思っていると言われますが、農協人として何よりの誉め言葉と思っております。
農協では長らく経済事業担当でしたが、思い出すのは、昭和49(1974)年のオイルショックのことです。施設園芸では暖房に多くの燃料を使いますが、燃料の入手が困難になって組合員の生産をやめさせる訳にはいきませんから、鶴見のコンビナートまでローリーで一日二往復し、燃料を買い入れました。それを一旦、現在の全農埼玉県本部の久喜の300キロリットルタンクに貯留し、組合員のハウスに運んでおりました。
また、農協管内は、梨の生産も盛んでしたが、オイルショックのあおりを受け梨のパックも不足し、パックの手配に福島県など県外にも夜間トラックを運転してパックを購入し、組合員に届けるなどもしました。
そういうこともあり、オイルショックにあっても、施設園芸農家が、燃料が無くて生産ができない、梨農家が、パックがなく出荷できないということは一切なく、生産者、産地を守れたと安堵した思い出があります。
また、営農経済事業にとって一番大切なことは、生産者に会って話を聞き、営農指導に生かすことです。この信念から、現在のTACの源流でもあるアグリアドバイザーを県内で一早く設置しました。職員に、生産者に寄り添い、思いを聞き入れ対応することの大切さを教えることができたのではないかと思っております。
平成31 年4 月の大田市場トップセールスの様子(右から3 人目が若林前会長、4 人目が上田前埼玉県知事)
平成26(2014)年には、皆様に推していただき、JA埼玉県中央会・連合会会長に就任しました。就任して直ちに取り組んだことは、JA事業に組合員の意見を反映させるため、JA組合長とともにキャラバン隊を組み大規模生産法人などの担い手経営体に直接出向き、積極的に対話の機会を設けたことです。
その後、中央会・連合会がワンフロアーに集結し、TAC活動を行うJA埼玉県担い手サポートセンターを設置し、出向く体制を強化しました。また、農協組合長当時から行っていましたが、イチゴ、梨のPR活動での市場督励をするため、女性職員による広報としてキャンペーン隊を結成しました。JA南彩では「南彩小町」と名付けて活動していましたが、そういった販促活動を発展させ、県知事にもご足労いただき、県知事と全農埼玉県本部運営委員による、大田市場でのトップセールスを発案しました。生産者が丹精して作った埼玉県産農産物を県、JAグループさいたまが一丸となり、今でも続くPR活動となっております。
農協は、農業と地域社会に根ざした組織です。農協職員の皆様には、生産者、組合員を守ることは農業と地域社会を守ることにつながりますので、その声をしっかり聞き、寄り添い、真心をもって事業に取り組んでいただきたいと思います。
菖蒲町農協に入組し、合併後のJA南彩組合長、埼玉県中央会・連合会会長を務めさせていただき、組合員、生産者、そして職員とともに農協人として歩んだ54年の間、様々なことを学び体験し、私自身の成長の糧をいただいてきたと思っております。これからも、私の経験が生かせる場があれば、微力ではありますがお力添えさせていただきたいと思っております。
結びに、平成天皇陛下の心臓手術を執刀された天野篤教授の好まれる「一途一心」という言葉があります。「一途一心」とは、一つひとつのことを、一途に向上心を持って一心にコツコツと積み上げていくという意味ですが、そうやって積み上げた結果、それ以上のものが手に入るという意味も含まれています。
座右の銘
【略歴】
わかばやし・りゅうじ 昭和22(1947)年10 月生まれ。昭和41(1966)年埼玉県立熊谷農業高校卒業、同年菖蒲町農協入組、平成14(2002)年南彩農協営農経済担当常務理事、平成20(08)年代表理事組合長、平成26(14)年埼玉県農協中央会・連合会会長、平成29(17)年(一社)家の光協会代表理事会長、令和2(20)年埼玉県農業協同組合中央会・連合会会長退任。
【推薦の言葉】
地域の発信力に卓越
若林氏は、県内農協組織のトップにありながら、自らも米、梨を作り、常に生産者目線で、生産者とともに県内農業・系統経済事業の発展に大きく尽力した。
特に農産畜物の販売活動でも、県下JAで一早く、女性職員を中心にした農産物キャンペーン隊「南彩小町」を結成。スーパーマーケットや各種のイベントに出向き、生産者の思いを消費者に伝えるなど、JA管内農畜産物のPR活動を積極的に行うとともに農協窓口職員と生産者・組合員とを身近に結びつけた。
キャンペーン隊は、県下の多くのJAでも結成され、その先駆けとなった。また、県知事と運営委員による東京・大田市場でのPR活動や、県下生産者を集めての「生産者の集い」を発案するなど、販売事業におけるアイデア、先見性と生産者の心を持った組織代表者としてリーダーシップを発揮した。
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