JAの活動:【2024年新年特集】どうする食料・農業・農村・JA 踏み出せ!持続可能な経済・社会へ
自然を愛す"好き者同志"【農業・歌人 時田則雄】2024年1月4日
新しい年を迎えた。今年はこの国を持続的で安心して暮らせる社会に向け農政の大転換が期待される。北の大地の歌人が戦後農業の歩みを振り返り、未来へ言葉を紡ぐ。
トレーラーに千個の南瓜と妻を積み霧に濡れつつ野をもどりきぬ
私は敗戦の翌年、河西郡川西村(現帯広市)にて百姓の息子として生まれた。当時、農場の周辺には天然の森がいくつもあった。小学生の頃、近所の仲間たちとセミやチョウチョを捕ったり、戦争ごっこをして遊んだものである。灌漑(かんがい)溝の小さな橋の袂(たもと)には時どきシマヘビがとぐろを巻いていた。ある日、私は仲間と二人で度胸試しだといって、そのヘビの頭に先端を尖らせた太い針金を突き刺して殺したことがある。いまだったら問題児扱いにされるに違いない。
自宅の近くには十勝川支流の売買川(ウリカリとはアイヌ語で捕った魚を集める所)が流れており、ウグイやヤマメ、カジカなどが棲(す)んでいた。淀のそこには皿を立てたようにカラスガイが並んでいた。私は学校から帰ると鞄を玄関に放り込み、竿を担いで売買川へ行き日が暮れるまで釣りをした。かくのごとく、私は野生児そのものだったのだ。
その頃のわが家の耕地面積は18ha。トラクターはまだ普及しておらず、馬耕農業であった。頬かむりをして馬の尻に鞭(むち)を当てながら畑を起こしていた父や、モンペを穿(は)いて手押し式の播種(はしゅ)機で豆を播(ま)いていた母の姿がいまでも目に浮かぶ。
ある年の春、近所の農家が離農することになり、土地を売りに出した。父はその土地を買うといったのだが、母が反対したので諦めた。私は父と母とのやりとりを聞きながら、「買えばいいのになあ」と思った。つまり、私は小学生の頃から百姓になろうと決めていたのである。
帯広畜産大学別科を修了して就農したのは1967年。その頃の十勝平野は農作業の機械化による負債の重圧で、小規模農家の大方は離農に追い込まれた。家財道具を積んだトラックが、土埃(ぼこり)を上げてムラを去ってゆく光景が忘れられない。
離農せしおまへの家をくべながら冬越す窓に花咲かせをり
ちなみに1960年代から1979年までの約20年の間に、十勝の農家戸数は2万3000戸から1万2000戸に激減している(天間征編著『離農』・日本放送出版協会刊)。私も「ゴールなき規模拡大レース」をしながら多額の負債を背負い、深夜、風呂の中で「今度は俺が離農するんだべか」と思ったこともある。
結婚したのは26歳のときだった。妻と最初に出会ったのは9月。帯広のオンボロな茶房「赤とんぼ」だった。彼女も私も読書が好きということと、草や木が好きなことで気が合い、翌日、私の農場を案内してプロポーズ。その3カ月後には結婚した。妻は千葉市のサラリーマンの娘だが、十勝の自然が大好きなのだ。あだ名はキノコ博士。キノコのことなら何でも知っているからである。
42年前、自宅から25km離れた日高山脈の麓の山林を大枚をはたいて25ha買った。「いまどきヤマなんか買ってどうする。宅地のほうがいいべや」という先輩もいたが、妻は賛成してくれた。林業は相変わらず不振ではあるが、木を眺めていると心が和むのである。
40年ほど前、南瓜(かぼちゃ)を3ha栽培したことがある。妻と南瓜に声をかけながら捥(も)いだ日が懐かしい。ちなみに掲出歌は歌人の俵万智著『あたなと読む恋の歌百首』(朝日新聞社刊)に載っている。
政府は相変わらず農業を疎かにしたままだ。食料自給率は先進国の中では最低。食料は金があっても買える時代ではなくなったとの声が大きくなったにもかかわらず政府は無策。農家は生産資材の高騰で喘(あえ)いでいるのに無策。国民を飢えさせぬこと、農山漁村の衰弱を防ぐこと、それが為政者の役目なのだ。
私はいま77歳。妻も私も体力は落ちたけれども、少しでも息子夫婦の役に立ちたいと思っている。
いつも隣にゐる人それは妻といふひとなり今日は窓を磨きをり
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