JAの活動:【2024年新年特集】どうする食料・農業・農村・JA 踏み出せ!持続可能な経済・社会へ
【提言2024】畜酪振興は農政の要 九州大学名誉教授 村田武氏2024年1月11日
2023年、世界は地球沸騰化の時代に突入、地上ではロシアのウクライナ侵攻が続き、さらに中東情勢も深刻化、混迷と対立が深まるなかで2024年を迎えた。本紙新年特集は「踏み出せ! 持続可能な社会へ」をテーマに、世界情勢と日本の未来を見越して、農政をはじめとした政治、政策、そして農業協同組合への提言を幅広く識者に発信してもらう。
九州大学名誉教授 村田武氏
農水省は菅義偉政権下で策定した「みどりの食料システム戦略」で、「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」するとした。そのポイントは地域農業のオーガニック化にある。そこで掲げられた「有機農業の耕地面積の25%(100万ha)」目標はともかく、2030年頃までに「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減」をどう実現するか。この戦略そのものが、その実現は「耕畜連携によって飼料や肥料の低減とコスト削減を両立」させることにあるとしている。
ところが2022年2月に始まるロシアのウクライナ侵攻や円安にともなう飼料価格の高騰である。乾牧草の輸入価格は、2022年1月の37円(1キロ)が昨年23年11月には70円70銭と1・9倍になった。配合飼料価格は40円台(1キロ)が100円台の2・5倍になった。これに農水省が「飼料価格高騰緊急対策事業」の「配合飼料価格高騰緊急特別対策」で22年度第三四半期に交付した補填価格は67・5円にとどまった。酪農家にとっては焼け石に水である。
四国の酪農産地を代表する愛媛県西予市野村町の東宇和農協畜産振興センターで聞いた。2011年に農協管内にあった酪農経営75戸(愛媛県の酪農経営のほぼ半数)は18年末には48戸、そして20年末には41戸、23年11月には36戸と、後継者のない小規模経営を中心に、この数年の雪崩を打っての離農である。
36戸の搾乳牛頭数は平均37頭、生乳価格が平均130円(1キロ)に引き上げられた2023年の収支計算では、生乳販売額(月額)が424万円、飼料代など直接生産費が219万円、これに電気代・水道代・育成牛預託代などの経費が150万円、その差額はわずか50万円、したがって年間経営所得は600万円にとどまる。
搾乳牛29頭飼育の若手酪農家・上甲祐斗さん(37歳)に聞いた。上甲さんに言わせれば、労働力3人で「365日働いて600万円残ればまだましな方だ」とのこと。「それも、トウモロコシやデントコーンの栽培、地元西予市産のWCS稲の給餌など、配合飼料購入を必死に抑えての話だ。飼料の購入割合の高い農家の所得はもっと低く、離農している農家は、このままでは借金が膨らむとの危惧が大きいからだ」という。
農水省は地域農業のオーガニック化を実現するには、有機肥料源の堆肥を供給する酪農・畜産経営の崩壊を放置できないはずである。今こそ求められるのは、飼料価格の高騰分を公費で全額補てんする緊急対策である。農協陣営には、これを政府に求める農政運動を強化することが切に望まれる。
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