【世界の農業・食料情勢】中東・北アフリカ 食料争奪 半乾燥地帯に人口5億2015年9月18日
資源・食糧問題研究所代表柴田明夫氏に聞く
世界の食料不安定化日本は農業資源フル活用を
・生産力確保に新大陸型農業
・単作化が進みあやうい生産
・中国の爆買い大豆8千万t
・新興国と日本輸入品で競合
・日本農業への関心高まる
    今年の夏は猛暑だったが、8月の末から雨続きとなり、9月10日に上陸した台風18号は鬼怒川が決壊するほどの大雨をもたらし、茨城、栃木、宮城を中心に農業にも大きな被害が出ている。収穫直前だった米をはじめ、各地で果樹、野菜、家畜にも被害が及び、改めて農業が自然相手の営みであることを痛感、農業経営の安定と食料の安定供給対策の重要性を考えさせられる。それも国内的な気候変動などの要因からのみ、そのことが迫られているわけではない。地球規模の気候変動に加えて、世界全体の政治経済の動向からも食料供給の不安が高まっている。今回は世界の農業・食料をめぐる最近の注目すべき動きを柴田明夫(株)資源・食糧問題研究所代表に聞いた。
◆生産力確保に新大陸型農業
 「世界の食料需給はいっそう不安定化している」と柴田氏は強調する。 2008年の穀物価格の高騰は記憶に新しい。世界市場で穀物、大豆はいずれも3~4倍も高騰し軒並み史上最高価格を記録した。食料輸出国は、いざというときはやはり自国の食料確保を優先、36か国もの国が相次いで輸出禁止などの規制を実施。その影響で中南米やアフリカ、東南アジアなどの開発途上国を中心に抗議行動や暴動が起きたことも忘れられない。
 「世界の食料需給はいっそう不安定化している」と柴田氏は強調する。 2008年の穀物価格の高騰は記憶に新しい。世界市場で穀物、大豆はいずれも3~4倍も高騰し軒並み史上最高価格を記録した。食料輸出国は、いざというときはやはり自国の食料確保を優先、36か国もの国が相次いで輸出禁止などの規制を実施。その影響で中南米やアフリカ、東南アジアなどの開発途上国を中心に抗議行動や暴動が起きたことも忘れられない。
 その後、生産量の増大などで価格は下落したが、06年以前の水準に戻ったわけではない(グラフ)。干ばつなどの一時的な要因ではなく食料需給をめぐる構造が大きく変化したといわれるが、その要因は世界的な人口増加に加え、▽中国などの急激な経済発展と食生活の高度化、▽バイオ燃料向け農産物の需要増加、▽異常気象の頻発、▽砂漠化の進行・水資源の制約、▽家畜伝染病の発生などである。
 一方で地球上の農地面積は限られている。耕作可能な土地は50億haといわれるが、35億haは永久草地で米、麦など基礎的食料を生産できる農地は7億haで人口増加が続くなかでもこの面積は変わっていない。食料増産は単収増によるほかないが、近年は単収の伸びの鈍化が指摘されている。
 こうしたなかでも09年には世界のとうもろこし・大豆の生産量が史上最高を記録したり、13~14年にかけては小麦、トウモロコシの世界的な豊作が続いた。
 柴田氏によれば今世紀になって世界の穀物市場と価格が新たな局面に入ったことを受けて、実は「世界的な農業開発ブームも起きている」という。 それは新大陸型の1000ha、2000ha規模の農業生産で、機械化はもちろん、遺伝子組み換え農産物利用などのバイテク化、マーケティングと結びつく情報化などによって供給力を拡大させていく農業だ。
世界中で多発する異常気象 (2013年~15年6月)

◆単作化が進みあやうい生産
 ただし、こうした農業は、農業の工業化であり脱自然化ともいえる。作物も単作で大量生産をめざす。「自然を克服するかのように強引に生産力を高めているといえます」と柴田氏は指摘する。 しかし、いうまでもなく農業は自然と深く関わるもので、地球温暖化による気候変動、水資源の制約による農業生産のリスクは高まっている。しかも、こうした環境変化のもとでは多様な作物の栽培がリスクを減少させることになるが、世界的な農業開発ブームは単作化を進めている。世界全体のイモ類や野菜等を含めた食料生産量は約60億tだというが、その半分の30億t近くが米、小麦、トウモロコシ、大豆に集中しているという。
 単作化が進んでいるため異常気象や災害が世界全体の食料需給に影響を与えやすくなっている。加えて世界的に低金利・ゼロ金利政策が続き、投機マネーが穀物相場にも流れ込むから、いっそう穀物価格は不安定になる。 「史上最高の生産量を記録、などといっても非常にあやうい状況で伸びていると認識すべきだと思います」。
 世界の食料事情の不安定化要因のひとつである中国の動向はどうだろうか。
今世紀に入り一段と不安定化する世界の穀物市場

◆中国の爆買い大豆8千万t
 中国は毎年、年初に重要な政策課題を示すが、過去12年間連続で農業、食料問題をもっとも重要な政策としているという。世界の食料市場が不安定化するなかで、いち早く不足に備えた食料戦略を打ち出している。具体策は自給率向上とともにブラジル、アルゼンチン、アフリカとの協定による食料調達などだ。
 実際、この2年間、過去最高の食料生産量を記録し、イモ類まで含めた基礎的食料生産量は6億5000万tだという。しかし、それでも国民の需要を満たすことはできず、米は470万t、麦、トウモロコシも200万~300万t輸入する。
 中国は08年まではトウモロコシの輸出国だったが、09年に130万tを輸入し11年には400万tに拡大した。大豆の輸入量は今年、7950万t。世界全体の大豆貿易量のうち60%以上を占める。中国は1990年代半ばまでは大豆も自給を維持していた。したがって、トウモロコシも今後さらに輸入を増加させるのではないかとみられている。
 一方で需要の拡大に合わせて中国は国内生産の増産も達成しているが、その農業は「いわば密植と農薬・肥料の多投入による高収量の実現という、まさに新大陸型の収奪農業。そこにやはりあやうさがあることも考えておかなければなりません」という。
◆新興国と日本輸入品で競合
 もうひとつ、これから世界の食料需給に大きな影響を与えると柴田氏が指摘するのは中東・北アフリカ地域である。
 この地域の人口は5億人でEUとほぼ同じ。2011年に起きた"アラブの春"のきっかけになったのもロシアの大不作による小麦の禁輸だった。同地域は25歳以下の人口が半分を占めるが失業率も高く食料価格の高騰は社会の不安定化を招きやすい。
 北アフリカ最大の農業国はエジプトだが、実は小麦の輸入量では世界最大国というのが実態だ。これらの地域は半乾燥地域だから水資源が乏しい。人口増加を支えるには輸入に頼らざるをえず麦類、トウモロコシ、米、大豆、なたね油の輸入が急拡大してきている。
 灌漑や農業開発など日本の農業技術協力も課題だが、この地域が輸入する食料は日本も海外に依存を強めている品目でもある。
 こうした状況のなかで日本が追求してきた「価格」、「品質」、「供給」の3つの「安定」が脅かされていると柴田氏は指摘する。
 価格については北アフリカ・中東地域にみられるように新興国の需要拡大で日本は買い負けし"安価"に手に入るのは当たり前という時代ではなくなりつつある。供給もすでに指摘したように異常気象などの影響を受ける。また、安さを追求する競争のなか、食品は海外の現地で加工されてから輸入されるようになった。それがかえって安全面での不祥事を生み出している。
◆日本農業への関心高まる
 こうして量と質の面から「国内農業への関心は高まっているはず」というのが柴田氏の指摘だ。ただ、その期待に応える農業になっているか、あるいはそうした農業をめざそうとしているかが問題だろう。
 柴田氏は「アベノミクス農政は農業の成長産業化をめざし、規模拡大や6次産業化、輸出に力を入れているが、株式会社の参入などその担い手は特定の人だけ。儲けや効率による二分法で、儲からないものは切り捨てるという方向ではないか」と強調する。
 むしろ、リスクが高まっている今の世界の食料事情のさまざまな要因、それも気候変動などの自然的な要因だけでなく、今回問題とした大規模化・効率追求による脱自然化の農業、利潤追求の投機マネーによる相場変動、さらに新興国の社会安定と農業貢献などまで視野に入れて考えれば、各地域の自然の力を活かした「農業資源のフル活用」の視点こそがわが国には重要になっていると改めて考えたい。
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