【米国大統領選2016】アメリカの危機 トランプ生み出す(下) 萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授2016年11月14日
萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授
◆軍事力も強化
日米安保に関しては、米国が日本を一方的に防衛するのは不公平だ、防衛費を100%負担しなければ米軍を引き上げるといっている。彼の主張は、日本はより多くの防衛費を負担すべきだという。もしそれが憲法上できないというのなら改正すればいいと言い出しかねない。
したがって、現在の安保法制(戦争法)の下では、米軍とともに自衛隊が海外に派兵されることが南スーダンだけでは済まなくなる危険な状況となることが予想される。
トランプ大統領は、プーチン大統領から「素晴らしい手紙を受け取った」と言っているように、彼とは親密な関係にある。ロシアは、シリアのアサド政権と親密な関係にあるから、米国が今までの状況とは異なったシリアへの軍事介入が予想される。ウクライナとロシアは言うまでもなく対立関係にあり、NATOは、ウクライナ擁護の立場だから、トランプ大統領になって従来のNATO諸国と米国関係が大きく変化する可能性がある。
トランプ大統領は、イギリスのEU離脱決定を歓迎した。これも移民問題とかかわるのだが、トランプ大統領は、排外主義的主張を繰り返すヨーロッパの極右勢力と親密な関係を築くだろう。米国の白人至上主義グループKKKが、トランプ大統領誕生を祝って大々的な祝賀パレードを行うようだ。
トランプ大統領は、レーガン大統領を理想の大統領としている。レーガン・ブッシュ政権は、12年の間に、軍拡によって、ソ連を追い込み解体に導く作戦をとった。トランプ大統領は、IS(イスラミック・ステート)は、オバマ政権が創り出したなどというデマを飛ばしながら、IS退治に軍事行動を起こすだろう。軍事費の上昇は避けられない。
◆格差、さらに拡大
経済政策で彼が実施するのは、大幅な減税だ。レーガン以来のいかなる層にも等しく減税する結果的に富裕者優遇税制になる政策を実施するだろう。財務長官として、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなどの投資銀行の経営幹部を採用しようとしていることを考えると、金融制度の規制緩和が図られるだろう。2010年ドッド=フランク法による金融規制は、今や風前の灯だ。共和党綱領には、この法律の廃止が謳われている。金融の自由化・規制緩和で再び金融危機勃発の可能性が出てくる。
2010年成立し、2014年に本格導入されたケア適正化法(オバマケア)が、廃止に追い込まれる可能性がある。また、トランプ大統領は、この11月4日に発効したパリ協定を離脱することを考えている。米中主導で地球温暖化阻止を図る重要な協定だが、米国が離脱すれば、ジョージ・W・ブッシュ政権が、クリントン政権下で成立した京都議定書から抜け出したのと状況は、同じようなる。
こうした政策が実行されると、米国連邦財政赤字は、再び上昇し始めることだろうし、米国社会の格差と貧困は深まるだろう。中長期的に米国は、世界経済において衰退の道をたどることになるだろう。
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