【 クローズアップ 日米FTA】(続)日米FTAはWTO違反の可能性 【東京大学教授・鈴木宣弘】2019年9月4日
東京大学の鈴木宣弘教授はJacomへの緊急寄稿で「失うだけの日米FTA」だと、具体的な問題を挙げて批判したが、さらに自動車関税の撤廃を米国が見送ったままの協定として発効しようとするなら重大なWTO(世界貿易機関)違反だと警告する。

米国連邦議会はサービスや知財を含む包括的な自由貿易協定としての日米FTAでないと承認しない姿勢であるが、それでは、大統領選挙までに議会承認が得られない可能性が高いため、米国側は関税率5%未満の製品の関税撤廃・削減にとどめることで、議会承認を経ずに協定を発効させる可能性が指摘されている(山下一仁・キヤノングローバル研究所研究主幹など)。
「日本が米国に対して農産品の市場を開放し、その見返りに米国が日本製の自動車部品の一部について関税を削減するという内容の合意となる可能性がある。大統領は関税率が5%未満の製品の関税を撤廃あるいは削減する権限があり、自動車部品の大半は関税率が約3─6%にとどまる。」(7月17日ロイター通信)
しかし、この場合、協定が発効できる国際的条件「実質上のすべての貿易」をクリアできるかという疑問が生じる。米国は自動車の完成車の関税(普通車2.5%、大型車25%)撤廃についてはTPP合意を反故にするとしている。
こうなると、日本の対米輸出の内訳は、自動車の完成車3割、部品2割、その他工業品5割なので、完成車が抜けただけで、WTO違反になるとの指摘もある(細川昌彦・中部大学特任教授)。
日米FTAでの農産物関税の先行引き下げの可能性については、協定がGATT第24条の例外規定を満たすFTAとみなされるなら可能であることを、筆者は、2019年4月23日(火)の参議院議員会館における院内集会で次のように説明した。
モノの貿易についてはGATT第24条において、「実質上のすべての貿易」(substantially all trade)について関税撤廃し、域外国に対する障壁は引き上げないこと等を条件に、MFN(最恵国待遇)原則の例外として認められている(ただし、「実質上のすべての貿易」についての明確な基準、例えば、90%ならいいのか、量・額・品目数等のどれで測るのかなどは曖昧である)。
包括的協定の一環として、まず、2002年11月に枠組み協定(箱だけ)つくり、まず、特定農産物8品目について関税削減(アーリー・ハーベスト=Early Harvest)をしてから、物品貿易協定、サービス貿易協定、投資協定と、順次、協定を合意・発効していき、2012年12月に全体の議定書を発効したACFTA(=ASEANと中国の包括的経済協力枠組み協定)のような例もある(資料参照)。
ただし、ACFTAの場合は、まず、包括的な「枠組み協定」をつくってから、順次、その一環のパーツとしての部分的協定を積み上げた。今回の日米FTAが、そうした包括的な枠組みの合意なしに、アーリー・ハーベストではなく、限られた品目についての単独の「つまみ食い協定」として発効しようとするなら、重大なWTO違反であり、発効できないか、あるいは、無理に発効するなら、日本はWTO加盟国全体に牛肉関税9%、豚肉関税50円などを適用せざるを得なくなる。
そもそも、すでに、米国は特定国を狙った25%関税適用などで、国家安全保障名目の明白なWTO違反を犯しているが、日本は米国にそう反論していない(国家安全保障のために日本は食料を守る、くらい言い返せればよいが)。このようなことが、さらに横行すれば、国際貿易秩序は完全に崩壊し、「第二次世界大戦前夜」の様相を呈しかねない。
それにしても、日本は、先に「農産物は(少なくとも)TPP水準までは譲る」という交渉カードを切ってしまって、あとは、「自動車に25%関税をかけられるよりはましだろう」と威嚇され、自動車関税の撤廃を反故にされ、トウモロコシまで買わされる、という、絶対に負ける交渉を展開している。交渉術としても、どう考えても理解に苦しむ。
【資料】
<ACFTAの経緯 (JETRO資料)>
ASEANと中国の包括的経済協力枠組み協定=The Framework Agreement on Comprehensive Economic Co-operation between the Association of Southeast Asian Nations and the People's Republic of China:アセアン諸国連合(10カ国)と中国の自由貿易地域を目指した協定で、物品貿易協定、サービス貿易協定、投資協定の3つの主協定から構成
2002年11月 ASEAN-中国包括的枠組み協定に署名
2004年 1月 特定農産品8品目(HS2桁)を対象にEarly Harvest実施
(タイは2003年10月、フィリピンは2006年1月実施)
2004年11月 物品貿易協定に署名
2005年 7月 物品貿易協定が発効、関税引き下げ開始
2007年 1月 サービス貿易協定署名
2007年 7月 サービス貿易協定発効
2009年 8月 投資協定署名
2009年12月 知的財産に関する覚書署名
2010年 1月 投資協定発効、ASEAN先行6カ国と中国のNormal Track品
目の関税撤廃(CLMVは2015年に関税撤廃)
2010年10月 第2議定書署名
2011年 1月 第2議定書発効(三国間貿易、移動証明書発行可能)
2012年11月 第3議定書発効
※Niek VerlaanによるPixabayからの画像
(関連記事)
・ クローズアップ 日米FTA決定版! やはり「失うだけの日米FTA」東京大学教授・鈴木宣弘(19.09.02)
・【緊急寄稿:日米FTA】まさに「失うだけの日米FTA」【 東京大学教授・鈴木宣弘】(19.08.26)
・【クローズアップ日米交渉】「農業」差し出しに躍起【評論家・孫崎享】(19.08.26)
・TPP以上 断固認めず-日米貿易交渉で自民対策本部(19.08.06)
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