【緊急寄稿:日米FTA】まさに「失うだけの日米FTA」【 東京大学教授・鈴木宣弘】2019年8月26日
-いつの間にか消えた捏造語TAG-
安倍首相とトランプ大統領は8月25日、首脳会談で日米貿易交渉について大枠で合意した。牛肉の関税を38.5%から段階的に削減し9%にするこなど今後、協定が締結される見込みだが、協定とは別に大豆、トウモロコシの輸入も約束したという。合意内容に不明な部分の多いが鈴木宣弘東大教授に緊急寄稿してもらった。
日米FTA交渉をめぐって、多くの報道で農産物の開放を「TPP水準にとどめた」かのように強調されているが、これは間違いである。
(1)そもそも、TPP水準が大問題だったのだから、TPP水準にとどまったからよかったかのような報道が根本的におかしい。
(2)加えて、米中貿易戦争で行き場を失った米国農産物の「はけ口」とされ、大豆、トウモロコシなどの大規模な追加輸入の約束がセットで行われたのだから、これは明らかな「TPP超え」だ。それにしても、1年間の日本の飼料用の輸入総量の3か月分近くに相当する275万tものトウモロコシの追加輸入は驚異的な量であり、どうやって処理するのか理解に苦しむ。
牛肉・豚肉の関税削減で遅れをとった分を早く取り戻したいという米側の要請に応えて、アーリー・ハーベスト(先行実施)的に急ぐものを中心に決め、TPPで合意していたコメや乳製品の米国枠の設定は先送りされたとの一部報道がある。これについては、
(3)まず、牛肉・豚肉などの関税削減スケジュールを速めて他国に合わせることは、協定としては「TPP超え」だ。
(4)また、かりに先送りされたとしても、コメや乳製品の枠が再協議されることは間違いなく、これは「TPP超えを回避した」わけではなく、現時点で「TPP水準」と報道するのは間違いだ。TPPで合意していたコメや乳製品の自国枠を米国が放棄するわけはない。ただし、コメについては、すでに、日本が別枠の輸入(SBS米)で米国産米を大幅に買い増ししており、7万tのコメの米国のTPP新設枠がすでにほぼ満たされるまでに日本側が対応している実態がある。
一方、普通自動車の2.5%の関税は25年後に撤廃、大型車の25%の関税は29年間現状のままで、その間に日本が安全基準の緩和を着実に履行すれば30年後に撤廃するという気の遠くなるようなTPPでの日米合意さえ、米国は破棄するとしている。
農産物は米中紛争の「尻ぬぐい」も含めたTPP水準超えで、一方で、成果としていた自動車の約束は反故にされたのだから、まさに、得るものはなく、「失うだけの日米FTA」であることは間違いない。自動車への25%の追加関税に脅されて、やはり差し出すだけになった。
また、「FTAではない」とごまかすために、日米共同声明を捏造してTAGだと言い張ったが、案の定、今はTAGという呼称は消えた。FTA交渉入りをごまかすための方便だったことが明白になった。やらないと国民に言ったことをその場しのぎでごまかして進めていく姑息な姿勢がどこまでも続いている。
(関連記事)
・【クローズアップ日米交渉】「農業」差し出しに躍起【評論家・孫崎享】(19.08.26)
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