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【 クローズアップ 日米FTA】決定版!やはり「失うだけの日米FTA」【 東京大学教授・鈴木宣弘】2019年9月2日

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穀物購入ありきで理由は後付けいつの間にか消えた捏造語TAG

 政府は日米貿易交渉で8月に「意見の一致をみた」として9月末の協定の署名をめざして調整するという。大筋合意ではなく意見の一致をみただけのため、合意内容を明らかにしていない。ただ、新たな日米貿易協定とは別に米国産トウモロコシの前倒し輸入の約束をしたことは明らかにした。日米交渉の問題点は何か、東京大学の鈴木宣弘教授は「やはり失うだけの日米FTA」と指摘する。
 (編集部注:本稿は8月26日に「緊急寄稿:日米FTA」として掲載されたものに鈴木教授が加筆・修正された「決定版」です)。

◆「TPP水準」を意図的に強調する姑息

東京大学鈴木宣弘先生 日米FTA交渉をめぐって、多くの報道で農産物の開放を「TPP水準にとどめた」かのように強調されているが、これは間違いである。
 (1)そもそも、TPP水準が大問題だったのだから、TPP水準にとどまったからよかったかのような報道が根本的におかしい。
 (2)加えて、米中貿易戦争の「尻拭い」役として、トウモロコシなどの大規模な追加輸入の約束がセットで行われたのだから、これは明らかな「TPP超え」だ。


◆米国の「廃棄場」?-追加輸入ありき(5月)で理由は後付け

 それにしても、日本の飼料用輸入の3か月分、300万トン近くものトウモロコシの追加輸入は異常な量であり、どうやって処理するのか理解に苦しむ。
 政府は害虫による食害のために不足するから追加輸入すると説明しているが、苦し紛れの言い訳に聞こえる。そもそも、害虫は確認されているが、食害はほとんど起きていないと農林水産省の担当課も認めている。
「すでに8月初旬に政府は前倒し輸入を決めていたのだから、食害対策が先にあった」という指摘もあるが、5月末の東京での日米首脳会談のあと、トランプ大統領が「日本との貿易交渉で大きな進展があった。農産品と牛肉は大変な影響がある。7月の選挙の後、大きな数字を期待している」とツイートし、加えて、記者会見でも「おそらく8月に両国にとって素晴らしいことが発表されると思う」と発言し、「TPPなんか関係ない」と言い放った、ことを思い返せば、5月の時点で穀物輸入が決まっていたと考えるのが自然である。
 また、食害が懸念されている日本の飼料用トウモロコシは葉や茎を青刈りして発効させる粗飼料であるが、米国から輸入しているのは濃厚飼料となるトウモロコシの実(粒)で「別物」である。粗飼料と濃厚飼料の給与にはバランスが必要で、完全には代替できない(注)。
 国産のコメをトウモロコシに代わる飼料にしようと推進しているエサ米政策とも真っ向からバッティングする。
 要は、「追加輸入ありきで理由は後付け」の感が強い。残念ながら、日本は、米国(大統領)の「忠実な手下」(ワシントンポスト紙)として、「親分」の後始末をする「廃棄場」(dumping ground)になったと言われても反論しづらい。
 処理方法としては、3国間貿易(日本が買ってモノは直接アフリカなどの別の国に米国から送る)、バイオエタノールをつくるとかが考えられる。


◆日本の畜産農家は飼料コスト増加に苦しめられる

 さらに、注意すべきは、米国の中国向け農産物で行き場を失ったのは大豆で、トウモロコシは、近年、中国向け輸出はほとんどない。ただ、トウモロコシ需給も緩和しており、シカゴ相場が暴落している。米国農家は大豆とトウモロコシと小麦を輪作しているので、日本のトウモロコシ買い付けで相場が上昇すれば、穀物農家は助かる。日本の畜産農家にとっては飼料コストアップの不利益を被ることになる。


◆乳製品枠などが「二重」に課される「TPP超え」

 牛肉・豚肉の関税削減で遅れをとった分を早く取り戻したいという米側の要請に応えて、アーリー・ハーベスト(先行実施)的に急ぐものを中心に決め、TPPで合意していたコメの米国枠は調整中で、乳製品などの米国枠の設定は見送られたとの報道がある。これについては、
 (3)まず、牛肉・豚肉などの関税削減スケジュールを速めて他国に合わせることは、協定としては「TPP超え」だ。
 (4)また、TPP11では、米国も含めた全体の輸入枠を、米国が抜けたのに、そのまま他の11か国に適用した品目が、乳製品も含めて33品目もある。これらについて、日米2国間で米国枠を「二重」に再設定すれば、ただちに「TPP超え」となる。TPPで合意していた乳製品などの自国分を米国が放棄するわけはなく、「見送り」といっても、再協議されると考えるのが自然である。だから、これは「TPP超えを回避した」わけではなく、現時点で「TPP水準」と報道するのは間違いだ。
 (5)コメの輸入ついては、7万トンの米国のTPP新設枠を2国間交渉で15万トンまで増やすよう、米国のコメ団体は「TPP超え」を要求していた。ただし、すでに、日本が別枠の輸入(SBS米)で米国産米の購入を増やそうと努力している傾向があり(表)、どのような数字で落ち着くか、注視する必要がある。

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◆日本の唯一の成果は反故に

 一方、普通自動車の2.5%の関税は25年後に撤廃、大型車の25%の関税は29年間現状のままで、その間に日本が安全基準の緩和を着実に履行すれば30年後に撤廃するという気の遠くなるようなTPPでの日米合意さえ、米国は破棄するとしている。


◆まさに「失うだけの日米FTA」~エンドレスに続く「25%」の威嚇効果

 農産物は米中紛争の「尻拭い」も含めたTPP水準超えの一方で、成果としていた自動車の約束は反故にされたのだから、まさに、得るものはなく、「失うだけの日米FTA」であることは間違いない。自動車への25%の追加関税に脅されて、やはり差し出すだけになった。
 恐ろしいのは、味をしめた米国大統領は、引き続き25%関税をちらつかせることで、際限なく日本に「尻拭い」・「肩代わり」を要求してくるということである。威嚇されるたびに、毎年300万トン近く買わされたら、あっという間に1000万トンになってしまう。この関係を断ち切らない限り、日本国民の未来は暗い。
 しかし、過去に日本が「勝ち取った」ものがある日米交渉が存在したかというと、そもそも、戦後ずっと、米国の要求に順次応えて差し出していく「失うだけ」の交渉が延々と続いてきた。ずるずると米国の要求に応え続ける対米従属的な政治・外交姿勢から脱却できない限り問題は永続することを改めて深刻に認識しないといけない。


◆捏造語TAGはいつの間にか消えた

 また、「FTAではない」とごまかすために、日米共同声明を捏造してTAGだと言い張ったが、案の定、今はTAGという呼称は消えた。FTA交渉入りをごまかすための方便だったことが明白になった。やらないと国民に言ったことをその場しのぎでごまかして進めていく姑息な姿勢がどこまでも続いている。

(注) 青刈りの粗飼料と粒の濃厚飼料としてのトウモロコシの違いについて、多くのメディアでも筆者の発言も引用しつつ、優れた記事が出されている。ただ、例えば、酪農家はデント種のトウモロコシを青刈りしてデントコーンサイレージをつくる。だから、青刈りで発酵させる粗飼料用と粒の濃厚飼料用のトウモロコシの違いを「サイレージコーン」と「デントコーン」という用語で対比するのはおかしい。これは筆者が用いた用語ではないので、ご理解いただきたい。


(関連記事)
【緊急寄稿:日米FTA】まさに「失うだけの日米FTA」【 東京大学教授・鈴木宣弘】(19.08.26)
【クローズアップ日米交渉】「農業」差し出しに躍起【評論家・孫崎享】(19.08.26)

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