田代洋一横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授 女性が浮き彫りにする日本農業と農村(上)【クローズアップ 農業白書】2020年6月19日
政府は令和元年度の「食料・農業・農村白書」を6月16日に閣議で了解し公表した。本文は400ページを超える。わが国の食と農、農村をめぐる状況の何を示し、何を語っていないか。田代洋一氏が分析した。
自己改革は進展した
令和元年度白書は、「農林水産省としては、農協改革集中推進期間において自己改革は進展したと評価しており、今後は信用事業等の農協を取り巻く環境が厳しさを増す中、農協経営の持続性をいかに確保するかが課題となっています」と農協改革を評価した。昨年度の、自己改革について認定農業者等と農協にはギャップがあるとする指摘から、トーンが変わった。まずその点を確認しておきたい。
さて今年度は、「特集」で、食料・農業・農村基本計画の策定と女性農業者をとりあげ、「トピックス」でG20の農業大臣会合をふまえたSDGs、発効した日米貿易協定をとりあげている。ついで1~3章で食料、農業、農村が論じられ、第4章で多発する自然災害、東日本大震災からの復興状況、そして新型コロナウイルス感染症を取り上げている。
輝きを増す女性農業者
男女共同参画社会基本法の施行から20周年ということで、白書として初めて農業女性を焦点をあてた。画期的なことである。女性に関する施策は生活改善運動の「かまど・台所改善」から始まり、1999年の男女共同参画社会基本法と新基本法がばねになって本格化し、2003年の認定農業者制度の改正で共同申請が可能になり、女性も4.8%を占めるに至った。家族経営協定も5.8万件に達した。
女性の農業経営への参画は約5割、認定農業者農家や家族法人経営では6割になった。女性の経営参画が収益増に寄与していることを白書は強調する。
女性による起業も1万弱になり、個人起業が増えている。農業委員、農協役員に占める女性の割合も1割前後に達した(本紙既報)。しかしジェンダー・ギャップ指数は153か国中121位にとどまる。
課題として、図1で男性に比して家事・育児の負担が極めて大きい。農業男性の家事時間は圧倒的に少ない。他産業就業女性を比較すると、他産業女性は、総時間は多いが、家事は3割少なく、育児には3倍かけている。また白書は高齢化とともに農村における介護の問題も大きくなるとしている。農業における「働き方改革」とはジェンダー問題だと言える。
以上の分析については、第一に、「農業女性」だけでなく農家(農村)女性という切り口が重要だ。すると農家女性を変えた最大の要因が他産業就業、兼業経験であり、女性の力で農村社会のあり方を変えていくという課題も浮かび上がる。
第二に、作目による違いへの注目が必要だ。稲作は大型機械化が進み、男中心の世界になり、稲作農家女性は外で働くという家族分業になったが、野菜・果樹・畜産等では家族協業が欠かせない。作目ごとに基幹従事者に占める女性割合は大差ないが、経営参画は酪農、施設野菜、果樹等が高く、稲作は低い。多くの事例が北海道と西日本からとられ、東日本が少ないのも作目に関連する。
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