田代洋一横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授 女性が浮き彫りにする日本農業と農村(下)【クローズアップ 農業白書】2020年6月19日
食料自給率の低下要因分析
今年の白書は自給率(国内生産/国内消費)の低下の原因に踏み込む結果になっている。図2でカロリー自給率については、(1)総供給熱量(分母)の減少、(2)小麦・大豆・新規需要米の生産(分子)の増大の二つが自給率の引き上げ要因になり、(3)国産米熱量(分子)の減少、(4)その他の品目の国産熱量(分子)の減少が引き下げ要因になる。とくに最近では(3)(4)の要因が大きい。(3)は食料消費の変化だが、(4)は国産品から輸入品への代替であり、国境障壁を引き下げた結果が自給率低下だ。(1)からは自動的に自給率が上がるはずだが、現実には下がっている。(4)でふんばらないと自給率は向上しない。
図3の生産額ベースでは、a.国内消費仕向額(分母)の増が、b.国内生産額(分子)の増より大きかったために自給率が低下した。aは「輸入品も含めて食料価格の上昇による」、bは「高付加価値品目の取組の進展や生産量の微減傾向等による価格の上昇」によるとしている。円安が自給率を引き下げた。
白書はカロリー自給率より生産額自給率の方が高いのは、日本農業が「カロリーの高い土地利用型作物よりも畜産物、野菜、果実等の付加価値の高い作物の生産に比較優位があることを示唆」しているとし、「比較優位のある品目を生産・輸出していくことが重要」、「国内生産では十分に賄うことのできない食料を安定的に輸入することも必要」としている。つまり「比較優位」の高付加価値作物に特化し、「比較劣位」の穀物は「国内生産では十分に賄うことのできない食料を安定的に輸入することも必要」だとする。
自由化によりこのような比較生産費原則の貫徹に任せた結果が、カロリー自給率37%という現状ではないのか。
白書は「飼料自給率を反映しない」「食料国産率」も示している。カロリーベース自給率は37%だが、食料国産率だと46%に上昇する。畜産物に至っては15%が62%にアップする。数字の魔術だ。同時に「国産飼料基盤に立脚した畜産業の確立」も大切として、現状は25%の飼料自給率を新基本計画の目標としては34%に引き上げたとする。しかし2015年計画の飼料自給率目標は40%だった。それを引き下げたことについては白書は語らない。
世帯主年齢階層別の食料消費額の格差
図4の世帯主年齢階層別にみた世帯員一人当たり食料消費額の推移では、年齢階層が下がるほど食料消費額が少なくなるという年齢階層差が一貫している。筆者は消費額の低い若い層が低消費を引きずったまま加齢していくことを懸念したが、それは杞憂だった。
しかし、「60歳を目安に食料消費支出の傾向が異なり、60歳以下の年齢では長期的に減少傾向にある」、すなわち年齢階層格差は拡大傾向にある。食い盛りの幼子をかかえた若い世代の消費額が少なく、高齢層が多額を消費する社会はいかがなものか。年齢層格差とその拡大傾向の背景には、非正規等をはじめ若い層の労働条件の劣悪さがあるのではないか。農業としても見過ごせない問題である。
災害列島ニッポン化とコロナ危機
白書は、とくに2010年代に豪雨、台風、地震等の自然災害が頻発し、その被害額が増大傾向にあること、東日本大震災からの営農再開や農地復旧が厳しい状況にあることを指摘し、新型コロナウイルスへの対応で締めている。
まず影響としては、深刻な需要・労働力不足、臨時休校等による給食・イベント中止による需要減、保護者が出勤できない農業法人の苦境、輸出向け生鮮物流の停滞、チャンスロス等があげられている。対策として資金繰り支援、給食休止に伴う手立て、買いだめ監視、国産食材の消費拡大キャンペーン、労働力確保支援等が報告されている。
白書が新型コロナウイルス問題をとりあげたこと自体は高く評価されるが、突っ込み不足は否めない。時間的制約もあるが、エビデンスに依拠する白書の限界もある。新型コロナウイルスを契機に、国民の生活様式、外食→中食(テイクアウト)→内食(自炊)といった食べ方、高級牛肉からテーブルミートへといった需要の変化、適疎の田園生活の見直し、そこでの農業・農村のあり方といった文明次元での透視力が問われる。そこに数字や事例を提供する白書の努力に期待したい。
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