テキサス洪水被害は対岸の火事か 公務員削減が安全・安心を脅かす 農林水産行政にも影響2025年7月15日
米国南部テキサス州で7月4日に発生した洪水は、死者が120人を超えた。現地では懸命な行方不明者の捜索作業が続く。国立気象局による警報が同日未明になったことから、気象局を管轄する海洋大気庁の予算削減が被害拡大の一因ではないかとの議論が米国で起きている。日本でも、政府各省庁の公務員定数は減らされ続け、農水省では特に顕著だ。テキサス洪水被害は、現場ニーズを顧みない公務員削減が社会の安全、安心に与える影響について、私たちに警鐘を鳴らしている。
7月4日朝、テキサス州のグアダルペ川周辺で突如嵐が発生し、最大約381mmの雨が観測された。同地域の1年分にあたる雨量だった。
海洋大気庁元長官の指摘
気象予報を出す国立気象局を管轄する海洋大気庁は予算を大きく削られ、そのことが予報能力に影響している可能性があるとの同庁元長官のリック・スピンラッド氏は指摘している。今回の予報との関係は不明だが、人員削減で多くの気象台が人手不足に陥っているという。
新規定に縛られた連邦緊急事態管理庁
一方、連邦緊急事態管理庁(FEMA)を管轄する国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は、支出削減を目的に、10万ドル(約1500万円)を超える契約や助成金支出は、事前に長官の承認を義務付けるという規定を制定した。CNNは、この規定が迅速な対応を妨げたとするFEMA職員の声を伝えた。ノーム長官が洪水発生から72時間以上たった7日になって、FEMAによる都市捜索救助隊の派遣を承認した。
農水省に顕著な定数削減
テキサスでの教訓が示すように、現場ニーズを顧みない公務員削減は、日本でも同様の懸念を抱かせる。特に農水省の職員定数の問題である。
2004年度には3万713人だった農水省の職員定数は2025年度には1万9164人まで、約38%減らされた。公務員定数削減は政府全体の方針だが、同時期、全省庁の定数は約8%減にとどまっている(定数は33万2843人→30万6090人)。
狙い撃ちされた農水統計と食糧管理
背景にあるのが、2005年12月24日の閣議決定「行政改革の重要方針」だ。今後5年で国家公務員の5%以上純減させるとし、「農林統計関係」「食糧管理関係」などが「行政ニーズの変化に合わせた業務の大胆な整理」をすべき項目に明記された。
2006年3月には、行政減量・効率化有識者会議が進捗を整理した文書をまとめている。農林統計関係では5000人、食糧管理関係では7400人が削減目標とされ、統計については「国家公務員による実地調査(実査)の廃止など、主要業務ごとに大胆な整理を行うことが必要」、米の備蓄も民間活用を、検査が民間に移管できるのだから生産・流通調査等はすべて民間委託せよ、などの「指摘」(今後の検討の方向)が並ぶ。
農水省が、人員を大幅削減するなら政府全体で配置転換(による雇用維持)が必要と訴えると「業務についての議論と配置転換の受皿の議論は全く別」と一蹴。統計については「公務員でないと実査ができないとの説明は、民間を信用していないものであって、承知できない」とも述べている。
経済界を中心とする「官から民へ」の大合唱の中、現場の専門性、営利企業とは異なる公務の意味は軽視され、すべては効率とコストに短絡されていく。これら有識者に農林水産行政への理解がいかほどあったかは疑問だが、閣議決定を錦の御旗にした「削減圧力」に農水省は抗いきれなかった。
「令和の米騒動」にも人員削減の影
時はめぐり、19年後の今年。「令和の米騒動」が問題になる中、3月12日の衆議院農水委員会で江藤拓大臣(当時)も、農水統計の精度に関連し、「われわれ農水省は、統計部局を中心に人員削減を厳しくやられてきた。その弊害が一部出ているのかなという気はする」と述べた。北神圭朗議員(有志の会)の質問に答えた。農水省が需給見通しを見誤った一因には米の収量や流通量の把握の精度不足があった。江藤前大臣も答弁したように、その淵源にあったのが統計関係、食糧関係の職員大幅削減だったといえる。
「削減ありき」見直す時
農相が国会で「弊害」に言及するほど事態は深刻だが、昨年7月30日、農水省には今後5年、新たに1465人の「定員合理化目標数」が突きつけられた。新しい基本法、基本計画にもとづく5年間の「農業構造転換集中対策期間」の出鼻を挫くようなタイミングだった。
米国に話を戻せば、トランプ政権は連邦緊急事態管理庁(FEMA)への支出制限だけでなく、FEMA廃止さえ計画していた。国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は13日、廃止を取りやめる考えを示した。テキサス洪水を受けた事実上の軌道修正だ。日本でも、安全保障に関わる分野での公務員削減は、単なる効率化ではなく、市民の生活や生命を脅かすことにもなりかねない。
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