格差、貧困にどう立ち向かうか JC総研2013年4月2日
JC総研はこれからの研究課題として5つのテーマを設定している。その一つ「格差・貧困等社会的排除の克服」の公開研究会を3月20日、東京で開いた。拡大している経済的・社会的格差の実態をとらえ、どう克服するか、協同組合の視点から考えようというもので、3つの報告をもとに意見交換した。
◆社会的事業所促進法の早期制定を訴え
研究会ではNPO法人・共同連が「社会的事業所」づくりを提唱。もともと障がいのある人の働き場をつくることから始まった社会的事業所だが、障がい者だけでなく、職に就けない若年層から高齢者、さらに薬物やアルコール依存症者など、社会的に排除されているさまざまな人を対象にする。
つまり、障がい者も健常者も共に働く事業所であり、報告した同連の齋藤懸三事務局長は「事業所では、職員も利用者の区別もない。お互いが仲間だと考えている」という。仕事だけでなく、しっかりした分配による所得を保障する社会的事業所づくりのため、齋藤事務局長は「社会的事業所促進法」の早期制定を訴えた。
報告では併せて、この運動に取り組んでいるイタリアの社会的協同組合を紹介。同組合は、[1]障害のある人、ない人も組合員として対等[2]三障害のほかに社会的不利な人を含めて全体の30%以上で構成[3]国・自治体などから優先的に仕事の提供を受ける、などの特質を持つ。
(写真)
格差、貧困の克服に向けた取り組みについて討議した公開研究会
◆生活保護の問題はどこにあるか
次いで日本の社会保障制度について、立命館大学の唐鎌直義教授が、「貧困」のとらえ方と生活保護の問題点を指摘。同教授は独自の算出方法からは、全国で1204万9300の貧困世帯があり、全世帯の25%におよぶ。うち実際に生活保護を受給しているのは127万4200世帯で、捕捉率10%余りに過ぎない。
唐鎌教授は「生活保護者の増加に警鐘が鳴らされているが、被保護者として把握された貧困者は氷山の一角に過ぎない」と指摘。その上で日本の社会保障制度の問題点として、「貧困の大量性と稼働世帯の貧困」を挙げる。
家族のあり方が大きく変化したなかで、生活保護申請に課せられる扶養義務者調査は現実的でなく、また、わずかの所持金まで対象となる資力調査のため、申請者が丸裸にならないと受給できない。この結果、働いている困窮者の収入より、生活保護給付が多いという逆転現象が生じることになる。
これは、限定的に認定された貧困者だけを対象とする日本の社会保障制度に問題があるという。「生活保護制度の外側にあるべき各種社会保障制度がどれもナショナルミニマム(国家が国民に対して保障する最低限の生活水準)の機能を持たないからだ」と指摘した。
◆「たまり場」から生まれる取り組み
北海道釧路市のNPO法人地域生活支援ネットワークサロンは、障がい児や子どもを持つ親の会からスタートし、共に働いて収入を得る事業体づくりの取り組みを報告した。
始まりは「たまり場」にある。同ネットワークサロンの日置真世理事は、「困っている、必要だという声を拾い、動くことから地域ができる」という。
その上でたまり場は、単に場所ではなく「多様な人たちが出会ったり、交流したりする機会、機能、仕掛けのこと。そこから共通の目的やテーマを定め、協力して取り組むことが大切」と、具体的な課題の必要性を強調する。
こうした過程を経て生まれたのが、料理教室、就職準備講座、農園での農作業体験など、さまざまな共働のプロジェクトである。現在、子育て支援、市民活動、児童福祉、地域福祉、自立支援など、さまざまな分野に広がり、20拠点、雇用職員170人の事業体となり、生活困窮の若者も多く受け入れている。
◇
なお次回の公開研究会は、同じテーマで4月13日に開く。
その後、[1]地域づくり(地域社会の疲弊・不均衡発展をどう克服するか。国の地域づくり政策と対置して)[2]東日本大震災復興(自助と連帯の関係性と可能性)[3]循環型社会の形成(その可能性と運動の方向)[4]若者・子どもたちの未来(いま、何が求められるか)のテーマで行う。
(関連記事)
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・「日本の貧困、その現状」 インタビュー:湯浅誠氏(反貧困ネットワーク事務局長・内閣府参与)(2010.10.20)
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