農業の外国人材とODAの掛け算を考える JICAフォーラム2019年7月22日
(独法)国際協力機構(JICA)は7月19日、「農業分野の外国人材の受入れ×ODA」を考えるフォーラムを、東京・市ヶ谷のJICA研究所で開催した。
同フォーラムは、JICAの農村開発部が4月に設立した産官学などの「食と農の協働プラットフォーム(略称=JiPFA)※」が主催し、JA全中と国際農業者交流協会、日本国際交流センターが協力し、外務省と農林水産省の後援で開催したもの。JiPFAの地方創生分科会による、日本と途上国の農村が共存するモデルの構築に向けた取り組みの一貫で、同プラットフォームに参加する企業や研究者、行政などから約120人が参加した。
JICA副理事長越川和彦氏
これまで農業分野では、外国人技能実習法に基づく国際協力の枠組みで外国人技能実習生の受け入れが行われ、技能実習計画の範囲内で農作業などへの従事が認められてきた。ただ、現実には日本で仕事をして報酬を得ることを目的とした技能実習生がいることや、送出国において日本で習得した技能が帰国後に母国の開発に十分に活かされていないといった課題が指摘されてきた。
今年4月1日に施行された改正出入国管理法では、農業分野(耕種農業と畜産農業)では、外国人材が「特定技能1号」ビザを取得して労働者として入国し就労することが可能となったがなお課題は多い。
こうした中で開催された今回のフォーラムのねらいについて、JICAの越川和彦副理事長は開会挨拶の中で、「JICA事業のODA(政府開発援助)と外国人技能実習制度を意識的に連携することにより、技能実習生を送り出す途上国の農村への効果的なアプローチの可能性がより広がる」との期待を述べた。
その後、関係団体、技能実習生の現地国からの送り出しと日本での受け入れに携わっている関係者や青年海外協力隊OBらが、さまざまな課題の解決に向けて何ができるのかをそれぞれの視点から報告した。
◆トリプルウインの国際協力を
(公財)日本国際交流センター執行理事の毛受(めんじゅ)敏浩氏は、日本と途上国と双方の農業と事業参加者の3者の「トリプルウィン農村事業」を提案。外国人材を一過性ではなく、地域社会を担う可能性ある人材として受け入れることは、移民排斥の世界的動きの中で、ウイン?ウインの受け入れビジョンとなり、「技術協力と国際交流の融合」の取り組みは世界へ発信できると語った。
◆ハウスミョウガを支える技能実習生
高知県須崎市の事業協同組合「くろしお農業振興協同組合」代表理事の吉川浩史氏は、青年海外協力隊員でフィリピンに赴任した経験を持つ。同県が姉妹交流協定を結ぶフィリピンのベンゲット州から技能実習生を受け入れてきた。1997年11月の1期生からの受け入れ総数は774名に上る。高知県のハウスミョウガの生産を実習生が支えている。3年間の技能実習を終えて帰国した人の70%が現地で就農しており、研修中に得た資金で家族と村が潤っているという。
◆カンボジアに送出機関の現地法人設立
香川県善通寺市の外国人技能実習の監理団体「ファーマーズ協同組合」理事長の近藤隆氏は、自身の農園で主に葉物野菜と米を生産している。ファーマーズ協同組合の組合員は全58戸で100名近くの生産者がいる。うち外国人技能実習生を受け入れているのは39戸。
カンボジアに現地法人の日本語学校と併設の送り出し機関や農場も整備するなど、送り出し側から受け入れまでを一気通貫した仕組みを整備している。
◆帰国後に役立つ実習先を選定
(公社)国際農業者交流協会業務部長の清水利広氏は、同交流協会の取り組みを紹介。高知県のくろしお農業振興協同組合と同じく、フィリピンの高原野菜の産地であるベンゲット州からの技能実習生を高原野菜の産地である長野県の八ヶ岳地域に限定して受け入れている。技能実習生にとって日本での技能実習で学んだことが帰国後に活用できる。また、JICAの草の根技術協力プロジェクトでベンゲット州で技能実習修了生の技術指導も実施。
◆3年かけて実習生の事業プラン作成を指導
(株)農園たや代表取締役の田谷徹氏は、インドネシア・タンジュンサリ農業高校卒業生から選考し技能実習生を受け入れる取り組みを報告した。田谷氏は、インドネシア・ボゴール農科大学大学院修了という経歴を持つ。1997年から2000年まで青年海外協力隊隊員としてインドネシアに赴任。08年からタンジュンサリ農業高校卒業生の農業者子弟を技能実習生として受け入れている。
ユニークな点は、技能実習生が帰国後に起業するために必要な知識を身につけさせる取り組み。3年をかけて本格的なビジネスプランづくりを田谷氏が自ら指導。また「農園たや」の職員をJICAの事業でタンジュンサリ農業高校の教員として現職派遣し、現地の高校の農業教育向上と、実習修了生へのフォローアップ活動につなげている。
パネルディスカッション
左から、モデレーター・JICA上級審議役山田英也氏、日本国際交流センター毛受敏浩氏、
ファーマーズ協同組合近藤隆氏、くろしお農業振興協同組合吉川浩史氏、
国際農業者交流協会清水利広氏、(株)農園たや田谷徹氏、JICA農村開発部長宍戸健一氏
※JiPFAとは、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール2「飢餓を終わらせ、食料安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」の達成に向け、関係省庁・機関、大学、民間企業、業界団体、市民社会、国際機関駐日事務所およびJICA関係者が、途上国および日本の課題解決のため、情報共有・連携促進のために設立したネットワーク。
重要な記事
最新の記事
-
政府備蓄米、出荷急ぐ落札業者 店頭に並ぶのは4月初旬から? 今後の価格は見通し分かれる2025年3月25日
-
7年産米の事前契約価格に関心強まる【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月25日
-
「ぎふ清流GAP認証」のイチゴとトマト 子どもたち23人が農業体験 JA全農岐阜2025年3月25日
-
スプリングフェアに3600人超参加 農機に加えて園芸資材や生活関連など35社出展 JA全農いばらき2025年3月25日
-
JA全農「ニッポンエールプロジェクト」第5弾「瀬戸内広島レモン」共同開発商品を順次発売2025年3月25日
-
「JA全農杯全国小学生選抜サッカー大会」九州代表チームが決定 優勝は佐賀県の「サガン鳥栖U-12」2025年3月25日
-
がん共済の仕組改訂 収入減にも対応 JA共済連2025年3月25日
-
直売所売り上げの一部を宇城市に寄付 JA熊本うき2025年3月25日
-
編集本部と制作本部を統合 4本部体制へ (一社)家の光協会2025年3月25日
-
【人事異動】(一社)家の光協会(4月1日付)2025年3月25日
-
千葉工業大学の学生たちとJAいちかわがコラボ 地元産「船橋のなし」がグミに さわやかな香りと濃厚な味わい2025年3月25日
-
蒸し大豆と味付け大豆 「幻の大豆」がオリジナル商品に JAあつぎ2025年3月25日
-
冷えても硬くならない 味・粘り・つや、三拍子揃った米「ミルキークイーン」 JA稲敷2025年3月25日
-
農家向け家庭雑誌『家の光』が創刊100周年 4月1日に記念号発売 家の光協会2025年3月25日
-
JA三井リース、安田倉庫 余剰電力循環型太陽光PPA導入 九州営業所の再エネ活用比率を最大化2025年3月25日
-
「春の牛乳シューカン」4月1日から『新生活応援キャンペーン』開始 ホクレン2025年3月25日
-
「AIビーフ技術」のスタートアップ ビーフソムリエへ出資 AgVenture Lab2025年3月25日
-
廃棄ユニフォームをポーチへ アップサイクルプロジェクト開始 ヤンマー2025年3月25日
-
体の内側から紫外線&乾燥対策「明治Wのスキンケアヨーグルト」新発売2025年3月25日
-
「私のフルーツこれ一本 1日分のマルチビタミン」新発売 カゴメ2025年3月25日