女性農業者の活躍に焦点-農業白書2020年6月16日
政府は6月16日の閣議で令和元年度の「食料・農業・農村白書」を了承した。白書は巻頭特集で3月に閣議決定した新たな基本計画を解説するとともに、59冊めとなる白書で初めて「輝きを増す女性農業者」と題して女性農業者に焦点を当てた。

白書では女性農業者の活躍の軌跡を振り返った。戦後、女性は農作業に加えて家事、育児、介護による過重労働を強いられるなか、1948年から農村女性の地位向上を目的とした生活改善普及事業が始まり、台所改善による家事労働の効率化を進めた。
その後、高度経済成長期には男性の農外就労機会が拡大した。「とうちゃん」は農外就労し、「じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん」が農業を営む、いわゆる「三ちゃん」農業のなかで女性はより中心的な役割を果たすが、同時に家事、育児、介護も負担となった。
ただ、1970年ごろからは稲作機械の導入で農作業労働が軽減し、女性ならでは発想や知恵を活かした起業活動が生まれ農業経営に参画する女性も出現したことを指摘している。
農水省は1992年に「農山漁村の女性に関する中長期ビジョン懇談会報告書」を初の女性行動計画として策定した。99年には「男女共同参画社会基本法」が施行、同年施行の「食料・農業・農村基本法」でも男女共同参画を規定した。白書で女性農業者を特集したのは令和元年度が男女共同参画社会基本法の施行20年目にあたるため、と農水省は説明する。
白書はこの20年間の変化を解説。基幹的農業従事者に占める女性の割合は46%から40%へと減少したが、女性の認定農業者は1999年の2000人から2019年には1万1000人へと5倍に増加した。認定農業者に占める女性の割合も1.6%から4.8%へと3倍に増加した。
農業法人の役員に占める女性の割合は21.8%で、建設業(20.3%)、製造業(18.7%)、運輸業・郵便業(19.6%)、卸売業・小売業(21.8%)と同水準か、やや高い状況となっている。
これまでも指摘されてきたことだが、女性が経営に関与している農業経営体は収益も増加している。経常利益の増加率は、女性が経営主か役員に登用されている経営体では3年間で126.6%だった。一方、女性が経営に関与していない経営体では55.2%で71.4ポイントの差があるなどのデータを紹介している。
また、農村での女性起業も1997年度の4040件から2016年度には9497件へ2倍以上増加した。白書は、個人による起業が増加傾向にあり、グループから独立したり農外から参入する事例が生まれているとし、女性の目線による細やかな気配りや対応、女性ならではのアイデアが経営面で強みとなっていると指摘する。
2000年から2019年までの間で、農業委員に占める女性の割合は1.8%から12.1%、農協役員は0.6%から8.4%に増加した。
白書では滋賀県で全JAが女性役員の登用に取り組み、役員全体に占める女性割合は15.1%と第4次男女共同参画基本計画の成果目標15%を全国に先駆けて達成した事例を掲載している。
こうした現状の一方で課題も整理した。農村では依然として家事や育児は女性の仕事である認識され男性にくらべて負担が重くなっている。女性農林漁業者の一日の仕事、家事、育児の合計時間は7時間7分で男性にくらべ1時間19分多いというデータも掲載している。また、女性の新規就農者は農作業のきつさ、栽培技術、子育てなどに悩みを抱える傾向にあり、女性が働きやすく暮らしやすい農業・農村をつくるためには、農村における意識改革、女性の活躍に関する周囲の理解が必要だと指摘。仕事、家事、育児などの役割分担を明確にした家族経営協定の締結や、農業経営改善計画の共同申請、女性農業者のつながりの強化などの必要性をあげている。

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