農村発イノベーション推進 新たな農村政策 今年の焦点2021年1月4日
昨年3月末に閣議決定した食料・農業・農村基本計画では、農村政策を改めて重視、「新しい農村政策の在り方に関する検討会」(座長:小田切徳美明治大学教授)を設置して議論を進めている。コロナ禍で農村の価値が見直されるなか、農山漁村の地域資源をフル活用して所得と雇用機会を確保する「農村発イノベーション」の推進をどう支援するかなどがテーマとなっている。
「すそ野の拡大」課題
今回の農村政策検討の視点は、農業・農村の担い手の「裾野の拡大」にある。農水省は基本法が掲げる「効率的かつ安定的な農業経営」の育成・確保を引き続き進めていくとしながらも、とくに中山間地域では担い手不足が深刻化していることから、大規模な専業経営だけでなく、多様なかたちで「農」に関わる人々の確保を支援することも打ち出し、そうした人々に農外の所得とも組み合わせて十分な所得が確保できるよう「所得確保手段の多角化」が必要だとした。
とくにポストコロナ時代を視野に農村への人の流れを加速させるには農業所得だけでなく、活用可能な地域資源を発掘し所得に結びつける農村発イノベーションによって、安心して農村で働き生活することができるような地域の核となる事業体の育成が必要だとしている。農水省は農村発イノベーションの事例として検討会に以下のような事例を示した。
1つはJAたじまなど兵庫県豊岡市のコウノトリと共生する地域づくり。コウノトリの野生復帰に向けた取り組みを生き物を育む農法として実践してブランド化した。コウノトリ育むお米の売り上げは10年間で2200万円から3億5000万円に増加したという。「農村×生物多様性」の事例だとする。徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」も例に挙げる。料理を彩るつまものの栽培・出荷で年商2億6000万円。寝たきりの高齢者が減少したり、観光客も増加したなどの成果をあげた。これは「農村×飲食業」によるイノベーションだという。
これらの事例は成功事例としてすでに有名な取り組みだ。今後は都会の若者などを農村に呼び込んで定着するような事業を創出する核となる事業体をどう育成するかを課題としている。
受け皿づくりを支援
農水省はそれらの事業体の育成支援のため現場の事例をふまえ事業体を2つに分類し議論をしている。
1つは地域商社型の事業体で農業のほか、食品加工、観光、再生エネルギーなど多角的に事業を展開し雇用機会を創出する事業体。検討会では岡山県の西粟倉村のエーゼロ(株)・森の学校の例が報告された。
人口1500人に村で2004年以降に45社ほどの小さい会社を立ち上げ、現在年約20億円の売り上げ。事業は行政の委託を受けた移住や起業支援のほか、林業と木材加工、養鰻業や鹿肉加工、さらにグループホームなど福祉関連事業まで多彩に展開。スタッフは約70人で2011年度に126人だった中学生以下の子どもたちが2019年度には154人に増えるなど活性化している。「人と自然をテーマする地域総合商社」を掲げている。
もう1つが地域運営組織型の事業体だ。こちらは農地保全や子育て支援など地域住民にとって必要不可欠な事業を行っているが、それ自体としては採算が取れていないこともある。こうした地域運営組織をどう支援していくかも課題となる。
総務省などに資料によると地域住民が中心になって地域課題の解決に向けて持続的に取り組みを実践する地域運営組織(RMO:Region Management Organization)は、2015年の1680組織から2019年には5236組織にまで増えている。市町村数も2019年で742(45%)となっている。
たとえば、島根県安来市比田地区の住民有志が住民アンケートなどをもとに10年後のめざすべき地域像を策定し、地域組織を立ち上げ農作業受託や米のブランド化、公共交通ない地域での輸送事業、高齢者の居場所づくり、買い物支援などを行っている。2017年には、えーひだカンパニー(株)として株式会社化した。
こうした組織への支援策のあり方も議論されている。
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