「自分の分だけでは足りず、他の園児の食べこぼしを拾って食べていた......」貧困対策 基本法に位置づけを 基本法検証部会2022年11月14日
11月11日に開かれた農政審基本法検証部会で全国フードバンク推進協議会の米山廣明代表理事は満足に食事ができていない子どもがいる日本の貧困の実態について話し、基本法のなかに経済的な困難を抱える世帯への食料供給対策を位置づけるべきと訴えた。
第3回基本法検証部会
米山氏は2000年代初頭までは一億総中流という意識のなかで「貧困問題が社会問題として十分に認知されていなかった」と指摘、基本法制定以降、国内でも貧困率が上昇し、平時でも経済的な理由で十分な食料が確保できていない世帯が増加していると話した。
フードバンク山梨が県内の保育士に対して園児が貧困世帯で育てられていると思った場面を聞いたところ、「自分の分の給食だけでは足りず、他の園児の食べこぼしを拾って食べていた」、「おかわりがないと崩れ落ちて泣く。床に落ちている食べかすや自分の足の裏についたごはん粒などちゅうちょなく口へ運ぶ」、「朝食を食べておらず外に遊びに行ったが、フラフラと歩いて戻ってきてテラスに倒れ込んだ」、「体が大きくなったのに、小さいサイズの服を来ている」などの経験が記されたという。
調査が実施されたのは2017年。米山氏は「昨今のコロナ禍や物価高騰の影響で生活が大変になる世帯が増えていることは事実だが、以前から大変な環境で生活せざるを得ない世帯が存在しているということ。平時の問題だと認識してほしい」と強調した。
そのうえで国連食糧農業機関(FAО)は食料安全保障について定義を「すべての人がいかなる時にも...十分で安全かつ栄養ある食料を物理的にも社会的にも経済的にも入手可能であるときに達成される」と定義していることから、平時における食料安全保障として食料品アクセス困難者や経済的な困難を抱える世帯への対応を「フードチェーン全体として考えていくべきではないか」と訴えた。
福山市立大学の清原昭子教授は「食費を切り詰める対象から解放する」ために、贅沢でなくても一定の豊かさで食生活を送れるように、消費者を巻き込んだ食料政策、賃金上昇を実現する社会政策などの提言が必要だと話した。また、農政における消費者の位置づけを見直し、「食べ物の作られ方、食べ物を作る仕事を分かる力」を消費者が備えることによって「極端な低価格志向や、食品を大量に廃棄するライフスタイルを抑制できないか」と提起した。
委員であるJA全中の中家徹会長は、現行基本法では、不測時のみ食料安全保障の問題が発生するとしているが、これを見直して「平時を含めた食料安全保障の強化を基本法の目的に明確に位置づける」ことや、FAОや諸外国も参考に、わが国としての食料安全保障の「定義」を明記すべきだと話した。
また、貧困対策も重要だとして米国のフードスタンプを参考に、子ども食堂やフードバンクなどと結びつけて「日本版フードスタンプ」の創設も求めた。米国のフードスタンプ(緊急食料支援プログラム)は政府が買い上げた余剰農産物をフードバンクなどへ提供する制度。EUにも同様の欧州困窮者援助基金(FEAD)がある。いずれも政府が農産物を買い上げることから農業者への支援ともなっている。
ただ、米山氏は現行の生活保護の一部を食料支給に代替すると、困窮する子どもたちが増える懸念もあるとして食料支援対策を導入するには「社会保障制度をより強固にすることが前提」と強調した。
今回の基本法の見直しでは、不測時だけなく平時の食料安全保障を考えるべきとの考えは委員の間で一致し農水省もその方針を示した。
ただ、経済的に食料の入手が困難な人がいる一方、大量の食品ロスも出している状態にある。齋藤一志農業法人協会の副会長は「十分に食べられない子どもたちがいることに驚いた。生産の現場では過剰で出荷規格があるため3分の1ぐらいは捨てている。加工品の(納入期限)ルールも廃棄つながっているのではないか」と食品ロス対策が重要と話した。
余剰農産物を買い上げて加工品として生活弱者に供給する仕組みなどの必要性を指摘する意見の一方、「買い上げは市場を歪めないか」との意見も。また、食料が支給されるのではなく「1人1人の消費者が選んで買えることが大事。その点では安価で安定的に買えることは大事だが、生産コストが上がって農業者は苦境にある。それをどう支援するか考える必要がある」と日本生協連の二村睦子常務理事は話した。
また、大橋弘東大副学長は、食料安全保障を「自給率だけでなく貧困率や食料へのアクセサビリティなど広い指標で検討すべき」と指摘した。
一方で食料を生産する農業者をどう確保するかも課題だ。茂原荘一群馬県甘楽町長は「平時の食料安定供給にとって、農家が安心して生産できることがいちばん必要。収入の確保、後継者(確保)という基礎的なことが大事だ」と訴えた。
次回は「農業」をテーマに「人口減少下における担い手の確保」を検証する。
最新の記事
-
シンとんぼ(61) 食の安全とは(19)毒性試験最後の代謝試験2023年9月23日
-
みどり戦略に対応した防除戦略(11)1作期を通じたのリスク換算量【防除学習帖】 第217回2023年9月23日
-
有機質資材を活用した施肥(36)有機質資材利用の基本【今さら聞けない営農情報】第217回2023年9月23日
-
インボイス制度開始迫る 影響未知数 現場JAの声を聞く2023年9月22日
-
【注意報】豆類に吸実性カメムシ類 府内全域で多発のおそれ 京都府2023年9月22日
-
(350)単位と勉強時間【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年9月22日
-
極早生みかん「早味かんフェア」福岡みのりカフェで開催 JA全農2023年9月22日
-
【みどり戦略】マニュアスプレッダとラジコン草刈機の普及拡大 アテックス2023年9月22日
-
札幌近郊農畜産物の消費拡大を応援 JAさっぽろ【ほっとピックアップ・JAの広報誌から】2023年9月22日
-
【みどり戦略】炭素固定と土づくりを両立する"高機能バイオ炭" TOWING2023年9月22日
-
生成AI/GPT活用により、新規用途の発見数が倍増 三井化学2023年9月22日
-
【人事異動】クボタ(10月1日付)2023年9月22日
-
新規就農者 7割が農業規模の拡大めざす 農業経営実態アンケート 産直アウル2023年9月22日
-
滋賀県で新規就農「ミニトマト農業体験@平和堂ファーム」参加者募集 平和堂2023年9月22日
-
鶏卵生産のCO2排出量削減へ 農林中金、アスエネと取り組み開始 八千代ポートリー2023年9月22日
-
【みどり戦略】土壌データ等に基づく「自動潅水施肥装置」の普及拡大 ルートレック・ネットワークス2023年9月22日
-
【人事異動】全国農業会議所(10月1日付)2023年9月22日
-
米・米粉消費拡大推進 「米粉料理を作って豪華景品を当てよう」キャンペーン開始2023年9月22日
-
農林水産省「ペレット堆肥の広域流通促進モデル実証」に採択 ユーグレナ2023年9月22日
-
農業事業に本格参入 ドローン農薬散布のAvirtech社から事業譲受 テラドローン2023年9月22日