米の輸出促進に向け乾田直播や菌根菌で水稲栽培 官民タスクフォースが会合2024年6月26日
農林水産省の「超低コスト・超低メタン輸出米」官民タスクフォースは6月13日に同タスクフォースのメンバーの生産者や種子・農薬メーカー、研究者らによる第1回の会合「未来の米づくり」対話をオンラインで開いた。2023年産の実証結果を生産者が報告するとともに24年産の課題などを話し合った。
オンラインで開かれた第1回「未来の米づくり」対話
タスクフォースは耕起、代かき、田植えという慣行栽培から転換し、「乾田直播・節水灌漑」による「超低コスト・超低メタン」の米づくりで輸出の拡大をめざす。活動は2023年度から始めている。
農水省は乾田直播・節水灌漑の栽培体系を確立によって、日本の豊かな水と灌漑インフラは維持しながら、乾田直播と播種後も湛水せずに水を節約することで、コストを引き下げるとともにメタンの発生の抑制につなげて輸出の促進を図りたい考えだ。世界の米取引が環境への配慮から「低メタン米」を優先するようになっていることへの対応でもある。
また、水問題を抱えるグローバルサウス(インド、中央アジア、アフリカなど)では節水型米づくりが貴重な選択肢となることから、日本での栽培技術の確立は世界の食料安全保障にも貢献することになる。
ただ、今回の対話で農水省は輸出用米のためだけではなく、乾田直播と節水灌漑技術をきっかけに、大豆の連作障害対策として乾田直播による米づくり、麦、大豆とトウモロコシなど輪作体系の確立や、不耕起とカバークロップによる地力再生農業(Regenerative農業)や、日本海側などの湿田地域でも確立できる湛水直播による栽培体系の確立なども提唱した。
乾田直播による生産コスト削減試算によると、慣行栽培にくらべて約6割削減されるという(60kg1万4758円〈R3年平均・個別経営→同6445円、多収米720kgで試算〉
また、菌根菌などを活用した乾田直播・節水灌漑では、播種後も湛水せず必要になった時にだけ水を供給するため、土壌は一貫して好気性環境となり、CО2の約25倍の温室効果を持つメタンを9割程度抑制できるという仮説も出されている。
こうした水稲栽培を可能とする技術の1つが、マイコス(VA菌根菌)だ。菌根菌は植物の根と共生し、土のなかに菌糸を伸ばしていく。根では届かない地中にまで伸ばすことで根のみとくらべて約5倍の表面積を作り出すことで効果的に養分を吸収し、成長が促進される。
もう1つがビール酵母から開発したバイオスティミュラントである成長促進・土壌改良資材。タスクフォースメンバーのアサヒバイオサイクル社がビール醸造過程で生成されるビール酵母から開発し、2021年に稲作不適地の北海道網走で菌根菌とビール酵母資材を施用したところ、陸稲栽培に成功したという実績がすでにある。
ビール酵母細胞壁のβ-グルカンは病原菌と似た構造をしていることから、これに植物が触れると病原菌に感染したと勘違いし、根を伸ばすなど結果として生育が活性化するという。
こうした栽培技術のほか、メンバーのシンジェンタジャパンからは乾田直播栽培の除草技術が紹介されたほか、BASFからはAIを活用したほ場ごとの雑草発生予測と除草技術の有用性なども報告された。
また、米の輸出についても外食、冷凍食品、小売り向けといった精米輸出だけではなく、ライスレジンやSAPポリマーなど工業用原材料、米粉など多様なかたちでの輸出も検討すべきとの課題も提起された。
第2回対話は10月を予定しており、収穫までの全栽培過程を振り返り、課題を共有する。
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