基本法農政 国民議論と農業予算増を 説明会で意見交換 農水省2024年7月11日
農林水産省は7月10日、本省で食料・農業・農村基本法の改正や関連法についての説明会を開いた。今後、農水省は7月12日から8月8日にかけて北海道から沖縄まで全国11ブロックで地方説明会を開く。
多くの人が参加した説明会
説明会で基本法の改正のポイントのほか、食料供給困難事態対策法、農振法等改正法、スマート農業技術活用促進法について担当者が説明した。
25年ぶりの改正となった基本法は、気候変動や世界人口の増加、国際情勢の不安定化などによる輸入リスクの増大を踏まえ食料安全保障を基本理念の柱と位置づけたうえで、食料の安定供給は国内生産の増大と基本とし、これと安定的な輸入と備蓄を組み合わせる。
改正によって新たなに位置づけられたのが「輸入の安定化」で輸入相手国への投資の促進を明記し、民間企業による主要な穀物生産国の港湾施設や集出荷施設への投資を促す規定を盛り込んだ。
また、国内人口は減少しマーケットが縮小していくなかで農業生産力を維持するために輸出の促進について条文を新設したほか、食料を持続的に供給するため食料の価格形成は「合理的な費用」が考慮されるよう規定した条文も新設した。
「食料安保」とともに柱となるのが、「環境と調和のとれた食料システムの確立」だ。生産から流通、加工、消費までを食料システムと捉える考え方を打ち出し、そのシステムは環境への負荷を低減させるものでなければならないとしている。
改正前は水田の水源涵養機能など農業の多面的機能の発揮を位置づけていたが、改正法では環境負荷の低減を図ることが重視されている。
そのほか人口が減少するなかで農業生産を維持するためにスマート農業や新品種導入などによる生産性の向上や付加価値の向上といった方向を明確化し、農村の振興では「地域社会の維持」を目的とし、農地保全についての地域の共同活動の促進について条文を新設した。
こうした改正基本法のもとで目標やそれを実現する具体策などを明確にするのが「基本計画」であり、2024年度中に策定されることから、近く検討が始まる。
次期基本計画では食料自給率とその他の食料安全保障の確保に関する事項の目標達成状況を年に一回調査・公表するとしており、PDCAサイクルを回していく仕組みを導入する。
食料自給率以外の目標は基本計画の審議のなかで示される見込みだが、海外依存度の高い肥料などの生産資材の調達状況など食料安保に関わる事項が設定されるとみられる。
自給率 要素で目標設定
また、説明会で農水省担当者は食料自給率の目標設定についての考え方を示した。
食料自給率は供給食料に占める国内生産の割合を示す数値だが、小麦や大豆など輸入に依存している作物を増産しても、一方でほぼ100%自給の米の消費が減少していることから、食料自給率は低下していると農水省は説明する。
たとえば、2022年のカロリーベース自給率は38%だったが、大豆、小麦など国内生産の増大で+1.9%となったものの、米の消費減少で▲3.0%と自給率には正反対に作用して、農水省は「これらの結果としての食料自給率の数値のみで政策を評価することは困難」と説明する。
このため次期基本計画での食料自給率目標の設定は、品目ごとの生産と消費など、自給率を構成している要素に分けて目標を設定して検証していく必要があるとしている。説明会ではこのほか、食料供給困難事態対策法について、平時とくらべて供給量が2割以上減少し、1日当たりの摂取カロリーが1900kcalを下回るおそれがある場合を食料供給困難事態とすることや、今後定める基本方針では米、麦など特定食料のほか生産資材など特定資材についても備蓄方針を定めることなどが説明された。
出席者から次期基本計画の策定に向けて国民的議論が重要であることや、農業予算増額が必要なこと、有機農業の振興と学校給食への供給に対する目標設定、食料の価格形成の仕組みづくりへの期待などの意見が出された。
農水省は環境への負荷を低減する有機農業などの取り組みや学校給食などへの地域食材に利用などは基本計画策定に反映させる考えを示すとともに、これらを盛り込んだ「基本計画の実施に必要な予算を確保する」と述べた。
また、価格形成の仕組みについては「コストがそのまま転嫁させる仕組みではない」ことを強調し、事業者の取引のなかでこれまで考慮してこなかったコストを示して価格形成する仕組みを検討していくとして、来年の通常国会への法案提出を視野に制度の検討を進めていると話した。
説明会にはオンライン視聴も含めて約1000人が参加した。
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