農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(69) 厳しさ増す2013年の農業・農政2013年1月8日
・予想された選挙結果
・危惧されるTPP問題
・自公新政権、当面の農政課題は何か
今年の農業・農政はきびしい展開になるのでは、と私は予想しているが、皆さんはどうお考えだろうか。
大方も予想していたことだが、年末の衆院選は、やはり自民党の大勝で終わったが、民主党を初めて政権につかせた前回の衆院選とくらべると、特に農村部での変化が目立った。
◆予想された選挙結果
今年の農業・農政はきびしい展開になるのでは、と私は予想しているが、皆さんはどうお考えだろうか。
大方も予想していたことだが、年末の衆院選は、やはり自民党の大勝で終わったが、民主党を初めて政権につかせた前回の衆院選とくらべると、特に農村部での変化が目立った。
それもある程度予測されたことではあった。前回衆院選後の本欄(30)で指摘したように、「“強きを助け、弱きを挫く”新自由主義的構造改革農政に痛めつけられた農家の人たちの農政転換への強い要望が、急浮上した民主党批判の声などは受けつけなかった」のが前回衆院選だったのに、農家の人たちの期待を全く裏切る新自由主義的方向への転換を民主党執行部が見せるようになっていたからである。
農政転換の象徴として歓迎され、農家に広く受け入れられた戸別所得補償政策については、法制化による施策の安定化を農水大臣が替る度に言明したにもかかわらずついに実行しなかったし、逆に最強の新自由主義路線ともいうべきTPP参加に首相を先頭に民主党執行部が前のめりになってしまったことを指摘しておこう。“「あなたがTPP反対を叫んでも、野田佳彦首相は交渉参加を表明するのでしょう」…遊税先で農家にこう問い詰められた候補者もいる”(12.12.19付「日本農業新聞」)のでは負けて当然、となろう。
◆危惧されるTPP問題
そのTPPについての自民党公約は、“「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対”だった。が、選挙で大勝してから持たれた自民党総裁と公明党代表との会談で取り交わされた自公連立政権の政策合意文書でのTPPの扱いは、“FTA・EPAをはじめ自由貿易をこれまで以上に推進するとともに、TPPについては、国益にかなう最善の道を求める”と、“反対”は無くなり微妙に変わっている。
この問題についての公明党の選挙公約は、“事前協議の内容が公開されず、国民的議論は不十分。広く国民生活に影響を及ぼすため、国会に調査会か特別委員会を設置”だった。これとも政策合意はちがう。
関連して注意しておく必要があるのは、安倍首相が経済財政諮問会議の再始動、その会議の民間委員としてTPP推進派として知られている伊藤元重東大教授らの起用を決めたことである。
古い話で恐縮だが、安倍首相が初めて総理になった07年の5月に、農産物の“国境措置については…対象品目、関税率とも最小限にすべき”こと、“最小限”の国境措置はその当然の帰結として食料自給率の低落を覚悟しなければならないが、“オープンな国創りにおける食料安全保障の意味を再検討すべきである…。輸入による安定的な食料供給をどのように確保していくかは我が国にとって喫緊の課題であり、EPAはその有力な手段と考えられる”という提案をしたのがこの経済財政諮問会議だった。
またまた“オープンな国創り”が強調されることになるのではないか、私は惧れている。
◆自公新政権、当面の農政課題は何か
農政についての自民党選挙公約で第一に注目されたのは“政権交代後に大幅に削減された農林水産予算の復活”だった。前々回の本欄(67)で問題にしたように“民主党政権下の予算編成が、それまでの予算編成と大きく異なったのは、公共事業費、そのなかでも農業農村整備費を大きく削ったことだった。…以後もその水準下で推移してきた”のだが、それを09年度予算水準に戻すというのである。
民主党政権下では初めてのことだったが、農林水産業を三大重要分野の一つとして位置づけた「日本再生戦略」を受けて農水省が練り上げ民主党農林水産部会も了承した13年度概算要求額は2兆3166億円だった。12年度予算を1439億円上回る要求額だが、それでも自民党政権下の9年度予算2兆5605億円を2439億円下回っている。どういう事業にどれ位積み上げられた13年度予算になるか、刮目して待っていたい。
戸別所得補償政策については、前回本欄で紹介しておいたように自民党の多面的機能直接支払い法案だが、公明党は“固定部分維持、変動部分は農家拠出を伴う”制度と若干異なる。連立を組むからには調整した上でということになるが、林農水相は就任直後の記者会見で、13年度は、“それほど大きな変更にはならないと思っている”“現場を混乱させないと考えれば、抜本的な見直しの検討は2014年度予算に向けてということになると思う”と語った(12.12.28付日本農業新聞)。
“現場を混乱させない”ように慎重に施策を練ることに異論はない。が、自民党の方針については、“わが国の財政に大判振る舞いする余裕はない。バラマキが農業の体質を一層弱めかねない危うさは自民党が最もよくわかっているはずだ”(12.12.31付朝日新聞)という批判がもう出ている。“オープンな国創り”論者と共通する批判といっていいが、こうした批判に立ち向かう覚悟が自公新政権にはあるのかどうか。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日
-
全国のうまいもの大集合「日本全国ふるさとマルシェ」東京国際フォーラムで開催2025年9月16日
-
産地とスーパーをつなぐプラットフォーム「みらいマルシェ」10月から米の取引開始2025年9月16日
-
3つの機能性「野菜一日これ一杯トリプルケア」大容量で新発売 カゴメ2025年9月16日
-
「国民一人ひとりの権利」九州大学教授招き学習会実施 パルシステム2025年9月16日