農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(84)重要品目の「聖域放棄」が合意事項か?―TPP日米協議―2014年5月9日
・吟味不足の日豪EPA
・国会決議との整合性を問え
4月7日、日豪EPA交渉が大筋合意となった。その内容は本紙4月20日号で鈴木教授が詳論されているので、ここではふれる必要はないだろう。問題は、鈴木教授も指摘されていることだが、"当初懸念されたよりは、柔軟な形で決着したことになる"とはいえ、"牛肉、プロセス・チーズなどの関税枠の設定やナチュラル・チーズの無関税枠の設定は、やはり「重要品目は除外または再協議の対象」という国会決議に反すると言わざるを得ない"ということである。
◆吟味不足の日豪EPA
この問題について、合意後の4月9日にもたれた“自民党農林水産貿易対策委員会で森山裕委員長は「決議はぎりぎり守られた」と発言”したことを4月18日付全国農業新聞が報じていた。“「除外または再協議というのは農家のみなさんの再生産を担保するという意味であろう」……森山委員長はそう述べ、法制化も視野に入れた今後の国内対策が重要になるとの考えを示した”そうだ。また、“江藤拓副農相は交渉の中で党での議論や国会決議の存在が重要な役割を果たしてきたことを強調。「再生産が不可能な合意内容でまとまったとは思っていない」とも述べ、国内への影響を見極めながら、今後必要な対策を講じていく考えを示した”という(同紙)。
“除外または再協議”を森山委員長のように理解する人はいないだろうし、“今後の国内対策が重要になる”ということなら、合意内容それ自体では“再生産”が“担保”されていないことを意味しよう。誤魔化し、すり替えと言わなければならない。4月8日の参議院農水委で民主党の小川議員(北海道)は、“「除外でも再協議でもなく、明らかな決議違反だ」と指摘した。また共産党の紙智子氏(比例)は「開き直りだ」として批判した”そうだし、同日の公明党農林水産部会では“国会決議との整合性から問題あるとし、政府による丁寧な説明を求める声が挙がった”という(4月9日付日本農業新聞)。正式署名・発効までにはまだ時間がある。国会の先生方にはしっかり吟味してもらいたいものだ。
◆国会決議との整合性を問え
誤魔化し、すり替えは、TPP交渉に関しても行われているのではないか。EPA大筋合意についての政府・自民党の取り扱いを見て、そう感ずるのは私だけだろうか。
そのTPPに関しては、国賓として来日したオバマ米大統領への手土産として、尖閣諸島に日米安全保障条約適用の共同声明への明記容認と引き換えにTPPでの大幅譲歩、聖域放棄が行われるのではないか、と心配されたが、共同声明でのTPPへの言及は、
“日米両国は、高い水準で、野心的で、包括的なTPP協定を達成するために必要な大胆な措置を取ることにコミットしている。両国は、TPPに関する二国間の重要な課題について前進する道筋を特定した。これは、TPP交渉におけるキーマイルストン(重要な一里塚)となる。両国は全てのTPP交渉参加国に、協定の妥結に必要な措置をとるため、可能な限り早期に行動するよう呼びかける。このように前進はあるものの、TPP妥結にはまだなされるべき作業が残されている。”
というものだった。“前進する道筋を特定した。これは、TPP交渉におけるキーマイルストン(重要な一里塚)となる。”というこの一文、曖昧と言わざるを得ず、多様な解釈が成り立つ。事実、共同声明の発表を受けた日の新聞の夕刊の見出しは、朝日新聞は“合意見送り 徹夜協議溝は埋まらず”、毎日新聞は“合意至らず 「重要課題に道筋」”で合意は見送られたという解釈だったが、読売新聞は“実質合意 「重要課題に道筋」”と合意成立の解釈だった。解釈は主要紙で割れたのである。そして読売新聞の5月2日朝刊は、(農産物の)“五項目 前夜には決着”という記事まで掲載したのである。
これは政府も放置できないと考えたのであろう。”異例”なことだそうだが、TPP交渉担当内閣審議官による合意報道否定の記者会見が行われた(5月2日)。そこで、“前進する道筋”というのは[1]関税率[2]関税を引き下げる期間、方法[3]輸入制限措置(セーフガード)発動基準などを、日米間で議論していくことを確認したことだと説明されたし、その議論は、“[1]?[3]について品目ごとに話し合うだけでなく、コメの関税を維持するなら乳製品の関税をゼロにするといった具合に、全体の「駆け引き」は避けられない”ということだそうだ(5月3日付朝日新聞)。
ということは、重要品目をすべて聖域としては扱わない、ということを確認したということではないだろうか。国会決議との整合性を問題にしなければならない。野党八党は政府のTPP交渉状況審議のため衆参両院に特別委員会設置を求める方針を決めたそうだし、民主党はTPPなどの通商交渉の情報開示を促す法案を議員立法で出すという(いずれも4月22日)。秘密交渉をやめさせるために、是非実現してもらいたい。
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