農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(90)食料生産と財務省の責務2014年11月14日
・なぜクレーム?
・金の切れ目が縁の切れ目!?
・現場の不安打ち消せ
10月21日の日本農業新聞の報ずるところによれば、"財務省は20日、財務相の諮問機関である財務制度等審議会の分科会で、米の生産調整について、飼料用米や麦などの転作助成が「需要より、補助金単価が作物の選択に大きな影響を与えている」と指摘した。食料自給率の面からも「いたずらに財政負担に依存した助成措置だけの向上は困難」と財政支出が増えることに慎重な姿勢を示した"という。
前回ふれたように、今年産米について魚沼コシヒカリで前年産直近対比で60kg当たり1300円安、ひとめぼれで2800円安の新米相対販売基準価格を設定せざるを得なかった全農は、“このままでは米を中心に水田農業を営む担い手・大規模農家ほど経営面での打撃が懸念される”として、15年産飼料用米の生産振興目標を60万トンにする方針を固めた”(9.26付日本農業新聞)が、こういう動きを封じようというのである。
◆なぜクレーム?
民主党農政の看板政策だった米の直接支払い交付金は14?17年半減し18年から廃止する、飼料用米に特別な優遇措置を講じ食用米からの転換を促進するといったことを主内容として生産調整政策を転換(安倍総理はたびたび“廃止”といっているが)する。これは、昨年末、農林水産業・地域の活力創造本部が、“米政策の見直し”として打ち出して以来、自民党農政の主軸になっている。それに財務省がクレームをつけたのである。
これには“自民党の農林議員らに困惑に広がった”そうだが、当然だろう。“「今回の農政改革は飼料米が柱。改革の初年度に後から鉄砲を撃たれたようなものだ」とある自民党農林幹部は財務省の指摘に憤る”と日本農業新聞は解説していた。
西川農水相も今のところは財務省のクレームを受け入れる腹ではないようだ。10月22日の衆院農林水産委員会で財務省の飼料用米への助成の問題視について「農業生産のバランスを取るため、飼料用米をやっていく」「生産が増えていけば予算上のブレーキがかかってくる。しかし、ブレーキがあろうがなかろうが、生産バランスを取るためやっていく」と述べたことを、23日付日本農業新聞は報じていた。問題は15年度予算がどうなるか、にかかってこよう。
◆金の切れ目が縁の切れ目!?
15年度の概算要求額は、前回ふれたように“予算要求できる上限額”2兆6541億円になっている。14年度予算を14.1%上回る。そのなかで生産調整政策にかかわる水田活用直接支払交付金は14年度と同じ2770億円、経営所得安定対策予算は今年度を113億6700万円上回る4064億8600万円である。この要求額が丸々通ったとしても、今年産米につけざるを得なかった低米価の補填対策の一環として全農が15年度飼料用米生産振興目標を今年の3倍としているのに対応できるかが危惧されるのに、これより縮減された予算になったとしたら、飼料用米増産主軸の生産調整政策の転換は不可能となろう。
14年2月10日の本欄で、日本農業新聞モニター調査に52.6%の人が自民党の生産調整転換策は“大きな打撃である”と答えていたこと、全農林刊『農村と都市を結ぶ』誌の時評氏が“…時評子としては、飼料用米自体の推進には異論がない。だが、今回もまた札束で顔を殴るかのような政策誘導の仕方には一抹の不安を覚える。そこには金の切れ目が縁の切れ目といった将来の安易な政策転換の可能性の影がちらつくからだ”と評していたことを紹介しておいた。今回の財務制度審議会での財務省の発言は、まさに“金の切れ目が縁の切れ目といった…政策転換”を財務省が要求し始めたということであろう。一抹どころではない“多大”の不安を農家の皆さんは感じていることだろう。
◆現場の不安打ち消せ
飼料米生産を拡大・流通させるためには、畜産農家が飼料米需要を拡大することが大前提であり、そのためには給餌技術の確立・普及が必要だし、保管・流通施設も主食用米とは別の施設が必要となる。飼料米生産拡大を実現するためには、生産段階とならんで流通段階でも投資を必要とする。
ということは、飼料米拡大政策は長期安定的でなければならないということである。始まって僅か一年で“金の切れ目が縁の切れ目といった…政策転換”を、財布を握っている政府当局が口にするようなことでは、農家が安心して飼料米生産に取り組めないのは当然だろう。
政策に長期安定性が無いのは飼料米生産ばかりではない。電力各社の再生可能エネルギーの固定価格買取制度の契約受け付け中断を政府が放置していることなどもその一つである。農水省が来年も12億を投入しようとしている農山漁村活性化再生可能エネルギー導入等促進対策にしても、この電力会社の契約受け付け中断で現場が困惑しているようでは進めようが無いだろう。農業・農村政策は、長期安定性が無ければ話にならないことを強調しておきたい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日