農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(105)「白書」は国民の不安に応えているか?2016年6月1日
このほど発表された2015年度「食料・農業・農村の動向」所謂「農業白書」は、TPP交渉を特集、合意内容や関連施策などの紹介をトップに持ってきている。2月に関係国署名も終り、タイミングもいいと判断したのであろう。が、白書のその内容を5・25付農業共済新聞が“TPPの意義、効果などこれまでの政府見解を強調するばかりで、農業者の不安解消に向けた努力は見えない”と評していたが、全く同感である。
"農産物関税の交渉では、重要5品目を中心にセーフガードの創設や関税削減期間の長期化などの措置を獲得したなどと自賛し"ていたが、守るべきとして盛んに言ってきた「聖域」がどう扱われ、結果としてどうなったかについては全くふれていないし、"経済効果分析では"農林水産物の生産減少額は最大2100億円と見込"むが"農家所得や国内生産量は確保・維持され、食料自給率にも大きな影響はないとした"が、"所得や生産量が確保・維持される具体的な根拠は示されなかった"し、国内生産が受ける影響について政府試算を上回る影響を受けるとする県が多々あり、中には20倍以上の開きのある県もあるということについて、何の分析も反証も無い。(""内は農業共済新聞)。
◆分析弱い構造問題
施策の内容・方向性が間違っていないことを強調し自讃するのが悪いとは言わない。同時に施策遂行過程でどういう問題が生じ、どう対処方向を出そうとしているのかの分析・記述も白書にはほしいところだ。白書は確かに政府が作り、国会に提出する文書ではある(基本法第十四条1項)。が、その作成に当っては「食料・農業・農村政策審議会」の意見を聴かなければならない」(3項)ことになっている。審議会は政府の立場とは別に問題の分析、提言があって然るべきなのだが、今年の白書にはどうもその点が弱い、と私は感ずる。
例えば構造問題の扱いである。今年の白書は「第2章 強い農業の創造に向けた取組」がそれになる。例えば、「経営耕地面積規模別経営体数の推移」を示した表2-3では、都府県の全経営体の5・6%でしかない5ha以上については、5~20ha、20~50ha、50~100ha、100ha~と4区分して05~15年の増加状況を示しているが、94・4%を占める5ha未満層については一括表示だけである。
今、農政が主テーマにしている"強い農業の創造"という農政課題に即しては、5ha以上層の動きこそ問題ということでそうしたのであろうが、私達としては94・4%を占める5ha未満層がどういう動きをしているのか、も大変気になる。5ha未満層のこの減少数は30万戸、5ha以上層の増加数は計7千戸たらずと表からは計算できるが、この差は離農戸数を意味するのだろうが、5ha未満のどの階層でそしてどこで離農が生じているのだろうか。構造問題の究明のためには、こういう分析を可能にする数字もほしいところだ。
関連して基幹的農業従事者が"一貫して減少傾向で推移し...年齢階層別にみると、65歳以上が65%を占め、40代以下は10%となっており、著しくアンバランスな状態になっています"と指摘しているが、この"アンバランスな状態"がどの階層でもおきているのかどうかは全く考察されていない。注目した5ha以上層でもそうだとすれば問題だと思うのだが、そういったことにはふれたくない、ということなのか記述は全くない。
◆食の安全これでいいか?
記述が全くない、という点で今年の白書はこの問題に全くふれていないがそれでいいのか、と問題にしたいことは"食の安全"に関わってある。
"食の安全"については第1章の第4節が「食の安全と消費者の信頼確保」と題されて"食の安全性の向上に向けた取組""動植物防疫の取組""消費者の信頼確保に向けた取組"等が記述されているが、4月22日の衆院TPP特別委員会で問題になった残留農薬違反輸入食品問題は全く取り上げられていない。
共産党の斉藤和子議員が追求した問題だが、斉藤議員が提示した資料(厚生労働省提示資料に基づき斉藤和子事務所で作成した資料)によると、政府モニタリング調査で基準値を超える残留農薬が検出されたのに、検査終了時点ですでに"全量消費済み"もしくは"全量販売済み"になっていた輸入食品が2014年度で290件もあったという。中には基準値の10倍もあった生鮮とうがらしとか基準値の3倍の4万7000人が消費できる生鮮トマトがある。斉藤議員は、"米国などの緩和要求を背景とした食品衛生法改悪(1995年)で、検査結果が出るまで流通を留め置く検疫検査からモニタリングに改悪されたことを批判し、元の検査に戻すよう求めた"(16・4・23赤旗)が、"塩崎厚労相は何ら具体策を示せませんでした"そうだ。
議員が入手できるような資料は、農水省はすでに手にしている資料だろう。にもかかわらず残留農薬違反の輸入農産物が出廻っていることなど示されていない。こんなことでは"消費者の信頼確保"はできない。
重要な記事
最新の記事
-
第21回イタリア外国人記者協会グルメグループ(Gruppo del Gusto)賞授賞式【イタリア通信】2025年7月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「政見放送の中に溢れる排外主義の空恐ろしさ」2025年7月18日
-
【特殊報】クビアカツヤカミキリ 県内で初めて確認 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年7月18日
-
『令和の米騒動』とその狙い 一般財団法人食料安全保障推進財団専務理事 久保田治己氏2025年7月18日
-
主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末2025年7月18日
-
全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在2025年7月18日
-
令和6年度JA共済優績LA 総合優績・特別・通算の表彰対象者 JA共済連2025年7月18日
-
「農山漁村」インパクト創出ソリューション選定 マッチング希望の自治体を募集 農水省2025年7月18日
-
(444)農業機械の「スマホ化」が引き起こす懸念【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月18日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲害虫の防ぎ方「育苗箱処理と兼ねて」2025年7月18日
-
最新農機と実演を一堂に 農機展「パワフルアグリフェア」開催 JAグループ栃木2025年7月18日
-
倉敷アイビースクエアとコラボ ビアガーデンで県産夏野菜と桃太郎トマトのフェア JA全農おかやま2025年7月18日
-
「田んぼのがっこう」2025年度おむすびレンジャー茨城町会場を開催 いばらきコープとJA全農いばらき2025年7月18日
-
全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を目指す 大分県推進協議会が総会 JA全農おおいた2025年7月18日
-
新潟市内の小学校と保育園でスイカの食育出前授業 JA新潟かがやきなど2025年7月18日
-
令和7年度「愛情福島」夏秋青果物販売対策会議を開催 JA全農福島2025年7月18日
-
「国産ももフェア」全農直営飲食店舗で18日から開催 JA全農2025年7月18日
-
果樹営農指導担当者情報交換会を開催 三重県園芸振興協会2025年7月18日