農政:薄井寛・20大統領選と米国農業
拡大するコロナ禍の農業被害―追い打ちをかける原油価格の急落【薄井寛・20大統領選と米国農業】第2回(下)2020年5月12日
◆最大の課題はエタノール生産の半減
ファーマーズ・マーケットで青果物や加工食品を販売する中小農家や新規参入農家も打撃を受けた。市立公園の駐車場などで開設される直売所が多くの州で閉鎖され、開店許可の州でも顧客が激減したためだ。
農業の被害は多方面に及ぶが、最も注視すべきは穀物価格への影響だ。感染拡大によるエネルギー需要の低迷が一つの要因となって原油価格は4月21日にマイナス水準へ暴落したが、すでに2月中から始まっていた同価格の下落が米国内の穀物市場を急変させた。
穀物の輸出減と過剰在庫による価格低迷に苦しんできた生産農家にとって、その困難な経営を支えてきたのは「再生可能燃料基準」に基づくトウモロコシ由来エタノールの生産奨励策であった。バイオ燃料のエタノールを10~15%含む混合ガソリンの販売を義務付けたこの政策が、トウモロコシ生産量の約40%をエタノール原料用に振り向けてきた。それに加え、連作障害の回避のために輪作体系が維持される米国では、エタノールの生産奨励策がトウモロコシのみならず麦類や大豆の生産均衡と価格も間接的に支えてきたのだ。
それだけに、原油価格の暴落でエタノール価格も下落し、1カ月余りの間に同生産は半減。トウモロコシ価格が20%も急落したことは米国農業界へ大きな衝撃を与えたに違いない(4月28日のブッシェル当たり3.06ドルは2009年8月以来の低水準、図参照)。
こうしたなかでトランプ大統領は4月17日、190億ドル(約2兆円)の救済金を農家へ支給すると公言し、生産者の不安を払拭しようとした。160億ドルが販売減農家への直接補助、残りの30億ドルは低所得者への食料支援用作物の買上資金である。米中貿易戦争による被害農家への各救済金(2018年120億ドル、19年160億ドル)を超える莫大な補助金のバラマキだ。ところが、多くの農業団体は「少なすぎる」と猛反発。肉牛の生産者団体は会員農家の損失額が146億ドルに達すると訴え、養豚生産者団体は50億ドル以上の救済金を要求した。
5月1~10日の間、米国では新たな感染者数が毎日2万人を超えた。そのなかにあってもトランプ大統領は、選挙対策をなりふり構わず優先して経済活動の再開を促進した。焦る大統領。その足下を見透かすかのように、農業団体を含む多種多様な組織や企業が追加救済金の獲得競争にしのぎを削る。
一方、11月の議会選挙を控える野党民主党議員らは、農村医療体制の強化やインフラ整備を含めた大規模な「地方総合救済策」の実施を強く訴える。農家や地方有権者のトランプ岩盤支持層にくさびを入れる。その狙いは明白だ。首都ワシントンでは、大統領選挙の前哨戦が感染第一波の収束前から激化している。
(関連記事)
【シリーズ:薄井寛・20大統領選と米国農業】第2回(上)
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(2)病理検査で家畜を守る 研究開発室 中村素直さん2025年9月17日
-
9月最需要期の生乳需給 北海道増産で混乱回避2025年9月17日
-
営農指導員 経営分析でスキルアップ JA上伊那【JA営農・経済フォーラム】(2)2025年9月17日
-
能登に一度は行きまっし 【小松泰信・地方の眼力】2025年9月17日
-
【石破首相退陣に思う】しがらみ断ち切るには野党と協力を 日本維新の会 池畑浩太朗衆議院議員2025年9月17日
-
米価 5kg4000円台に 13週ぶり2025年9月17日
-
飼料用米、WCS用稲、飼料作物の生産・利用に関するアンケート実施 農水省2025年9月17日
-
「第11回全国小学生一輪車大会」に協賛「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年9月17日
-
みやぎの新米販売開始セレモニー プレゼントキャンペーンも実施 JA全農みやぎ2025年9月17日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」ダイニング札幌ステラプレイスで北海道産食材の料理を堪能 JAタウン2025年9月17日
-
JAグループ「実りの秋!国消国産 JA直売所キャンペーン2025」10月スタート2025年9月17日
-
【消費者の目・花ちゃん】スマホ置く余裕を2025年9月17日
-
日越農業協力対話官民フォーラムに参加 農業環境研究所と覚書を締結 Green Carbon2025年9月17日
-
安全性検査クリアの農業機械 1機種8型式を公表 農研機構2025年9月17日
-
生乳によるまろやかな味わい「農協 生乳たっぷり」コーヒーミルクといちごミルク新発売 協同乳業2025年9月17日
-
【役員人事】マルトモ(10月1日付)2025年9月17日
-
無人自動運転コンバイン、農業食料工学会「開発特別賞」を受賞 クボタ2025年9月17日
-
厄介な雑草に対処 栽培アシストAIに「雑草画像診断」追加 AgriweB2025年9月17日
-
「果房 メロンとロマン」秋の新作パフェ&デリパフェが登場 青森県つがる市2025年9月17日
-
木南晴夏セレクト冷凍パンも販売「パンフェス in ららぽーと横浜2025」に初出店 パンフォーユー2025年9月17日