農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
【ウクライナ危機!食料安全保障とこの国のかたち】シカゴ穀物相場は乱高下し、夏場に過去最高値も(1) 資源・食糧問題研究所 柴田明夫代表2022年3月4日
ロシアのウクライナへの侵攻で、多数の犠牲者が出る深刻な事態が続き、穀物市場では小麦などの価格が急上昇している。こうした中で日本は食料安全保障などの課題にどう向き合うべきか。世界の穀物市場をめぐる現状と日本の取るべき対応などについて、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表に寄稿してもらった。
資源・食糧問題研究所代表
柴田明夫氏
シカゴ穀物市場は2月24日、ロシアのウクライナ侵攻の一報を受け小麦相場が急騰した。小麦先物(期近)価格は1ブッシェル=9.26ドルと前日の8.76ドルから6%弱上昇し、9年ぶりの高値を更新した。大豆、トウモロコシも各16.61ドル、6.95ドルまで急騰。翌25日には高値警戒感や利益確定の売りから急反落したものの、その後買い戻され、3月1日には小麦10.02ドルと節目の10ドルを突破し、2008年6月以降13年ぶりの高値を付けた(図1)。大豆も17.06ドル、トウモロコシ7.40ドルまで上昇した。混乱の長期化に加えて、夏場に米中西部穀倉地帯が干ばつに見舞われるといった最悪のシナリオも見えてくる。
小麦主導で上昇する穀物相場
2021年前後半~22年前半の国際穀物市場では、米国、カナダの小麦生産量が干ばつにより大きく減産した。伝統的な小麦輸出国である米国の生産量が、2021年に北米を襲った干ばつにより、2020年の4,975万tから4,479万tと約500万t減少した。これに伴い輸出量も2,670万tから2,350万tに320万t減少。カナダの小麦生産・輸出量も3,518万t・2,770万tから2,165万t・1,550万tへ、1,353万t・1,220万t減少した。輸出量の減少は、米加両国を合わせると1,540万tで、日本の小麦輸入量(560万t)の3倍近い小麦が国際マーケットから消えた計算となる。
一方、需要サイドでは、世界最大の小麦生産国である中国の小麦輸入量が、2020年以降1,000万t前後まで急増していることで、世界の小麦需給はタイト化しつつあった。特に近年、世界最大の小麦輸出国に浮上したロシアが、国内の食料価格上昇に対処するため、小麦の輸出制限を強化したことから、世界の小麦需給は一気にひっ迫するようになった。なお、ロシアの小麦生産量は近年急増し、2021年は当初8,500万tと2016年に並ぶ記録的生産量を見込んでいたが、その後の干ばつにより7月には7,550万tに下方修正された(図2)。
ロシアが恐れるのはなによりも、高騰する国際市場に向けて小麦輸出が拡大し、国内の小麦需要を賄えなくなる事態だ。このため、ロシア政府は国内の食料価格上昇に対処するために昨年の秋口から輸出制限を強化。同国の小麦輸出関税は、2021年6月初めのトン当たり28ドルから2022年1月中旬には同98ドルに引き上げた。2月15日~6月30日の穀物輸出枠を1,100万t(内、小麦800万t)に設定したことを受け、米農務省は、2021年後半~22年前半の小麦輸出量を、当初の3,600万tから3,500万tへ、100万t下方修正した(図3)。
(2)は5日に掲載します。
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