農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
戦争による人類絶滅の危機加速回避と未来への使命(1)神野直彦・東京大学名誉教授【ウクライナ危機】2022年4月1日
ロシアのウクライナへの侵攻は1か月以上に及び、無差別攻撃による深刻な被害が続いている。深刻な環境問題を抱えている世界にあって、ウクライナ戦争は人類絶滅の危機を加速させる環境破壊をもたらすと警告されている。われわれにはどんな行動が求められているのか。東京大学名誉教授の神野直彦氏に寄稿してもらった。
神野直彦 東京大学名誉教授
私たちは「星の子供たち」である。私たちの身体は水素、酸素、炭素、窒素などという原子から構成されている。原子は宇宙でしか創り出せない。人間の身体を織り上げている原子は、宇宙から遠い旅路の果てに地球に辿りつき、私たち人間を存在させてくれている。私たちは「星の子供たち」なのである。
「生」は偶然だけれども、「死」は必然である。ビッグ・バンで宇宙が生まれ、太陽系の「水色の惑星」である地球に、たまたま生命が誕生する。もちろん、たまたまの偶然的条件で「水色の惑星」に、人類が誕生し、繁栄することになる。
「人類が絶滅しようとしている時に争っている場合か」
天文学の権威である岡村定矩東京大学名誉教授によれば、約50億年後には太陽は主系列星としての寿命を終え、その過程で地球上の生命は消滅する。もちろん、人類も間違いなく絶滅する。つまり、人間にとって「死」は、個人的存在としても、類的存在としても必然なのである。
しかも、人類絶滅の危機は目前に迫っている。岡村教授によると、今世紀末には人類は、過去に経験したことがない過酷な環境で生きていくという絶滅の危機に瀕するからである。もちろん、この人類絶滅の危機を緩和させるか、深刻化させるかは、現在の私たちの行動にかかっている。
ウクライナ戦争の開戦を告げる号砲が鳴り響いた時、この天文学の権威者は吐き捨てるように呟いた。「人類が絶滅しようとしている時に、争っている場合か」と。
破局的戦争への拡大を阻止する責任
戦争は人間の生存条件である環境を破壊する最悪の行動である。したがって、この戦争が人類の絶滅への危機を加速化させて決定づけてしまうことは間違いない。しかし、ウクライナ戦争の開戦は人類の存亡にとって、それ以上の意味がある。
確かに第二次大戦後のパクス・ルッソ・アメリカーナつまりソ連とアメリカとの冷戦体制は、ベルリンの壁の崩壊が象徴するように姿を消している。しかし、1991年にワルシャワ条約機構は解消されるけれども、北大西洋条約機構(NATO)は東へと拡大していく。
マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー名誉教授は、イギリスの政治学者サクワの「2008年のロシア・グルジア(現ジョージア)戦争は、最初の"NATO拡大を阻止するための戦争"だった。2014年のウクライナ危機が二番目だ。三番目が起これば、人類が生き延びられるかどうかはわからない」という言葉を引用した上で、NATOの東方拡大に警告を発していた。それにもかかわらず、この「三番目」の戦争としてのウクライナ戦争の火蓋が切って落とされてしまったのである。
問題は「三番目」の戦争が、人類の絶滅という奈落をもたらすことにある。そうだとすれば、このウクライナ戦争が破局的戦争へと拡大することを阻止する戦前責任は、すべての人類が負わなければならない。というのも、人類の絶滅という戦争の結果責任は、すべての人類が引き受けることになるからである。
仮にウクライナ戦争が人類の絶滅に帰結することを回避して、終結できたとしても、この戦後責任もすべての人類が負うことになる。というのも、ウクライナ戦争は人類絶滅の危機を加速させる環境破壊をもたらすからである。つまり、ウクライナ戦争がすべて人類が協力して、生存条件としての環境を再創造しなければ、人類の絶滅は免れないという過酷な状況を創り出すことは間違いないのである。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日