農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
戦争による人類絶滅の危機加速回避と未来への使命(2)神野直彦・東京大学名誉教授【ウクライナ危機】2022年4月1日
自然環境破壊と社会環境破壊
もしも明日、この世が終ろうとも、人間は明日のために生きなければならないという名言が、真理を語っているとすれば、いかに絶望的状況に陥ろうとも、「理性の悲観主義、意志の楽観主義」を行動原則にして、人類絶滅の危機に抗していかなければならない使命が私たちにはある。人類絶滅の危機は、人間の生存条件としての二つの環境が破壊されることによって生じている。一つは人間と自然との関係である自然環境の破壊でありもう一つは人間と人間との関係である社会環境の破壊である。
この二つの環境破壊という人類にとっての根源的危機は、1991年にヨハネ・パウロⅡ世が、「危機の時代」にローマ教皇の出す「レールム・ノヴァルム」で指摘している。ヨハネ・パウロⅡ世は自然環境の破壊については、まだ不完全ではあるけれども、この恐るべき破壊に人類は気がつき始めている。しかし、人的環境の破壊つまり社会環境の破壊については、人類はまだその存在にすら気がついていないと警告していたのである。
自然には地域ごとに相違する「顔」がある。人間は地域ごとに個性ある自然環境と調和するように、人間と人間との絆を結び、生活様式としての社会環境を形成してきたのである。
自然環境の破壊は、気候変動にのみ現象するわけではない。森林は消滅し、水は枯渇していく。というよりも、生物そのものが異常速度で絶滅し、生態系が崩壊していく。
人間の生活細胞として地域社会の再創造積み上げを
人間の生存の基盤である自然環境が壊されると、自然環境と調和するように形成されていた生活様式も崩れていく。しかも、グローバル化した市場は世界のいたるところで、画一化した生活様式を強制する。それぞれの地域社会に忠誠を誓い、地域ごとに相違する生活様式が維持されると、グローバル化した市場に必要な画一した需要が形成されないからである。
しかし、二つの環境を再創造するには、地域社会ごとに自己再生力のある自然環境を取り戻し、それに調和するように生活様式としての文化を再生するしかない。つまり、人間の生活細胞として地域社会を再創造し、それを下から上へと積み上げて、人間の社会を創り上げていく必要がある。
農業は生活様式としての文化的行為である。ところが、現代の農業では地域の自然環境の全体性を理解する重要性が失われている。地域社会の自然環境と調和した生活様式を支えるためではなく、グローバル化した市場で「儲かる作物」を作ろうとしているからである。
2つの環境を再創造する基本戦略は
しかし、地域社会には人間の生活を支える独自の資源があり、地域社会で生活を営むための食糧も、エネルギーも自給できる。もちろん、そのためには地域社会の構成員の間に、人間の絆としての社会環境が形成されている必要がある。とはいえ、そうした人間の絆としての社会環境の再創造が、相互扶助として地域福祉を支えることになる。今は亡きジャーナリストの内橋克人氏の食糧、エネルギー、ケアを自給する「FEC自給圏」の構想は、こうした構想なのである。
自然環境の破壊は、食糧危機とエネルギー危機として現象する。ウクライナ戦争によっても食糧危機とエネルギー危機が生じる。というよりも、ウクライナ戦争の背後には食糧とエネルギーの利権が見え隠れする。しかし、食糧自給とエネルギー自給は、自然環境と社会環境を再創造するための基本戦略だということを忘れてはならない。
ウクライナ戦争の終結が人類の絶滅をもたらさなくとも、世界を舞台に戦争を繰り広げてきた「ヨーロッパの征服文化」は終わるに違いない。ヨハネ・パウロⅡ世の「レールム・ノヴァルム」は資本主義と社会主義を越えて、「人間の尊厳と魂の自立を可能にする経済体制」を求めている。それは地域社会から二つの環境を再創造し、下から上へと協力原理を織り上げていく社会だということができる。
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