農政:検証・アベノミクス
【検証・アベノミクス】インタビュー 山田俊男・参議院議員 飼料・燃油が高騰苦しむ農業生産者2013年4月27日
・アベノミクス、実体ともなっているか
・「食べていける」農業経営づくりをめざす
・日本の風土に応じた農業経営を
・多面的機能支払いと担い手育成策の構築
・新規就農者は定着支援策も課題に
・TPP国の方向を間違えてはならない
アベノミクスは農業、農村にどんな影響をもたらすか、短期シリーズ第3回は山田俊男参議院議員に聞く。合わせて自民党農政の基本的な方向、さらにTPP問題への対応についても語ってもらった。
(聞き手は農村金融研究会の鈴木利徳専務理事)
TPP 懸念される日本の交渉力
◆アベノミクス、実体ともなっているか
鈴木 いわゆるアベノミクスによって円高修正や株価上昇が起きています。どう評価されていますか。
山田 今の現象は間違いない事実ですが、実体経済を伴ったものかどうか、たとえば企業の海外進出を抑え国内でもう一度雇用を創出してみようという動きになっているのか、あるいは一部企業ではベースアップもあるかもしれませんが、それらが統計で示されるまでにはなっていません。
だから今は、海外の投資家が金融取引を中心に株価上昇で収益を実現している、ないしはその期待感の表れです。ただし変化は起きたということだと思っています。
鈴木 一方で農業経営にはどう影響しているとお考えですか。
山田 現場は悲鳴を上げています。というのは、農産物もこの政策によってきちんと輸出ができる、ということになれば恩恵を実感できますが、福島原発の放射能汚染で引き続き門戸が閉ざされていて期待できません。
一方では、もともと飼料穀物価格が高騰していたのに円安でさらに支払いが増え、畜産農家はもうやっていけないとそれこそ悲鳴です。それから燃油の高騰は施設園芸農家にも打撃ですし、加えて電気料金も上がる。コストが上昇し、これではとても採算がとれないとの訴えが聞かれます。
しかもまだ国民の所得が増えていないから需要が伸びていない。大規模量販店を中心に安く売るために仕入れ価格を抑える動きが相変わらずあるという状況です。
◆「食べていける」農業経営づくりをめざす
鈴木 こうした状況のなか、参院選に向けてまとめる自民党の農業政策について柱になる点をお願いします。
山田 基本は「農業で食べていける経営をつくる」です。
ではどうすればいいか?、やはり土地利用型農業では集落営農も含め規模拡大です。そのための利用集積について、私自身はもっと公的な機関が農地の出し手から預かる、あるいは買い取って、それを規模拡大したい人や経営継承する人、新規就農者に渡していく取り組みを大々的に展開すべきだと思います。 現在は「人・農地プラン」のなかで地域による話し合いをベースに将来の担い手を決め、規模拡大加算措置も講じる取り組みを進めてきていますが、そこにもうひとつ機能を付与し、農地の出し手から預かったり買い取って一次保有し、必要な人に渡していくという公的機関による利用調整推進をぜひ実現したいと思います。
鈴木 野菜・果樹対策については?
山田 この分野では需給調整対策、輸出対策、経営安定対策の3つをそろえて仕組みを提案することが課題だと思っています。
農業共済も野菜や果樹は加入率が低いことがこれまでも指摘されてきましたが、実際に災害が起きたときには農家は非常に苦労します。だから、経営安定対策と農業共済の仕組みをうまく連動させた仕組みをつくっていきたいと思っています。
◆日本の風土に応じた農業経営を
鈴木 畜産・酪農対策については?
山田 これはわが国の国土、風土に応じた特色ある経営体を作りあげていくことだと思っています。
規模拡大し近代化した施設で多頭羽飼育をするというかたちではなくて、牧草生産や飼料用米も含めた国内の飼料生産ときちんと連動する、あるいは徹底した安全・安心を追求するようなかたちでの、言うなれば日本型畜産・酪農経営体をつくっていきたい。
鈴木 “日本型”というのはどんなイメージでしょうか。
山田 たとえば、酪農であれば100頭ないし200頭できちんと経営できるということだと思います。肥育経営でも1000頭、2000頭を肥育し、糞尿処理に大変に苦労をしているというのでは日本型とはいえない。そうではなく、たい肥を投入した一定の国内産飼料を使いながら、一定の家族的な経営が成り立つということだと思います。もちろん“家族的”というのは家族だけでは経営が難しいため、ヘルパーや若い就農者も加わる経営体をきちんと定着させていくということだと思います。
◆多面的機能支払いと担い手育成策の構築
鈴木 多くの人が戸別所得補償制度はどうなるのかと気にしていますが。
山田 いいところはそのまま採用していけばいいと思いますが、全体的に見直すことになっています。
やはり10aあたり1万5000円の固定支払いについて対象者は評価しますが、とくに野菜、果樹、畜産農家からは評価されていません。 この直接支払いの問題はきちんと理屈が立たなければいけないため、農地を農地としてきちんと利用している限りにおいて、多面的機能支払いというかたちに転換していくということだと思います。そうなると米だけではなく、野菜や果樹、牧草生産にも多面的機能支払いをしていくことになります。
それから変動支払いは米価が下がった場合に対象者全部に補てんすることになっていますが、これも見直して国による一定の需給対策を前提に地域で作りあげた担い手経営体、あるいは育てるべき担い手に対して経営所得安定対策を講じるようにします。その際は生産者が一定の拠出を行い、それに見合った補てんが行われる仕組みにすることを考えています。
◆新規就農者は定着支援策も課題に
山田 それから新規就農者支援策も担い手育成支援法を再び国会に提出して法制度化しようと考えています。そのなかで今の対策の弱点は希望者は多いものの、きちんと定着してもらうことができるかどうかです。米であれば農地集積、規模拡大も必要になるし、野菜や果樹は施設も機械も必要になる。しかし、お金を借りられても必要な農地がきちんと集まらないといったことが実際にあります。そこで先ほども話した公的機関が農地を保有し渡していく仕組みも必要にもなるわけです。また、当然、親元での新規経営もあり得るということですが、その場合は親からの経営継承が着実にできるようにするため、生前贈与のあり方や年金の充実なども必要です。
◆TPP 国の方向を間違えてはならない
鈴木 最後にTPPについて交渉参加に向けた動きと今後の課題をお聞かせください。
山田 心配なのは安倍首相の認識が甘いのではないかということです。安倍首相は近隣諸国との外交上の問題も抱えているから、安全保障問題と日米同盟強化という課題のなかで、経済についても連携せざるを得ないと判断したと思います。
もうひとつは農産品はセンシティブだということについて米国に認めさせた、ということです。安倍首相としては、TPPは聖域なき関税撤廃が前提ではないということを約束させることができた、だから、交渉参加は私に判断させてほしい、と言ったわけです。
ところが事前協議でいちばん駆け引きすべき材料である自動車について、関税撤廃するにしても非常に長期にわたって関税を維持することに妥協してしまった。本来、この問題で駆け引きして実現すべきだった農産物のセンシティビティ確保がこれでできるのか、という問題を抱えてしまった。これは失敗でしょう。
また、非関税措置の問題もあります。それもTPP交渉と並行して日米で交渉していくことになっています。これは金融、保険、政府調達、ISD条項を含む投資、食の安全・安心に関わるような植物検疫も含めた基準の問題などですが、米国から押されっぱなしになりはしないか。
これまでの自動車交渉にしろ、日米構造協議にしろ、ことごとく米国からやられっぱなしだったからです。ここはまさに国のかたちを変えさせられることになるとして、われわれがTPPの問題として反対を主張してきた点です。しかし、そうなりかねない問題を抱えてしまった。
私は自由貿易を否定しているわけではないし貿易拡大も必要です。しかし、米国と一緒になって太平洋を自由の海にするという参加表明の際の安倍首相の発言は、TPPの論理をアジアに押しつけることになりかねず、国民全体の安定を考え、産業間の安定的な発展を考えるという意味合いからすれば、自制心が足りないのではないか。われわれが行うべきは安倍首相が間違った方向に行くのであれば、両足に抱きついてでも間違えさせないようにする、ということだと思っています。
鈴木 ありがとうございました。
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