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農政:検証・アベノミクス

【検証・アベノミクス】内山節・哲学者 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授2013年5月17日

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・“神風”にすがりつく人々
・禁じ手を使った安倍政権
・期待できない経済成長
・現実直視、怠れば悲劇
・倫理観なき経済の果て
・地域、基盤に瓦解を防ぐ
・連帯感あふれる社会を

 4月からの短期連載で識者に検証してもらった「アベノミクス」。金融緩和の影響による株価と為替相場のニュースは絶えず、一喜一憂する日本人自身の顔色そのものがニュースになる日々である。しかし、私たちは本当は何をめざすべきなのか。連載の最後は、哲学者の内山節氏に提言してもらった。

ともに生きる社会 再創造を

◆“神風”にすがりつく人々

内山節・哲学者 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授 現実を直視するには勇気が必要だ。ところが、その勇気をもたなかったために問題を深刻化させてしまうケースはよくある。それは個人においても、企業や組織でも、さらには国家でも生じることなのだが、たとえば戦時下の日本が現実を直視する勇気をもたずに悲劇的な終末を迎えることになったのも、そのひとつであったといってよい。
 現実のなかに問題があればあるほど、人間はそれを直視することを避け、日々の惰性や希望的観測のなかに埋没しやすい。しかもそれには不思議な傾向があって、希望的観測が客観的妥当性を失えば失うほど、人はそれにすがりつこうとする。戦時下に、最後は神風が吹いて逆転するというような話がまことしやかに語られたようにである。

◆禁じ手を使った安倍政権

 いまの日本の政治をみていると、この時代を思い出す。たとえばいまおこなわれている金融緩和である。国債を日銀が直接引き受けるに等しい方法でおこなわれている現在の金融緩和は、世界では禁じ手といわれてきたものであった。この方法を使えば、国が国債を乱発しそれを日銀が引き受けるというかたちで、いくらでも国債を発行することができる。しかしその結果は国債と通貨の信用の低下であり、それは制御できないインフレをもたらす。戦時下に発行された戦時国債などが信用を喪失し、それが通貨の信用をも失わせながらまたたく間にお金の価値が失われていった、戦後の大インフレのときのようにである。
 あのときには、一と月の給料では数日間の食糧しか確保できないほどのインフレが発生した。今日の状況下での大規模な金融緩和は、株や一部の不動産などに対するバブルを起こすことはできても、全体としては経済社会の破綻を促進する役割しか果たさないだろう。

◆期待できない経済成長

 では現在安倍内閣が推進しようとしている成長戦略についてはどうなのであろうか。現実を直視するなら、現在の日本ではかつてのような経済成長は期待することはできない。 たとえば住宅建設は経済的な波及効果が大きいが、日本ではすでに800万戸にも及ぶ空き家が発生している。明らかに住宅は余っているのである。東京などでは人口の都心回帰が起きているから都心でのマンション建設などはすすむだろうが、それは郊外の空き家が多くなることと引き替えにである。空き家が増えれば商店街なども立ちゆかなくなるから、全体としてみれば経済成長に寄与する出来事ではなくなる。

◆現実直視、怠れば悲劇

 さらに述べれば日本の国内市場はすでに飽和状態になっている。これ以上の国内市場の拡大を望むことは無理だから、仮に経済成長をとげようとするなら輸出を増やすほかない。ところが現在では中国などの新興国も、東南アジアなどの途上国も国内の生産能力が増大している。この状況で輸出を増やそうとすれば、建設用機械や産業ロボット、品質の高い部品などを輸出していくしかないのだが、それは新興国や途上国で生産されるものの品質を向上させ、日本の電気製品や車などの国際競争力を低下させることになる。とするとこれらのことは、経済成長など希望的観測に過ぎないことをあらわしているはずである。
 現在必要なことは、世界の構造と日本の現実を直視することだ。それをおこたれば、戦時下のごとく、希望的観測が現実になるかのような錯覚に埋没しながら、最後は悲劇的な終末を迎えることになりかねない。
 だとするなら今日の現実とは何なのだろうか。いま述べてきたような日本や世界の変化もひとつの現実である。だがそれがすべてではない。

◆倫理観なき経済の果て

 東日本大震災以降の日本を見ると、そこにはふたつの動きが存在していることがわかる。ひとつは自分たちのコミュニティを再創造しながら、ともに生きる社会をつくりだしていこうとする動きであり、もうひとつは以前の社会に早く戻そうとする動きである。後者からは原発の再稼働やアベノミクスなどの動きがでてくる。このふたつの動きはこの大震災をきっかけにして、日本の社会を新しく再創造するのか、それとも元に戻すのかをめぐる対立である。そしてこのような対立が生まれる背景には、今日の日本の現実があった。
 現在の日本が失っている最大の問題点は、ともに生きる社会の喪失であるといってもよい。人間を使い捨ての労働力としてしかみない今日の経済システムは、大量の非正規雇用と格差社会をもたらした。自然と農民の労働の結晶である農産物を、100円ショップの商品と同じような感覚でしかみない今日の流通は、農民を追い詰め、跡取りのいない農村社会をつくりだしてしまった。社会を支える役割を果たそうという意思も倫理観もない経済が日本を覆い、それがこの社会を瓦解させていったのである。

◆地域、基盤に瓦解を防ぐ

 ともに生きる社会をつくり直そうとする今日の動きは、この現実を直視する人々のなかから生まれたものである。そして東日本大震災が、この動きを加速させた。
 実際、今日の日本が直視しなければいけない課題は、どうしたらともに生きる社会を再創造できるか、なのである。
 それを直視せずに、金融緩和や経済成長などをすすめようとすれば、社会の瓦解がいっそうすすむばかりでなく、前記したように経済破綻も早めてしまうことになるだろう。 ところで、ともに生きる社会をつくろうとするとき、その基盤はどこにあるのであろうか。最も大事なのは地域である。とすれば、人々が幸せに生きられる農山漁村や各地の町をつくりだしていくことを目的において、それを可能にする経済の全体的な仕組みや社会のあり方を構想していくことが、何よりも重要なのである。
 私がTPPに反対する理由もここにある。

◆連帯感あふれる社会を

 今日の日本の課題は、市場原理を強化することではない。課題はともに生きる経済や社会をつくることにあり、その基盤としての地域を活力あるものにすることの方である。そのためには、農民や農村を痛めつける今日の流通の仕組みへの適切な規制の方が重要なのであり、同時に都市と農村との、生産者と購入者との新しい連帯のかたちを模索することが必要なのである。TPP参加によるあらゆる分野の自由化は、今日の現実や課題に敵対するばかりか、いっそう日本の社会の瓦解を促進することになりかねない。
 金融緩和によって経済が活性化するというのも、この社会を変えたくない人々の希望的観測に過ぎない。公共事業などによる財政出動が効力を失っていることも、バブル崩壊以降の財政出動が有効ではなかったことですでに証明されている。このときの公共事業の大盤振る舞いは、国債発行残高を危機的な水準にまで増大させただけだった。さらに新たな経済成長へなどという言葉も、これまでの惰性に埋没する人々の希望的観測でしかない。 いま大事なことは、アベノミクスに虚構性と危険性をみている人たちとともに、連帯感にあふれた社会を創造することである。それは都市の人々が農民や農村を守り、農民たちが都市の人々の食文化を守っていけるような社会である。それに向けて活動しつづけることが、私たちのアベノミクスに対する返答なのだと思う。


【著者略歴】
うちやま・たかし
1950年生まれ。1970年代に入った頃から、東京と群馬県の山村・上野村との二重生活をしている。現在、NPO法人・森づくりフォーラム代表理事など。

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