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特集:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業

2015.11.04 
我が国の農業は確固たる国家戦略のもとに確立すべき一覧へ

加藤一郎 (株)ジュリス・キャタリスト取締役(前全農代表理事専務)

 多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
 今回は、前全農代表理事専務で(株)ジュリス・キャタリスト取締役の加藤一郎氏のご意見を掲載する。

◆オア教授の遺言

 私は1980年代前半に米国の全農燐鉱(フロリダ州タンパに本社を置いたリン鉱石鉱山会社)異動になり、そこでマーク・T・オア南フロリダ大学教授と知己を得た。氏は我が国の終戦直後、青年将校としてGHQで安倍能成文部大臣ともに我が国教育制度改革を行い、占領政策であった国語の英語化に反対し、当時米国で最新の制度であった「6・3・3制」を導入した。最後にお会いした時に、氏はわが国の農業に対して、「マッカーサー将軍のもとで農地開放政策を行い、民主主義の基本であるか家族農業を確立することを求めたが、その後、米国の農業そのものが、効率化のみを追求し、家族農業から会社経営方式に移行してしまった。このことが米国の国民、風土にとって不幸であった。国土の狭い日本は家族農業を基本とすべきだ。また、農業は確固たる国家戦略のもとに確立しなければならない。米国はF・ルーズベルト大統領(1930年代)ニューディール政策において『土の綻びは、国の綻び』として国家戦略として農業を国の基本産業とし位置づけ、土壌侵食問題の挑戦、土壌保全から環境保全政策につながる体系を確立してきた。日本の国家戦略としての農業は如何なるものか」と問われたことが忘れることができない。
 

◆我が国は連邦倒産法12章が存在しない

 米国の農業は、(1)国家として食糧供給という公益的側面がある。(2)農業経営は、他の業種より不安定な基盤のうえで経営されている。(3)農業経営者はまとめて収入をえる形態をとることが多く、農産物の相場、気象条件等による生産の不安定性という特殊性がある。(4)主たる財産は農地、農業機械であり、担保権が実行されると再起更生が不可能になること等から、企業の民事再生(11章)と区分した農業経営者の再生・債務整理の条項(12章)がある。そこには
 ★ 農業経営者は債権者からの申し立てによって強制的に清算手続きが開始される子とからの保護がはかられている。また、手続きが開始されても、債務者が財産(農地、農機等)の占有を継続できる。
 ★ 弁済計画が天候等の不可抗力によって頓挫しても免責、弁済期間の延期等の制度がある。
 日本の農政は規模拡大に向けて舵を切り替えてきた。投資規模が増大したなかで、TPPによる農産物価格の下落によって大規模農家、生産法人の倒産のリスクは増大している。我が国には米国のような連邦倒産法12章は存在しない。かつて富山県で稲作の生産法人が倒産した際に起こったように借り上げていた農地は返却されても耕作者が存在せず耕作放棄地化するリスクに全国各地で直面することになるのではないか。
 

◆フランス農業の「栄光の30年」と日本農業の「衰退」の違いはどこからきたか

 フランスは「農業を強くしなければならない。食糧は自給」との強い政治的意思に基づき1960年に農業基本法(LOA)により農業の構造政策は急速に進展し経営規模は約70haと60年間で約7倍に拡大し、平均年齢も40歳半ばに10歳若返り、食料自給率120%の農業大国に生まれ変わった。わが国も同様の課題から農業基本法1961年に制定し、2010年新たな食料・農業・農村基本計画を策定したが、自給率は40%に低迷し、構造改革が進まなかった。その要因をどうみるのか。
 フランスは1950年代から構造改革を進め、成功した要因は、農地売買を仲介する「農村土地整備公社」(サフェール)農地の先買権と規模拡大の意欲をもつ農家に選択販売権を持たせたことにより、規模拡大と宅地化や商業地の転用を防げた。フランスの農地賃貸借改革は40%を占める小作地の存在を前提に貸借権の強化安定をはかった。フランスは当初から家族経営の借地型経営の発展モデルを追求。離農終身補償金制度は経営主の世代交代と、農地流動化を促進するため引退年齢(60歳以上)の農業者が経営移譲をした場合、全額国庫拠出の基金で負担。また、家族経営の農業生産法人化、国民の食文化の執着、マルシェの活況 条件不利地域対策(直接支払い)の強化、農用地の多面的価値、機能の承認 新規就農者支援制度が効果をあげてきた。

  ×  ×  × 

 我が国の今後の農業政策は、産業としての農業と地域政策、社会政策としての農業をはっきり区分して政策を展開しなければならない。その際には無視されやすい我が国の農業の特殊性でもある副業的農家も含めた小規模生産者による農業が地域社会を支え、国土保全に寄与し、健康寿命を上げている事実にも着目する必要がある。TPPによる農産物の価格下落が始まる前に。単なる経済性だけを追求するのではなく、我が国の独自の環境、食文化を重視した日本型農業のあり方を確立し、都市と地方のバランスの取れた発展を考えないと健全な国家になり得ないと考える。

なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。

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