農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【現地ルポ】上越市(新潟県)園芸振興 地域に活力 直売・食堂にぎわう2016年10月17日
米だけに頼らぬ営農確立へ
JAえちご上越の農産物直売所「あるるん畑」と、この夏にオープンしたばかりのレストランの「あるるんの杜」。JR上越妙高駅から車で20分ほど、市役所から川一つ隔てた閑静な場所にある。同JAが取り組んでいる園芸振興計画「エッサプラン」で生産した野菜を販売し、さらに実際に味わってもらおうという「地産地消」の拠点でありJA期待の施設である。
直売所には、加工研究室、農家のお母さん手づくりランチの「レストランおかげさま」がある。さらにそこから200mばかり離れたレストラン「あるるんの杜」ではゆっくりバイキング料理を楽しむことができる。さらに地元の米粉と野菜、果実を使った米粉パンやスイーツ、ジェラート、ジュースなどがある。開店当時、1億円余りだった「あるるん畑」の売上げは現在6億4000万円余り。「農家の所得増大に大きく貢献している」と同JA営農生活部・小島康彦部長。現在は離れている両施設を今後近づけ、集客力を高めたい考えだ。
JAは平成28年から園芸振興計画(エッサプランⅡ)を実施している。米だけに頼らず、多彩な農畜産物の生産で農家所得を確保しようというもので、直売や加工などを視野に入れた取り組みになっている。それに応えたのが「あるるん畑」「あるるんの杜」で、市とJAが一体となって取り組んだ象徴的な施設である。
一方、主力である米は、集落営農を中心とした組織化に力を入れている。上越市は日本海から長野県境にまたがる豪雪地帯で、平場から中山間地まで整備された水田が広がる。それだけ農村集落組織がしっかりしており、生産単位としてだけでなく、コミュニティとしてさまざまな活動の基礎単位になっている。上越市とJAえちご上越は、この集落を基盤に生産の組織化を進め、さらに進む高齢化や住民の減少に対応し、集落を越えた広域連携組織である「農業振興会」をつくっている。
同市は2005年に周辺13市町村と合併したとき、当時の特例法を全国ではじめて導入し、地域自治区を設けた。地域自治区制度とは地域住民の声を行政に反映させるための制度で、住民の意見を集約する地域協議会が区域ごとに設置されており、公選制で住民から選ばれた委員(ボランティア)が、地域に関する市の施策や施設運営などについて協議し、市長に意見を伝えることができる。また行政側は地域活動のとりまとめなどを通じて住民を支援する。
農業振興会は、こうした行政と住民の密接な関係のもと、中山間地域直接支払制度への取組の中から生まれた。現在市内には28の地域自治区があり、そのうち中山間地域を抱える11区に12の農業振興会が設立されている。最初に振興会ができたのは清里区の櫛池地区で、雪深い山間の集落が1つのまとまりになって集落機能や農地を守り、次の世代に引き継ぎたいとの思いからスタートした。その役割は個々の集落営農の弱いところを補いつつ、共通する問題の解決を図ろうというもので、農業の視点から、さまざまなコミュニティ活動を展開する。この取り組みは平成20年の農林水産祭むらづくり部門の天皇杯受賞に繋がった。上越市はこの仕組みを中山間地域全域に広げた。
上越市吉川区の稲作農家9人で23haを経営する農事組合法人原之町代表の笹川肇さん(61)は、この春に退職するまでは市の職員として農政に関わり、地元吉川区をはじめ多くの法人立ち上げを支援してきた。「農業は水を介して集落コミュニティをつくってきた。それによって集落営農は成り立っており、経営とコミュニティをどう調和させるかという視点が必要」と、集落営農組織の意義を強調する。
なお、農事組合法人原之町は、構成員の奥さんたちで組織する任意組織の野菜生産組合を持ち、学校給食用の野菜などを作っており、水稲と野菜の複合生産組織づくりが進んでいる。
(写真)地産地消のレストラン「あるるんの杜」。刈り取り前の水稲と笹川さん
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日