農政:緊急特集:日米貿易協定
【緊急特集:日米貿易協定】日米貿易協定に思うこと ― How dare you 加藤好一 生活クラブ連合会会長2019年10月9日
日米貿易協定に、日米両政府は米国で10月7日(日本時間8日)に正式に署名した。安倍首相は「ウインウインの合意」と盛んにいっているが、本当にそうなのか? 4日に開会した臨時国会で審議されることになるが、この最終合意内容についてどう考えるのかについて、各界の意見を寄せてもらうことにした。
第1回は、消費者である生協から加藤好一生活クラブ会長から緊急寄稿していただいた。
第200臨時国会が始まっている。本国会における首相の所信表明演説で際立っていたのは、改憲(そのための国民投票法改正)と日米貿易協定の承認であった。
私はこの演説を聞き、9月に開かれた国連気候行動サミットにおけるスウェーデンの高校生グレタさんの訴えを思い出した。彼女は、温暖化問題への日本を含めた先進国の消極(否定)的な姿勢を涙ながらに避難し、怒りをあらわにした。
「私たちは大量絶滅の始まりにいます。なのに、あなたたちが話すことはお金のことや永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よくもそんなことが言えますね(How dare you)」。安倍首相の所信表明を聞いて、私もグレタさんのような憤りを覚えずにはいられなかった。
首相は日米貿易協定の最終合意の会見から、この協定を「ウィンウィン」の合意と自負している。所信表明でもこれを繰り返していたが、多くの心ある人びとは、これがとんでもないごまかしであることを見抜いていた。
焦点とされた米国産牛肉のSG(セーフガード・緊急輸入制限措置)と、日本が成果をめざした自動車分野に象徴的なように、交渉は米国の圧力に屈する形で進んだ。その合意内容は「米国第一主義」で貫かれ、しかもトランプ氏の選挙支援といわれても仕方がないようなものとなった。加えて、国内の飼料用トウモロコシの害虫被害による不足対策と称する、米国産トウモロコシの追加輸入の"おまけ"までついた。
いずれにしても、日米貿易協定がTPP水準を超えていることは明白だ。これを多少とも緩和するには、TPP11加盟国等との交渉が課題になるがこれもイバラの道だろう。それにしてもここまで譲歩するのはなぜか。日本は安全保障を米国に依存しているから仕方がないという向きもあるが、私は「対米従属」が不文律であるかのような、この国の姿勢に問題があると思う。
安倍首相は先の演説で、協定は「ウィンウィンの結論」であったが、「それでもなお残る農家の皆さんの不安にもしっかり向き合い、引き続き、生産基盤の強化など十分な対策を講じる」と述べた。確かに生産基盤の強化は待ったなしの課題だ。しかしこれも見せかけの(しかも暫定的な)ものに終わりはしないかという懸念がある。
一方で、日本の食料自給率(カロリーベース)が過去最低(37%)になるなか、向こう10年の農政の方向性を示す食料・農業・農村基本計画の見直しが、いかにも短兵急な形で進んでいる。焦点は生産基盤の強化と自給率向上の課題だが、見直しを検討している農政審企画部会でもそういう声が大きいと聞く。
これに関連して、田代洋一先生(横国大・大妻女子大名誉教授)が9月29日の日本農業新聞で、「自給率低下の最大・直接の原因は、国境措置の引き下げである。生産基盤の弱体化についても国境措置がしっかりしていないから、離農、投資意欲減退、青年層の農業離れが起こったという前後関係を見失ってはならない」と述べておられる。
自民党は先の参院選で、「家族農業、中山間など多様で多面的な農業を守り、地域振興を図ります」と選挙公約したがこれを忘れてはならない。中山間直接支払いや就農支援などの議論も先ごろあったが、生産基盤の強化と言うなら総合的で一貫性のある、キメ細かいアプローチが不可欠だろう。これがそのように見えてこないから不安を抱かざるをえない。
昨今の大型通商協定加盟国からの、畜産物や乳製品等の輸入品が巷にあふれてきている。消費者も消費増税などもあり生活が苦しいが、決してチーズやワインが安くなったと喜んでばかりいるわけではない。農業の有する多面的機能や、これがもたらす農村地域の美しい景観を大切に思う消費者も多い。
私たち生協は、このような消費者(組合員)の力をより強固に結集し、新たな局面における生産者との提携関係を模索したい。
本特集の記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日