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特集:持続可能な世界を拓く SDGsと協同組合

2020.01.10 
提言・JAの現場から 尾崎JAたじま組合長 コウノトリと共生へ一覧へ

豊かで住みやすい地域づくり
尾崎市朗 JAたじま代表理事組合長

 SDGsは、子どもや孫、さらにその先の未来の世代も安心して暮らすことができるように、今、われわれが取り組むべき目標である。17の目標には持続可能な農業や豊かな農村づくりなどJAがすでに実践していることも多い。その意味では、食と農を基軸に地域に根ざした協同組合であるJAが、それぞれの地域特性に合わせ組合員とともにどんなJAをめざすのか、それがSDGsの実践でもあるといえるだろう。兵庫県・JAたじまの現場から提言する。

地域あげてコウノトリを育む米づくり地域あげてコウノトリを育む米づくり

◆SDGsの最も近くに

 JAたじまでは、令和元年度の年度はじめに役職員600人を集めて事業進発大会を開催し、今年からは、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献を意識した活動をしていこうと、特注で制作した17色のSDGsバッジをすべての役員・職員が胸に着け、(一社)日本協同組合連携機構の勝又博三代表理事専務(当時)から「SDGsとJAの役割・可能性」と題した講演をしていただいて意思統一を行いました。

 最近の世の中の動きには、2つの流れがあるように思います。主軸となっている動きは、「今だけ、金だけ、自分だけ」というアメリカのトランプ大統領に代表される「三だけ主義」が世界中を色濃く覆っているように思います。米中貿易戦争や各国との経済協定の囲い込みなど、紛争前夜のような世界的な危機感を感じます。

 対抗軸となっているのが協同組合です。相互扶助で組合員や地域住民の利益と権利を守り、命と健康、資源と環境、暮らしを守る存在であり、2012年に国連は「国際協同組合年」を制定しましたが、SDGsの実践においても協同組合の活動が強く求められています。

 私たち農業協同組合は、農業を通じて自然環境と深く関わり、生産者と消費者と農畜産物を通じて豊かな暮らしに貢献することを使命としています。まさに環境、社会、経済とのバランスを統合した事業活動をする組織でありますからSDGsにもっとも貢献できるものです。JAたじまの実践から私たちの歩むべき方向について提言したいと思います。

JAたじま代表理事組合長 尾﨑市朗JAたじま代表理事組合長 尾崎市朗

◆有機栽培にこだわり

 兵庫県北部の但馬地域にある豊岡市は、1971年に日本から絶滅した特別天然記念物のニホンコウノトリが最後に生息していた地域でした。絶滅した理由に、魚毒性の強い農薬やほ場や水路などの生息環境の悪化が言われています。

 県、市、農協、そして生産者など、地域の関係者は、なんとか絶滅したコウノトリが野生で繁殖できるような環境を取り戻したいと長年にわたって苦労を重ねてきました。

 1988年多摩動物公園でコウノトリの人工孵化に初めて成功。兵庫県は1999年、豊岡市に県立コウノトリ郷公園を設置し、人工飼育を本格的に開始、2002年には100羽を超えるところまできました。

 コウノトリの郷公園の近隣の稲作生産者は、このコウノトリが野外で生息するようになって再び滅びるようなことは絶対にさせないと化学肥料や農薬を使わない農法の研究を重ね、「コウノトリ育む農法」を確立しました。

 2003年(平成15年)5人の生産者が確立したこの農法は、とにかく水田にコウノトリのエサとなる生き物を多く生息できるようにすること。有機栽培にこだわって栽培期間中は一切の化学肥料を使わず、殺虫剤や殺菌剤は使わない、除草剤も使わないか、魚毒性の極めて低いものを1回だけにしている。水田にイトミミズが生息しやすいようにヌカや糖蜜を入れ、水田表面にトロトロの層を形成させることで雑草の芽が出ないようにする。また、水管理もカエルが多く生まれるように中干しを延期したり、冬も水を溜めて生き物の生息を促します。

 2005年、ついに野外にコウノトリ5羽が放鳥され、野生復帰がスタートを切りました。コウノトリ育む農法に取り組む農家も徐々に増え、51人となった生産者で2006年にJAたじまコウノトリ育むお米生産部会を設立しました。今年は299人にまで増えてきています。

 野外に生息するコウノトリも180羽を超え、全国を飛び回っています。徳島、福井、京都、鳥取、島根でも巣をつくって繁殖するようになりました。

 コウノトリ育むお米は、2003年の最初の出荷量6.9トンから2019年産では1461トンまで拡大してきました。現在では、但馬地域全域にこの農法による水田が広がり、コウノトリも安心して但馬各地で巣をつくって繁殖ができるようになりました。

 消費者がこの米をより多く買って下さることで生産者は作付けをさらに増やすことができ、コウノトリも増えていける。簡単な農法ではないが、さらなる拡大をめざしてJAも販売に努力していきたいと思います。

◆次世代へ学校給食で

 「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」という目標については、JAたじまは、生物多様性と環境保全にこだわった農業を中心におきながら次世代対策を含めて持続可能な農業の促進に取り組んでいます。

 コウノトリの野生復帰のために、豊岡市の小学校では、子供たちが自分たちが出来ることとして、学校給食でこの米を食べればこの農法の田んぼを増やすことができるのではないかと考え、児童代表が市長に直談判に行きました。その結果、2007年から市内の小学校の給食でコウノトリ育むお米の使用が始まり、2017年からは週5日となりました。

 また、JAでは、「あぐりキッズスクール」を2009年から小学生を対象とした食農体験として開催し、地元農産物の栽培や生き物調査など、管内3か所で毎年続けています。
 次世代も地域の農業のあり方に強い関心をもってくれるようになってきました。

◆生協の要望に応えて

 「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」という目標には、JAたじまは、全国のJAの中でも最も早くから取り組んできた歴史があります。

 今から30年以上も前の1988年からコープこうべの組合員からの熱心な要望を受けて、アンモニア窒素肥料を使わない有機肥料で、減農薬とする「つちかおり米」というブランドの米づくりを続けてきた歴史があります。環境保全型稲作を生協とともにこんなにも長くJAが取り組んできたというのは、おそらくわが国でも先駆的な取り組みだと思います。

 但馬の生産者の中には、こうしたSDGsが目標とする生物多様性の保護や土壌の劣化を防ぐような農業のあり方を大事にしながら米づくりをしたいという生産者が多くいたということと、営農指導を担当する農協や普及センター、そして生協と全農などの関係者の協力があったから続いてきたと言えます。

◆消費者をファンに

 「持続可能な生産消費形態を確保する」という目標では、但馬各地で、お米の生産部会ごとに、積極的に消費者や流通業者と産地交流会を開催し、田植や稲刈、収穫祭、生き物調査などで産地の自然の姿や生物多様性を確認していただき、ファンになっていただいています。そうした消費者のファンが増え、消費が増えることでこそ、生産量を増やすことができます。おかげさまで年々、消費量も増え、生産量も増やすことができるようになりました。

◆人間らしい働き方で

 「包摂的かつ持続可能な経済成長およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」。少し、難しい表現となっている目標ですが、私たちの農業に置き換えてみますと、健康的でおいしい高い価値のある農産物をつくり、安定的な経営を実現するとともに人間らしい働き方で誇りをもってやっていけるようにしようということになります。

 JAたじまでは、米も野菜も畜産物も生産農家の農業所得の拡大について、こだわりの高付加価値生産、ブランド化戦略を基本として販売活動に力をいれてきました。

 コウノトリ育むお米の無農薬に取り組む若手の生産者4名をJAが組織してグローバルGAP(生産工程管理の国際認証)を2018年1月に取得し、令和元年産では76.6トン、一部、輸出もしていますが、世界中の消費者・流通業者から本物の無農薬・有機農産物であることの信用を得ています。ぜひとも東京オリンピックでも使ってほしいと願っています。グローバルGAPに取り組む生産者は、いずれも大規模経営者であり、安定的なすばらしい経営をしています。

◆コウノトリ米で安心

 「包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市および人間居住を実現する」と「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」という目標は、いまや180羽ものコウノトリが但馬の自然界で巣をつくって暮らしていることに象徴的に表れています。環境を汚さない農業のあり方を追求する多くの生産者とともに但馬に暮らす人々は、コウノトリが身近かに舞い降りてエサをついばむ姿を暖かく見守っています。

 また、但馬の高原では、無農薬有機の野菜づくりも30年以上も前から生協との要望に応えて取り組んでいますし、「コウノトリ育むお米」の無農薬でお米のアレルギー反応が出なかったという消費者のレビューもあります。

 子どもからお年寄りまで、安心して食べていただける農産物づくりこそが、わが国の農業が目指すべき方向であり、輸入農産物に対抗できる最も重要な方向であり、SDGsの目標とする方向でもあると思います。

※尾崎組合長の「崎」は正式には異体字です。

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