農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
新たな食料安全保障体制の構築を 四條畷学園大学 嘉田良平教授【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(上)2020年5月20日
農業・農村の価値見直す好機到来
新型コロナウイルス感染拡大で国際的なサプライチェーンが崩壊し、食料需給にも重大な影響を与えている。こうした中、最も頼りになるのは国産農産物。四條畷学園大学の嘉田良平教授は、今こそ自給率向上と安全・安心を両立したリスク管理を図り、食料安全保障体制を見直すべきだと提言する。
四條畷学園大学 嘉田良平教授
◆市場メカニズムの限界が明白に
新型コロナウイルス感染の下では、市場メカニズムは十分機能しないことが明らかとなった。グローバル化が進む中、各国が輸出制限に踏み切り、国際的なサプライチェーンが完全にストップしてしまったからである。
新型コロナウイルス感染が拡大する中、海外から輸入されるはずの原料・資材・中間加工品が入手不可能となり、その結果市場メカニズムは機能不全を起こし、生産・流通・消費のあり方が大きな変革を迫られることになった。恐らくウイルス感染収束後も様々なリスクが高まるとの予想から、各国は国内生産を優先させる方向へシフトすると想定される。
注目したいのは、新型コロナウイルスという未知の感染症は、一瞬のうちに世界各国に拡散し多くの命を奪ったこと。そして、これがグローバル経済拡大の結果として生じたという事実である。さらに、都市化および人口の集中化が生態系の破壊を伴い、感染症被害を大幅に拡大させてきたという点も忘れてはならない。
都市化の進展は野生生物の生息地を奪い、野生動物と人との接触機会を増やしてきた。これが新型コロナウイルスの元凶となっていることを知るべきであろう。新たな感染症の登場は、ある意味で環境破壊を続ける人類に対する警鐘と受け止めるべきではなかろうか。対極的に、農村部は人口が密集せず豊かな自然環境を持つことが再認識されたようだ。
では、これまでの市場システムに代わる新たなシステムとは何であろうか。今回のコロナショックにおいて、人と人のつながり、地域内における助け合いが大きな支えとなった。それは、農村の伝統である「協働、共助、共生」という従来の市場メカニズムとは対極的なシステムであり、農業が長い歴史の中で育んできた価値である。実際、ウイルス感染が拡大する最中、各地で様々な協働と支え合いの取り組みが行われ、人々の共感を得たことが報告されている。
◆国産農産物こそ最も頼れる存在
今回のコロナショックの中で、地産地消の重要性と農業・農村の価値がキーポイントとなったことを強調したい。そこで、農業の現場では何が起き、農業界はどのように対応したのか振り返っておこう。いくつか興味深い現象が明らかとなったが、特に深刻な経済的落ち込みの影響を被ったのは、飲食店や旅館業界である。そして、農業界もまた感染リスク対応を迫られることになった。
観光客が激減し旅館や料亭などは不振となり、高級食材の売れ行きは完全に止まってしまった。他方、巣ごもり消費として生鮮食品が伸びず、ストック可能なカップめん等のまとめ買いが横行した。あるいは、長引く小中学校の休校措置によって給食が停止し、牛乳や野菜など一部農産品の売れ行きが大幅に低下したことなどが各地で起きた。
これまで輸入に依存していた農産物流通がストップし、外食等の業務需要も大きく減少した。さらに外出自粛措置や諸外国の国境封鎖措置による訪日インバウンド客の激減等、農産物・食料における観光需要も激変して多くの食材が値崩れを起こした。
このように、世界の食料貿易システムが大きく崩れ需給構造が変化する中、国民の胃袋を国際市場に依存できなくなるとともに、国内生産が優先されるのは当然であった。今回のコロナショックが拡散する中で、一つの大きな成果は「国産農産物こそ大切な一番頼れる存在」ということを国民が再認識した点である。
もう一つ国民が再認識することになったのは、農業と農村の価値あるいは役割ではなかろうか。ウイルス感染者は、東京・大阪・札幌という大都会に集中して発生した。大都会における感染リスクの大きさに比べ、農山村の方がはるかに安全であり安心できる空間であることを、国民は再認識することになった。農村の健全さと安心感は、「コロナ疎開」という新語を生み出したことからも明白であろう。
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